結果を言えば、うちはちゃんと両親の夢枕に立つことができた。両目を真っ赤にした二人に申し訳なさが募る。うちを見た瞬間縋り付いて泣かれたけど、やっと落ち着いたから未練っつうか、親に見つかりたくない部類の処分をお願いした。


「あとなあ、クロゼットの上の棚のダンボールやねんけど……麻衣に全部渡してくれへん? あの子やったらアレの処分わかっとるやろし」

「クロゼットの上のダンボール? 分かった。全部麻衣ちゃん渡しゃええんやな」

「うん」


 男性向けエロゲなんて見つかったらもう死んでまう。――すでに死んどるんやけど。


「思えばあんたはホンマ変な子やった。自分も女の子のくせして彼女連れてくるし、お兄ちゃんからエロゲ借りるし自分でも買っとるし。子育て間違おたんちゃうかって何度も思たわ」


 ……ん?


「せやせや、お父さんも何回お前のエロゲ借りに行ったか」

「ちょい待てや、お父さんちょっとお話しよか」

「タンマ、お母ちゃんタンマ!」

「親父、お袋……」


 なんつう締まらん両親なんや……泣けてきた。お袋が親父を殴ってる姿に更に泣けた。このままでは親父が悲惨なことになりそうなんで話題を変える。


「せや、聞いてぇや。うちもう転生が決まってん!」


 お袋が顔を上げる。


「ほお、そりゃどこや。また産んだろか?」

「せやせや、お前のためやったら父ちゃんも母ちゃんも頑張るで」


 お袋の言葉に堪えきれず座り込んで、涙が出てきたけど止められん。四つの願いの四つ目、同じ両親の元に生まれたいっつえば良かったか。――後悔してももう遅い……。


「無理やねん……無理やねんけど、せやけどな、来世きっと幸せになるから。楽しい一生を過ごすから、うちが死んだこと悲しまへんと楽しく老後過ごしてな」


 涙を拭ってそう伝えてれば、夢ん中の我が家が崩れ始めた。もう時間らしい。――半分はお袋が親父を折檻すんのに終わったっつうなんとも言い難い時間やったけど、楽しかった。


「んじゃあ、元気でやってな。うちは賽の河原にはおらへんから、安心して往生してちょーだい。兄貴と麻衣によろしく言っとって」

「由里子ぉ」

「由里ちゃん」


 親父もお袋も、ただでさえ赤い目元を更に赤うしてうちを見つめる。来世で会えるなら、またこの両親のもとに生まれたいなあと思いながら。








 閻魔大王の元に戻ったうちはそのまま転生コースに乗せられた。人力トロッコは文化祭やったら楽しいやろうけど、マジ物やと寂しさが募る。これも地獄の苦行なんやろう、真っ赤な顔してトロッコを引っ張る人たちが物凄く哀れで見てられんかった。遠い目で風景を見る。

 一体どんだけの距離を移動すれば転生できるんやろか、なんか延々と山が連なっとるんやけど。目的地なんざさっぱり見えへんけど、あんの?


「鬼さん」

「はい、なんでしょう」

「あとどれくらい乗っていれば良いのでしょうか」

「その時どきに寄りますので、分かりかねます」

「そう、ですか」


 その時どきに寄るって、何故に。距離が開いたり縮んだりすんのかね、なんてファンタジーな。――天国地獄と言っている時点でファンタジーやったな。忘れとったわ。

 トロッコを引くおっさんが倒れた。横でチャリに乗っとった赤鬼が鞭を振ってピシャピシャ痛い音を立て、見ているこっちがもう止めたってと言いたくなる程やった。うちも地獄に来てすぐはよお鞭打たれとったな、そういえば。


「倒れたということはもうあと十分くらいで着きますね。転生は楽しみですか?」

「ええ、まあ。この場で楽しみだなんて気楽な会話をするのは気分的に物凄く憚れますが」


 悲惨な状態のおっさんたちが視界にある限り、うちが単純に転生を楽みにすることはないやろう。

 おっさんが倒れたんで止まったトロッコが再び動き出す。始めはゆっくりと、だんだん一定の速さで動くトロッコ――始めはキバって、だんだん顔を真っ赤にしてくおっさんたち。もう家に帰りとうなってきた。ついでにトロッコが重い原因はこの鬼さんで、長さ三メートル半はある金棒に巨大な体躯、重うないわけがない。

 そして十分ほど過ぎただろうか。鬼さんがトロッコから降りた。そしておっさんたちもトロッコから手を放す。慣性の法則に従いのろのろと動くトロッコに取り残され、うちは鬼さんを見上げた。


「良い来世を」

「は?」


 トロッコは急加速し、突如目の前に現れた崖を飛び――落下してった。もちろんうちを乗せたまま。


「ハァ――!?」


 縁に捕まって落ちないように頑張ったうちも、トロッコが地面に衝突して大破した衝撃は耐えられんくて意識を失った。なんやねん、この暴力的すぎる転生は……。






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