念動力はかなり便利だった。つまり、意思のないものでもある物でも無理矢理動かせてしまうのだ。人形を操ってダンスを踊らせたり、大気中に空気の床を作ってその上を走ったりできてしまった。もちろん人間を洗脳するとかはできないが、脱力した状態の人間を操って紅白の旗上げをさせる程度のことならできる。精神的なものでなければたいがい操れると分った時に思ったのは、「なんやこのチート」だった。今でもその感想は撤回されていない。

 一昨日買ったスーツをビシッと着こなし、ソファの前で膝を揃えて今日の犯罪を待つ。――ヒーローが犯罪を待つとかおかしい、というのはご愛嬌だ。オレはヒーロー関係者ではないのだから、連絡が来るわけがないのだ。

 待ち始めて数時間。烏龍茶を飲んだりトイレに行ったり(病院で尿瓶を出された時に股間については諦めが付いた)してダレてきた時、遂にHERO-TVが始まった。ソファから立ち上がる。場所はジュリア・レイニーデイ記念館。歴史的に有名な画家であるジュリア・レイニーデイの絵が数点盗まれたらしい。犯人はヘリで逃亡中――空を飛ぶヒーローでもいない限り捕まえるのは無理だ、とはキャスターの絶望の声。空を飛ぶバイクはあるらしいのだが、犯人に動力部を撃たれて落下したらしい。そして替えのバイクはない、と。

 しかし今回はオレにとって十分すぎるデビューの舞台。他のヒーローズが手をこまねいている中、ニューヒーローが現れる。素晴らしい。ベランダに出て、ヘリが二機飛んでいるのを見る。あっちか。

 オレは飛び出した。買ったばかりのピンサラスーツが翻る。傍目には何もない、しかしオレにとっての道はある空中を翔る。首に巻いていた布を押し上げ鼻と口元を隠した――ヒーローとは顔を隠さなければならないものらしいから。

 履いたインラインスケートがガシャガシャと鳴る。軌跡は八の字を描き、少しジグザグとオレを舞台へと運ぶ。そしてオレの耳に待望の声が飛び込んできた。キャスターがオレに気付いたのだ。


「おおっとォ――!? 誰だ、誰なんだ!? この見知らぬスーツ姿の青年は!? 風を操るヒーローなのか、空中を翔けています!」


 HERO-TVのヘリがオレを映そうと回転する。キャスターが爛々とした目でオレを見つめてくる中、オレは少しだけ恰好を付けた。人差し指と中指を揃えて額に付けただけだが。キャスターは大興奮、視聴率アップかもよ良かったね。

 犯人の乗ったヘリは三十メートル向こうにあった。オレは自分の能力の全てを晒すつもりはないので、風だけを操ってヘリの飛行を邪魔した。設計時の想定以上の抵抗を受けた羽根はバキリと折れ、ヘリはガクンと傾いだ。下から持ち上げるように風を操り下へ。下では警察と野次馬が口を開けてこっちを見上げていた。

 そっと壊れたヘリを地上に下ろし、オレ自身もゆっくりと地上に降りた。見た目派手な方が初登場には良いのだろうが、ヘリを落下させると美術品も犯人と一緒に炎上、ついでにオレも借金で炎上――なんてことになる。オレにそんな金はない。

 扉を開けて中を覗いたら撃たれましただなんて展開は勘弁してほしいので、風を叩きつけて無理矢理扉を開ける。周囲はニューヒーローの登場に騒然とし、オレの一挙一動に敏感に反応している。いやん恥ずかしい、そんな見つめんとって☆

 破壊された扉から真っ青な顔をした犯罪者四名が銃を手に下りてきた。あーあ、今投降したら罪がその分軽くなるのに。


「銃捨て。したら許したる」

「は、はんっ! 誰がテメーみたいな奴に従うかよ!! この化け物め!」


 リーダーらしい男が震えながらそう言いきった。能力者が怖いのによく頑張れることだ。


「ほな、交渉決裂や」


 この場に揃った警察及び野次馬の皆さんはオレと犯罪者の皆さんを囲んで生唾を呑み込んでいる様子。ところで他のヒーローの皆さんはどうしたの。追いついてないの? てか銃持ってる犯罪の野次馬とか危険なんだけど警察何してんの?

 オレは右手を振って風を起こした。ちょうど胸のあたりに暴風が襲いかかった彼らはたたらを踏む。とまたそこで足元に逆向きの風を起こせばあら簡単、すってんころりと転がった犯罪者たちに野次馬の生ぬるい視線が突き刺さる。頭を打って悶絶している彼らに近寄って銃を蹴り飛ばし無力化すれば湧きおこる拍手。ここで決め台詞!


「努力には結果を、悪事には断罪を。――お天道さまに代わって、お仕置きよっ!」


 周囲がこけた。

 と、地上班なのか、女のキャスターとカメラマンが走り寄ってきた。警察が横で犯人たちに手錠をかけている中、キラキラと輝いた目でオレだけを見つめて駆け寄ってくる彼女の腰に腕を――ってあかんあかん、何しょーとしとった、オレの腕。


「天空から現れたニューヒーロー! そんな貴方のお名前は!?」

「エキセントリックや。気軽にリックって呼んでな」


 意味は変人。オレの価値観は日本人の中でも外人の中でも浮いている。他人(ヒト)とは違う歩き方をしてるオレにはこれがぴったりだ。


「見る限りビジネススーツ姿ですが、これには一体どういった理由があるのでしょう?」

「これはオレのポリシーやねん。真面目に働いてお金稼いでる人、偉いやん? 犯罪に手ぇ染めて金稼いでる人と比べるのもアレなくらいやんか。せやからこれはサラリーマンの人たちに憧れてるっちゅー意思表示やねん」


 カメラ目線でにこりと笑いながら言えば、周囲のスーツ姿の人たちから歓声が上がる。――うん。喜んでくれるんは嬉しいんやけど、野次馬している時点で真面目に働いてないやんな。働け。おら、働かんかい。


「ほなな!」


 言いたいことは言えたし、これ以上いても無駄だとオレは風を操り空へ飛んだ。明日の紙面はオレやろなー。ひっひっひ!















 「スーツで戦うヒーロー始めました」なエキセントリックことユリウスどぇす!

 ああ、どぇすがドSに聞こえた君はなんも間違っとらんで、だってオレSやから。犯罪者なんてみんな豚箱でブヒブヒ鳴いてりゃエエねん、掻っ捌いてヴィーナーシュニッツェルにして食べたろやないか!

 ああでも犯罪者の肉なんぞ食べとうないからいらんわ。犯罪菌っちゅーインフルにかかっとる奴らはみんな殺処分でええやろ?

 え、サド?――せやから初めに言うたやん? オレはSやって。

 では次回は「Am I really a hero?-本当にオレ、ヒーローですか?-」お楽しみに!

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0712






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