神の手が滑ったとかで死んだ主人公が、『俺最強すぎて困っちゃうな、ハハ☆』な能力を与えられて転生する――というのがテンプレートな転生オリ主ものだとばかり思っていたのやけども。どうやら違ったらしい。


「地獄行きね」

「だが断る」


 マンションの十五階から落下してきた鉢植えが頭にクリティカルヒットして死んだうちは、子供の一人もいないとはどういうことだと閻魔大王に怒られた。――このご時世、十七で子供がいるほうがおかしい。そう主張して地獄行きに文句を言うたにも関わらず、閻魔大王はうちを地獄に送りよった。親より先に死んだこと以外に目立った親不孝はしとらんはずなんやけど。

 うちが送られたのは生まず地獄で、灯心で竹の根を掘るという苦行を課された。十七で子供がいないから生まず地獄ってどうやねん、十四歳の母にでもなれっちゅーんか。

 灯心で土を掘るのはやはり難しくて最終的には手で掘ることになる。そのせいで爪が剥がれて悶絶したり爪が剥がれたところに土が染みて悶絶したり、敏感になっている指先に竹の根が当たって悶絶したりした。横で私と同じように竹の根を掘っているお姉さんと奇妙な連帯感が生まれたのはどんくらい前のことやろうか。


「明日、ついに私も転生できるのよ」


 長年連れ添った――というと少しおかしい気もするが、それくらい気安くなった――お姉さんがそう言った。ついでに、地獄で罪を贖っても天国には行けない。転生すんねん。


「おお、そりゃ良かったやん」

「うん、すごく楽しみなの」


 エヘヘと顔をほころばせるお姉さんに、うちは土を掘る手を止めて拍手した。罪人は一定期間罰を受け、転生する。細かい日数なんて知らんが、少なくとも一週間や十日では無理だ。――そしてこれが一番重要なことやけど、この世界は『一日』がすごく長い。日が昇ってから沈むまで一年くらいかかっとる気がする。ついでに地獄は月月火水木金金。お休みや睡眠時間なんて甘いものがあるわけないし、気分的には八か月の昼間と四か月の夜間を何回も繰り返しとるような感じや。


「私も早く転生したいもんやなぁ。もうどんだけの付き合いやったっけ?」

「うーん、三十日くらいかしら?」

「そうやったっけ。こうして考えてみると現世よりも地獄で生きてる方が長う感じられるんやから不思議なもんやね」

「そうね……罪を贖うことは罪を犯すことよりももっともっと難しいのだわ」

「ははあ。たった十七年の人生やったけど、まさかこんだけかけてもまだ罪が残ってるっちゅーんは……贖うんは本当に難いんやな」


 灯心を振り回しながらそうため息を吐けば、お姉さんが目を剥いた。真ん丸な目で見つめてこられると怖いんやけど。


「まだあなた十七歳だったの!?」

「え、そうやけど。いくつに見えてたん?」


 老け顔やなとは言われてきたが、そういくつも上には見えないやろうとうちは思っとった。よくて二十か二十一か。


「二十代後半くらいだとばかり……」


 そりゃ酷い。ちょっと泣いて良いかね?


「でも十七歳で生まず地獄に来るなんておかしいわ」

「せやんなぁ」

「明日お迎えに来る鬼に聞いてみましょ? それが良いわ」


 お姉さんの勧めにうちは頷く。そして、これが始まりだとは、その時はひと欠片も思わんかった。




Danach→


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