オレは被害者のみなさんに見送られて病院に搬送された。だが傷が抉れたりせず弾も貫通していたことから治りが早く、十日ほどで退院することができた。ちょっと貧血気味なことと風呂に入れないことを除けばまったく普段通りで良いと言われて安心している――入院費は銀行さんが出してくれたうえ慰謝料までもらってしまった。

 新聞によると犯人はレジェンドに捕まえられたらしく、そのまま豚箱にinされたらしい。少し気分がスッとする。

 そして現在のオレは買ったばっかりのなんか近未来っぽいパソコンに表示されたニュースを読み流しながら家の中で引き籠り。四百年近くお姉さんとしかしゃべらんかったオレの対人スキルなめんな。


「また犯罪かいな……。ホンマ、次から次に出てきよってボウフラみたいや。ったく、死に晒せ犯罪者。あー、傷が痛いー、だるいー、死ね犯罪者ー」


 ネットで宅配を頼んだスパークリングウォーターをお供に、これまた宅配のピザを食べる。料理作るの面倒くさいし。外出たくないし。それにまだ怪我が痛むんだもん仕方ないよ。――そうソファの上でごろりと転がって怠惰を貪っていた中、突然携帯が震え黒電話の着信音が響く。メールだ。


「なんやねん。オレにメールするやつなんておらんはずやろ――おったわ」


 つけっぱなしの充電器から外して見れば、送信者は「閻魔様☆」だった。力は使ってるのか、犯罪者になったらダメですよ云々。


「力? んなのあったっけ」


 首を傾げながら記憶を掘り起こす。電源ボタンを押したのに待ち受け画面にはまだメールのマークが出ていて、何も考えずにEメールメニューを開き受信ボックスの未開封のメールを開く。日付は九日前。入院中に来ていたらしい。全く気付かなかった。


「あ、念動力か」


 なんか凄い超能力と願ったら念動力をもらったのだった。『念動力の使い方は色々あるよ、君オタクだったから分るでしょ、お好きにどうぞ』と書かれた文面になんとなく脱力。――念動力ってのは確か、手を使わずに物を動かしたりできる力やんな。


「動けー」


 一切れのピザを指さし、上がるように念じてみる。着色料が入っていそうなくらい黄色いチーズが糸を引いて持ち上がる。――成功だ。


「おお、これホンマ便利やな! 手ぇ汚れんし」


 ピザを口元に運んでかぶりつけば、じゅわりと油が口の中に広がる。タバスコが効いてて美味い。

 念動力で瓶を持ち上げグラスに炭酸水を注ぎ、念動力でグラスを危なげなく持ち上げ口に運ぶ。念動力で自分の体を持ち上げて宙に浮かび、回転椅子みたいにその場でぐるぐると回転した。便利だ。物凄く便利だ。物理的なことならたいがいできるじゃないか。オレはにやりと笑った。この力があれば色々とできそうだと。

 そうと決まれば話は早い。チラリと見たレジェンド氏はスーパーマンみたいな恰好で物凄くダサかったが、オレは違う。オレならもっとクールにやりたい。たとえばそう、タキシード仮面みたいな皇子様系ヒーローとかどうやろうか?


「タキシード仮面、参上! なんちゃって」


 念動力を消し床にヒーロー立ち。ないマントをひるがえすふりをして恰好を付けたが、自分がお笑い芸人にしか見えなかったので却下。それに仮面付けてタキシードで登場とか、ただの厨二病患者以外の何者でもない。

 ソファに戻って座り、考えてみる。痛々しい設定は絶対のちのち恥ずかしくなるので却下だ。犯罪者の敵でちゃんと働く皆さんの味方、街中で来ていてもコスプレにならずフォーマルでも十分に使える格好。その時、天啓が下った――


「スーツや!」


 オレは叫んでいた。スーツだ、そうだ、スーツだ! ちゃんと真面目に働く人はみんなスーツだ。スーツで戦うヒーロー、恰好良い。これは絶対サラリーマンの支持を得る。働く皆さんにとって最も身近な服であるスーツという視覚的効果を訴えかければ、ヒーローだって働く男なのだという親近感が湧くだろう。働く皆さんの味方です――これや。

 あの銀行強盗は捕まったとはいえ、シュテルンビルトは毎日犯罪が起きる都市だ。あの理不尽さをオレは忘れへん。あの悔しさをオレは忘れへん。せやから……オレは、ヒーローになりたい。犯罪者はみんな晒し首にすりゃええねん。てか、したい。それを出来る力があるなら、せえへんわけはない。


「よっしゃ、やったろかッ!!」


 オレは腕を上に突き出した。怪我が治るまでは能力の確認と練習だ!




Danach→


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