生まれ変わったー! というよりは、トリップしたという方が正しい気がする。幼児化してないし、逆に身長が伸びた気もする。

 私は孤児院育ちのジャパニーズとどっかのハーフで、シュテルンビルト――腹のでっぱったレジェンドっつーおっさんが正義の味方なんぞをしている都市――在住、らしい。閻魔様がアフターケアとしてくれた手紙にそう書かれていたからそうなんだろう。ソファに座って、なんだか長く細くなったような気がしなくもない脚を組む。


「てか、シュテルンビルトなんか知らんし。異世界? 近未来?」


 預金通帳には二百万円やなくて二百万シュテルンドル。通帳にはユリウス・カイザーリンク。うちの新しいお名前でござる。性別はもちろん男――男?

 股間を掴んでみた。男だった。


「あ、アギャァァァァァァア!!」


 叫んでソファから飛び上がる。部屋の中を走り回って洗面台を探す。二つ目に開けた扉がちょうどそれで、台に両腕を突っ張って鏡を覗き込めば頬にかかる程度の黒髪に青い瞳の青年が同じ表情をしてうちを見つめていた。鼻はそんなに高くはないが形が良く、猫目気味の双眸ははっきりとしている。うは、二枚目っ。


「まさか性転換とは恐れ入ったわ……」


 TSとか驚きすぎて目ン玉ポーン。

 股間から手を離せないままふらふらと2LDKの広い部屋を歩き回る。ちゃんと風呂がトイレと分けられていることに安堵したり、ベッドとかの家財道具がしっかりしたものだってことを確認してからまた元の場所に戻る。そういや手紙は二枚あった。やっと股間から手を放し、手紙を読み上げる。


「えー……この世界は現代日本と比べると治安が悪い。五つ目の願いである『とりあえず凄い超能力』はこの世界でいうNEXTという能力に分類され、力の傾向は念動力である。活用次第では最強の能力だから練習するように――ふんふん」


 何か困ったことがあれば自由にメールしてね! と書かれたその下にはwemma-judge-of-justice@……と、どう考えてもメールアドレス以外の何物にも見えないものが書かれていた。


「軽すぎやせんか、閻魔様!」


 てか、念動力って何やねん。そう内心呟いて、メールすれば良いのだと思いつく。


「メール――携帯どこや」


 探せば充電器に刺さった青い携帯が部屋の端にあった。歩くと股間に違和感があるが今のところは無視だ。携帯を取ってソファにどっかりと座りカチカチと入力して送信する。指先の労働を長年続けたおかげかとても器用な指先で、長い間携帯電話とは無縁な生活を送っていたというのに動く指は滑らかだった。

 ぐう、と伸びをすれば背骨がパキパキと鳴る。伸びて伸びて伸びて、一番伸びてからハッと息を吐いた。ソファの背もたれに倒れ掛かり、比較的高い位置にある天井を見つめる。体の変化で、もう自分が別の存在になったのだと半分くらいまで理解できた。これからはギャルゲーを通販じゃなくて店頭で買える――というのは冗談として。


「腹、減ったなぁ」


 そういうと同時に腹がグウと鳴った。正直な腹に苦笑いし、腹筋に力を入れて起き上がる。確か台所兼玄関には小型の冷蔵庫があったはずだ。開けて中を見るが、空だった。


「ミネラルウォーターもないとか、電気を無駄にしとるだけやん!」


 オレンジ色の光が空っぽの冷蔵庫内を照らす。これではお金を下して何か買い物をしなければどうしようもない。通帳とカード、家の鍵を持ち、手紙で暗証番号を確認して部屋を出る。カップル御用達のマンションらしく何組ものカップルとすれ違い、居心地悪さを感じながらマンションを出た。


「このマンションで一人身なん、少ないんちゃうやろか……」


 少し頬を引きつらせながらそう一人ごち、どっちが銀行なのかも分からぬまま適当に歩き出す。

 それが新たなレジェンドの始まりとは露知らず。




Danach→


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