同日午後三時。HERO-TVマネージャーのサラはバテリーの所属するゲーム会社から届いた資料を見た瞬間、飲んでいたコーヒーを噴出した。茶色の霧がPC画面とテーブルを汚す。


「サラ、どうかしたの?」


 プロデューサーのホセ・デ・アンダが口の両端を下げて彼女を見つめる。いまだ咽ているサラに答えるすべはないためしばらく咳き込む声だけが響く。


「がほっ、ごほっ……イッテェ気管に入ったぁ! ああもう、コレってドッキリなの!?」


 サラは滑らかな手つきでホセのPCに資料を転送し、それを見たら分るわと頭を力なく垂れる。ホセは一体何が彼女をこうしたのだろうかと資料を開き、口元を押さえて肩を震わせ始める。来週からのバテリーのキャラクター作りとカメラアングルの要望、そして新衣装の画像――その画像に問題があった。着物はオレンジ色で袖がなく、背中に丸で囲んだ亀の文字が大きく描かれている。


「これは――やりすぎだね」

「やりすぎどころじゃないわよ! 思いっきり著作権侵害だし、あそこの会社って馬鹿しかいないの!? 死ぬの? ってか死ねよ!」

「うーん」


 ホセは苦笑いを浮かべながらかの企業について考えていた。バテリーの契約するMicRoはシュテルンビルトの任天堂を自称するなかなか愉快な会社で、ネタに走りすぎて時々ユーザーが付いて来られないゲームを制作することで有名だった。スーパーロボット大戦の使用ロボット一覧にガンダムシリーズやエヴァと一緒にグランゾートを入れるようなものだと考えれば想像に易いだろう。せめてレイアース、せめてゴレンジャー。しかしそのマイナー路線を好む人間もいることは確かであり、ネタに走り続けそういうユーザーの期待に応え続けてきたからこそ今のあの会社があると言えた。


「もしかしたらもうとっくに許可とってたりして」

「それは流石にねーでしょ……」


 サラは資料をスクロールして許可を取ったのか確認した。どこにもおザンプ様の許可を取ったと言う表記はない。


「却下、こんなの駄目に決まってるわ。ってか許可取る取らない以前の問題」


 リアル悟空をするにはバテリーの凛々しさが足りない。黒髪黒目なのは良いとしても醤油顔の悟空などオタクが受け入れない。年齢が高すぎる。資料の写真が下手なコスプレにしか見えない。そして何より子供たちが求めるであろう変身――スーパー菜野人化が不可能である。サラはそう判断を下した。

 ジャパニメーションは太平洋を隔てたアメリカでも神として高評価を得続けているのである。


「まあ、そうだよね。前の魔砲使いもギリギリだったけど今回は悪化も甚だしいからね」


 ホセは肘を突き手を組んだ。顎を乗せて目を閉じる。あの会社には「単なる協賛会社」となってもらった方が良いのかもしれない。契約から一月とせず送られてきたキャラクター修正案はかなり無謀なもので、これでは売れる物も売れない。バテリーのキャラクター性の改造は許可したものの、悪い方向に変えられては番組として困るのだ。


「以前のバテリーのイメージに合う企業と渡りを付けておいて。これは誰が見ても契約破棄の理由になるよ」


 コーヒーの零れた画面とテーブルの上を拭いていたサラにそう言い、ホセは椅子に凭れかかった。




Danach→


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