次の日のことである。呼び出しがあるまでは暇な三人――シュテルンビルトに友人がいるわけもないユリウス、珍しく長期の休みが取れたというのに嫁に追い出されたナイジェル、そんな二人の状況を耳にして飲みに出かけようと誘ったレジェンド――は、昼間から酒を出してくれそうな店を探し歩いていた。行きつけの店でも良いのだが、今日は冒険してみようということになったのだ。


「あ、あれ清四郎先輩ちゃいますか?」


 ユリウスが清四郎を見つけた。清四郎はやけにキめた格好で、金髪の女と一緒にコーヒーブレイクと洒落こんでいるようだ。清四郎の恰好がどこか時代を感じさせることには誰も突っ込まなかった。


「あれって……」

「昨日のキャリーだったかキャロリーンだったかだね」

「名前は確かキャシー・ワーズワース。オールディ交通の社員だと言っていたな」

「記憶力良いんすね、ナイジェル先輩」

「普通のことさ」


 まんざらでもなさそうにナイジェルは頬を掻く。


「清四郎先輩、あの玉の輿狙いっ子と付き合うんやろか? 借金地獄に落とされそうな気がすんにゃけど」


 ユリウスの言葉に二人も頷く。もし金目当ての娘だとしたら――仲間を黙って見捨てるような人間ではない彼らは眉間に皺を寄せた。レジェンドは楽しそうに二人を手招く。清四郎達の死角から近寄ろうというのだ。


「ええんすか、バレたら怒るどころやないでっせ」

「それならそのバレやすい口調をどうにかしたまえ、ユリウス君」

「二人とも、シー」


 口元に指を当てるレジェンドにユリウスの顔がニヘラ、と緩んだ。年寄りのそういったポーズは可愛い。

 三人は影からこっそり若い(?)二人の話を聞く。――ナイジェルがだんだんと頭を抱え、赤い髪を掻きむしった。レジェンドが彼を抑えつけなければ叫び出していたかもしれない。

「そっかぁー、キャシーたんはぴんぴろりんなんだなぁ」

「そうなのぉ、ぴんぴろりんなのぉ☆」


 意味が分らない。単体では全く意味をなさないかの「ぴんぴろりん」なる単語は魔法少女に変身するための呪文なのだろうか、それともただ頭のネジがどこかへウィンガーディアム・レヴィオーサしているだけなのだろうか? ユリウスは「オムライスネタ」を可愛いと言っていた清四郎を思い出し、これではあんな反応を返しても当然だと納得した。

 本人達でさえ意味が理解できているのか分らない呪文を唱え続ける二人に辟易し、もうこんな場所には居たくないとナイジェルが立ちあがった時だった。


「そうだ! 清四郎さんはぁ、何でヒーローになったんですかぁ?」


 ナイジェルの眉根が跳ねあがった。レジェンドはチップ込みのコーヒー代をウェイトレスに払い、あとは去るばかりである――何が彼を引きとめているのかとユリウスは彼を見上げたが、真剣な表情でテーブルを見ており反応はない。


「俺? レジェンドがデビューした時にさ、こんなヒーローになりてぇって思ったわけよ。で、その後能力に目覚めてさ! 俺もレジェンドみたいなヒーローになろうって思ったわけ」


 大切な思い出のように語る清四郎にレジェンドは照れたのだろう、頬が赤い。


「素敵ですねぇ。私の会社の皆、ヒーローの中ではバテリーが好きなんですよぉ! 一緒に働きたいなっていっつも言ってるんですぅ」


 清四郎がそれに反応する前にナイジェルが彼に飛びつき、ユリウスが征四郎のコーヒー代をテーブルに叩きつけるように置いた。そして駆けだす三人――一人は首を掴まれて連行されているので換算しない。

 相手方が有意な契約を結ぼうとする時には頻繁に使われる常習手段、女での懐柔――いわゆるハニートラップ。まさか番組が選んだ企業がそんな手を使ってくるとは露とも思わず警戒していなかった彼らだが、キャシーの口からさきほどの一言が出た瞬間その認識は誤りだったと理解した。オールディ交通が絡め手を使ってきた、その事実が彼らの頭に刻まれる。


「なんでお前らがいるんだよ!? 離せよ、せっかくキャシーちゃんの会社に誘われてたって言うのに!」

「それが悪いと言うのが分らないのかっ!――とりあえず、ゆっくり話せる場所に行くぞ!」


 騒ぐ清四郎を抑え込みながらナイジェルは彼に怒鳴る。慇懃な彼には珍しいことであり、清四郎もその必死な様子にポカンと目を丸くし大人しくなった。


「話せるところ言うたらファミレスが良おないすか? この時間やったら遅い昼飯っちゅーには中途半端やし、客がおるとしても少ないはずでっせ」


 表情の硬いナイジェルにユリウスは提案した。レジェンドもそれに頷き、三人は清四郎を引きずったまま近くのファミリーレストランへ飛び込んだ。




Danach→


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