次の日。ここ最近犯罪が起きず暇を持て余した四人――レジェンド、クリアカッター、バテリー、エキセントリックの四人は買い物に繰り出していた。老年、中年、中年、青年という異色の組み合わせは人目をこれでもかと引き、一体何のグループなのかと不躾な視線を送られることも多々あるようだ。


「そういや、レジェ――じーさんってお子さんがいたんっすね」


 ユリウスは普段のまま呼ぼうとしてすぐに気付き呼び方を変えた。同じヒーロー同士でも名前を明かさないレジェンドは彼なりの美学があるらしく、普段はおっさんやじいさんと呼ばせている。名字は前に酒の席で誤ってばらしたが、だからと言ってペトロフさんという呼び方では他人行儀すぎる。

 ユリウスがこの異色の買い物グループ結成となった原因を口にすれば、レジェンドの顔がこれ以上なく緩んだ。


「ああ、自慢の息子だよ。少し小心だが真面目で良い子さ。それに嬉しいことにレジェンドが一番好きだと言ってくれていてね、老骨に鞭打つ気にもなろうものさ」


 クリアカッター――ナイジェル・キーツが苦笑しながらそれに頷く。彼も子持ちであり、必死の誘導の甲斐あって娘が「私が一番好きなヒーローはクリアカッター!」と言ってくれたらしい。残ったバテリーこと清四郎は腐って小石を蹴り、既婚者は滅びろ等と物騒なことを言っている。彼とナイジェルは同年代、共に四十代後半である。


「その可愛い息子の誕生日プレゼント選び言うても、こんなむさい男連中で選んでも大丈夫っすかねぇ……じーさんは流行に疎いやろし、ナイジェル先輩んとこはちびっ子やから参考にならん、清四郎先輩は言わずもがな知るわけがない」


 ところ変われば嗜好も変わる。由里子の判断で恰好良いと思ったものをシュテルンビルトの子供も可愛いと思うかは別なのである。蛍光色のケーキを平気で食べるアメリカンと自分の価値観が一緒だとはユリウス自身思えずにいる。


「君は?」

「オレこの街来たん一月前でっせ、ナイジェル先輩」


 ユリウスが読んだ、会社が興信所に調べさせたユリウスの来歴にはそう書かれていた。自分のことを書類で読むというのはなかなか新鮮な行為であったが、彼にとって『ユリウス・カイザーリンク』という作られた情報はしょせん他人の歴史でしかなかった。覚えておかねばならない基本的なこと以外はすぐに忘れたユリウスである。


「女子供の好むもんなんてどこでも同じだろ? 一月とか二月とか関係あるのかよ」


 子供心を理解できていない清四郎の言葉に憐憫の視線が集まる。相手が子供であろうが大人であろうが、誰にだって好みというものはある。それを理解できていない様子の清四郎にレジェンドは青いなと言わんばかりで、ナイジェルはだから彼女ができないのだと目が語っていた。元は女だったユリウスからすればそれで恋人ができないのは当然に思えたし、むしろそういう考え方のままこの年齢になったということに驚いた。


「清四郎先輩、そりゃ偏見ですわ。先輩ガンダム好きやんか、でもガンダムやのうて電車のが好きな男もおるやん? それと一緒で女の子はキティちゃんが必ず好きやってわけやない。スヌーピーが好きな子もおるし、クッキーモンスターが好きな子もおる。他にもブサ可愛いとか色々あんねんで」

「ぶ、ブサ可愛い?」

「んだそりゃ」


 声には出さないものの興味深々らしいレジェンド、訳が分らないと言わんばかりのナイジェルにそもそも興味が薄いことを隠しもしない清四郎。三人三色の反応にユリウスは苦笑した。


「オレらからしたら可愛えどころがブサイクやないかと思うようなキャラを『ブサ可愛い』っつぅて喜ぶ子もおるんですわ」

「わけわかんねー」

「女子は複雑怪奇なのさ、セイシロー。女心のハウツー本でも買って読んでみたらどうだい?」


 ユリウスは女心のハウツー本と聞いた途端噴出した。胡乱気な目で見下ろす清四郎に違うのだと手を振る。


「ハウツー本を読んでみるんもええけど、ちょいちょい眉つばモンがあるねや……それ思い出したらつい」


 そして話し出したのは「キュンキュンキュンキュン! 頭のハードディスクに記憶しました!」や「オムライス食べれないんですぅ」などがあまりに現実離れしていることで一部有名になったいわゆる「オムライスネタ」だった。最近のバラエティでおバカキャラが持て囃されているせいかは知らないが「脳みそのネジが数本飛んで行った」ようなキャラクターを作れば男は落とせる、という恋愛指南書の一節である。そんなキャラクターで愛されるのならばバカボンのパパは男にモテモテになっていただろう。実際に交通事故で頭のネジを数本飛ばしてしまっているのだから。――しかし。


「可愛いじゃねぇか」


 その時、時間が止まった。


「えっと、先輩ちゃんと聞いてはりました?」

「ああ。そういう子メチャクチャ可愛いと思ったぞ」


 三人は顔を見合わせた。まさかそんな反応が返ってくるとは思いもよらなかったのである。しかしこれは仕方のないことかもしれない――レジェンドは既婚者で子持ち、ナイジェルも既婚者で子持ちの父親である。ユリウスは言わずもがな元女のため女社会というものを実体験している男であり、女子というものに過度の期待をしていない。女子の膨らんだ胸には夢と希望が詰まっているのではなく、適度な打算と計算が詰まっているということを三人は知っていた。


「――どうします、先輩方」

「いや……まさかここまで女と交流がないとは」

「私の家に招待すると言うのはどうかね。実際に同年代の異性と話すと自分の歪みが見えてくるのではないかな」

「やや、普通お客さんにはエエ面しか見せへんでっしゃろ、ナイジェル先輩。てか、これは女に騙される男の具体例な気がするんやけど」

「可能性は高いね」

「ありえそうで聞くのが怖いんだが」


 独り取り残された中年、円陣を組み話しあう老年中年青年。傍目など気にしていられない内容であるため、三人が視線を気にすることなどなかった。


「何だよ三人とも、周りから変な目で見られるだろ? どうかしたのか」


 不思議そうに訊ねる清四郎を見て三人は嘆息した。聞いた方が良いのだろうことは確かなのだが、聞くのが怖い。また、仲間とはいえ他人の女性関係に嘴を突っ込むのは憚られ、三人はしばらく目線で会話したのち口を噤んだ。
















 ハオ! 牛乳はホットで飲む方のユリウスどぇす!

 露見したバテリー先輩の女の趣味の悪さにオレたちも驚きすぎてマーリンパンツ☆ と叫んでもたわ。さてはて、先輩の女の趣味の悪さはもうどうでも良いとして。先輩の新しい契約先を見つけにゃならんにゃ。

 次回、ほんとにそこで大丈夫か? てか、バテリー先輩が酷い目に遭わされる――え、オレそんなつもりなかってんけど!? I’m very sorry he is late forties-まことに残念ながら、彼は四十路です【B】- 長くなりすぎた後編の巻!



++++
0725.2011






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -