みんな大好きエキセントリックの再登場にして公式デビュー。アンパンマンと愉快な仲間たちが超人的なパワーで追いかける中、放火犯は高速でもない一般道路で交通事故を量産していた。これでは人死にがでているのではないだろうか。

 バテリー先輩の道路交通法なんて関係ない空中を翔るバイクが車を追いかけるも昼間の交通の多い道路に向かって魔砲を繰り出すわけにもいかず、背負った砲台がちと空しい。ついでに半月前の事件時に撃ち落とされたバイクはバテリー先輩のだ。

 レジェンド先輩が後ろから車で、クリアカッター先輩は十数キロ先の橋の上で犯人を待ちかまえている。

 そこにオレが入ったら……先輩らすんません、逮捕ポイント頂いてきます! てか強奪します!


「おお、あれはエキセントリックだー! 初めて我々の目の前に現れてからゆうに半月! やっと彼がその姿を再び表しましたぁ!!」


 ヘリのレポーターが興奮した声を上げる。前回と同じく額に人差し指と中指を添えてウィンクすればとたん息が荒くなった。堪忍、オレにはそういう趣味はないからあんさんの想いには答えられへんねん……なんて。

 バテリー先輩がオレに気づいて片手をあげた。横に並べばニヤリと笑んでオレの肩を叩く。どうやら行けと言ってくれているらしい。一つ頷いて背中にかかる圧力を高くしスピードをあげた。

 交通規制がかけられたんだろう、初めこそ多かった一般車両もだんだんと減っていく。邪魔のない道をひた走る逃亡車両にオレは弾丸のように飛び降りた。衝撃で金属性の車体が縦に四つ並んだ車輪の形にぐにゃりと沈む。屋根を引っぺがしイナイイナイバァと中を見れば、犯人がハンドルを持ったままオレを見上げて真っ青になっていた。ビアヴルストみたいな体の男で、パキンと二つに折ったら肉と脂肪がぷりんと出てきそうな奴だ。人間に例えると全く美味しそうじゃないな。


「ひ、お前は!」

「エキセントリックどすえ〜。短い間やけど、よろしゅうおたの、申しますぅ」


 ニンマリと笑いかけたら犯人は勢い余ってハンドルを切り、そのまま歩道へ乗り上げた。ブレーキのつもりで踏んだのかは知らないがエンジンが唸りスピードを増し、街灯にサイドミラーを引っかけながらビルに突っ込んでいく。


「う、わああああああああああああああああ!!」

「っとォ!」


 上がる悲鳴に眉をひそめつつタイヤに圧力をかけるも、動力部が元気いっぱいなせいでそのままビルに激突。オレは慌てて犯人の首根っこつかんで離脱した。――この修繕費ってオレ持ちなんやろうか。ンなアホな。

 タクシーは三度にわたって中規模な爆発を繰り返し、可哀想なビルの一階を全焼させていく。この修繕費もオレ持ちとか、言わんよな?


「リック!」

「バテリー先輩、捕まえたでー!」


 契約した会社が悪かったのか、オタク趣味な科学者陣のせいで魔砲使いにさせられたというバテリー先輩はロケットランチャー(っぽいもの)標準装備だ。以前までは指先から直径1pくらいのビームを出してヒーロー活動していた先輩は今ではロケットランチャー(もどき)の使用を義務付けられ、威力は強いものの一回の使用で大量の精神力を浪費するという状態だ。契約破棄したらとレジェンド先輩たちからも説得されているものの、まだ契約して半月も過ぎていないこの短期間で破棄するのは流石にできないと渋っている。そりゃ、契約相手コロコロ変える奴だと思われては困るというのは分かる。が、小回りが利かなくなったことと一度の使用での周囲への被害が大きいことを考えるとさっさと他の会社と契約しなおすべきじゃないかと思うんだが。


「よくやったな、リック! だが、デビュー戦から裁判沙汰になるのはカッコワリィぜ」

「オレだって裁判沙汰にしたくてしたわけちゃうし! こいつがハンドル切らなんだら何事もなく捕まえれてたっちゅーの!」


 気絶している犯人を振り回してそう言えば苦笑が返ってきた。オレだってこんなことは不本意である。


「――リック!」


 と、振り回されたことで気が付いたらしい犯人が、持っていたらしい小銃でオレの右肩を撃った。空気を叩く音と、激痛。そして頭を抱えられ銃口を側頭部に押し付けられる。上空のヘリから悲鳴が聞こえる。バテリー先輩が頭を抱えた。


「つぁッ!」

「エキセントリックだかなんだか知らないが、どうせお前も人間なんだ! へへ、こいつは人質だ!」


 銃の固く冷たい感触に背中を怖気が走る。ブルブルと腕が震えた。


「なんだ、怖がってんのか? 大人しくしてれば間違って引き金を引くこともないだろうよ」


 下卑た笑い声をあげる男に体の震えが大きくなっていく。銃。――銃!


「ざ……んな」

「あ?」

「ふざけんのもたいがいにしゃーがれァクソがぁ!!」


 半月の柔軟体操でだいぶ柔らかくなった関節を曲げ犯人の腕から抜け出す。ローラーがジャカッと鳴った。まさか股割りで抜け出されるとは思っていなかったのか一瞬ヤツは隙だらけになり、そこを狙って空気の塊をぶちあてる。主に顔を集中的に狙ったためか白いかけらが数本空を舞った。

 可愛くない悲鳴を上げて倒れたそいつの手から銃を巻き上げ、オレの撃たれたのと同じ場所に弾を撃ち込む。上空ではエキセントリックがやりましたとかなんとか歓声が上がり、どこか付近の巨大パネルで番組を見守っていた人のだろう歓声が遠く聞こえる。


「ええか、撃って良いのは撃たれる覚悟がある奴だけや……」


 オレがちょっと厨二に酔っとるとバテリー先輩が駆け寄ってきた。


「大丈夫か、リック」

「大丈夫っす。それよか、先輩はよそのオモチャ変えてもろた方がええで。ホンマこまごましたとこに使い勝手悪いて」

「まあ、そうだよな。その通りなんだけどな」


 もし以前のまま能力を使えていたら、先輩が犯人を捕まえることができただろう。だが先輩は契約のせいでロケラン使用が義務付けられ、そのロケランは一回の出動につき三回までしか使えないという燃料食い。以前のまま五十発でも百発でも使えた細いレーザーならここまでの被害が出る前に終わって、オレが来る必要なんか全くなかったに違いない。威力が大きい=すぐ犯人を逮捕できる――というのは単なる妄想だ。


「ところで先輩、捕縛用の縄とか持ってはらへん?」

「ん、持ってるぞ」

「後で新品返すんでください。ついでにバイクも貸してくれると嬉しい」

「別に新品を返してくれなくても良いぜ、ちゃんと返してくれれば別に。――バイク? バイクはどうするんだ?」

 先輩はバイクシートを上げて、中から五メートルほどの縄を取り出した。短かったらどうしようかと思っていたが、これだけあれば十分足りそうだ。有難く受け取って犯人を縛り上げる。撃たれた腕が少し痛むがまあ問題ない。なにしろ素材が防弾キョッキ。


「いやぁ、ちょいとゆっくり走ろおもて」

「は?」


 タンデムバーに縄の片端を括り付け、シートに座る。


「お、おい……まさかお前」

「犯罪者には人権なんてモン、ないと思いません?」


 ハンドルを握りこむ。なんやバテリー先輩の顔色が悪いけどどないしたんやろ? これ以上ない安全運転やで? 時速15kmも出さへんのやで? 問題あらへんよな、どこにも。――なあ?


「有難や有難や〜、有難や有難や〜。金がなければくよくよします、女に振られりゃ泣きまするぅ」


 同居していた祖父さんが酔っぱらうたびにトイレで歌っていた歌を口ずさみながらバイクを走らせる。レジェンド先輩が引き攣った顔でオレを見送るのに敬礼して、シュテルンビルトのセンター街を一周した。途中で目を覚ました犯人が上げる罵声と悲鳴をBGMに警察署までぽってんぽってん進み、オレが奴を引き渡すときには奴は血だらけで顔も頭も残念なことになっていた。

 支社に帰ると苦笑いで迎えられ、そしてその日の夕刊にはオレがドSだという記事が載った。




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