「企業とタイアップしたヒーロー」という新しい形は驚きをもって受け入れられた。レジェンドしかり、バテリーやクリアカッターしかり、それまでのヒーローはHERO-TVの所属として出演料をもらって働いていた。しかしエキセントリックはラルフローレンからの派遣という名目でヒーローとして働くため、HERO-TVではよく無視されがちだったヒーローの最低限のプライヴェートが保護され、番組側の無茶な注文を全て聞く必要がなくなったのである。今まで暴露番組ばかりが組まれていたHERO-TVの中では少々異色な、謎の多いイケメンヒーローとして期待されつつある。――とはいえ、彼の公式デビューはまだなのであるが。

 ところで、もう良い年のレジェンドはともかくとして、バテリーとクリアカッターはまだ四十代始め。番組による薄給では老後が寂しいところであり、彼らもまた企業と契約するヒーローとなった。企業もヒーローをアピールすることにより業績を伸ばそうとそれぞれ特徴的な二つ名など付けた。バテリーは魔砲使い、クリアカッターは歩くスコール。企業がこぞって科学者を雇いヒーロースーツと専用武器の革新を行ったため、二人はまさに魔改造されていった。エキセントリックの初登場から早半月、ヒーロー業界はその様相を大きく変え始めていた。

 ところで、我らがエキセントリックは今なにをしているのだろうか? もしや引き籠りに戻ったのでは――否。彼の姿はラルフローレン社地下、仮設ジムの一角にあった。


「はいイッチニッイッチニッ!」


 金色のロングヘアを緩く巻いた、細身ながら筋肉のついた体格の男が手を叩いている。そしてその男の前でパンパンとメトロノームのように響く破裂音に合わせて歩く黒髪の青年の姿があった。ユリウスである。


「はっ、はっ、はっ、はっ」


 首に下げたタオルはぐっしょりと湿り、彼が長い間体を動かしているということが分かる。――ユリウスはウォーキングの訓練を受けていた。戦うモデルという契約は誤りではなかった、彼はヒーロー業の傍らモデルもすることになったのである。

 トレーナーである男の手が止まる。


「今日はここまでね。お疲れさま」

「ありがとうござっしたー!」


 トレーナーは薄紫の唇に笑みを浮かべた。やけにもっさりとした睫はパサパサと上下運動し、紺のアイラインと同化して目をくっきりと見せている。

 ユリウスは終わりの声を聞くや床に座り込み、両手をつっかえ棒に天井を見上げた。片手をあげて目元を拭う。


「貴方、体はもうできてるから本当に教えやすいわ」

「そっすか」


 トレーナーはにこにこと笑いながらスポーツドリンクを差し出す。トレーナー本人がドラァグクイーンのため所作は女らしいが、似合っているためそう違和感はない。


「モデルデビューは明日ですって? 頑張ってね」

「おおきに、応援よろしゅう」


 ユリウスは苦く笑った。まさか本当のモデルをさせられるとは全く思わなかったのだ。半月前の契約のあと支社ビル地下の倉庫に連れ去られたと思えば一時間とせず現れたニューハーフのトレーナーに引き渡され、モデルとしての所作を叩き込まれた。合格がでるまで公式ヒーローデビューは延期、ヒーロー時以外にはモデルとして働くのも契約のうちらしい。

 ただ服を着ていれば広告になるわけではない、所作が美しいからこそ服も引き立つのだと言われて始めさせられたトレーニングだが、転生直後の入院、完治まで過ごした自堕落な日々――等の要因により少しお腹周りがボンレスハムへの道を進み始めていたユリウスにはちょうど良かったらしい。衰えかけていた筋肉は甦り、腹や腕を支配しようとしていた脂肪から逃げ切ることに成功したのである。彼は運動って本当に大事やねと呟いたとか。

 汗を吸ってむわっと熱いシャツの不快さに顔を少ししかめ、ユリウスは反転してその勢いで立ち上がる。


「お疲れさんです、オレシャワー浴びて帰ります」

「うん。また来週会いましょ」


 いつの間にか荷物をまとめていたトレーナは扉の前におり、ヒラヒラと手を振って扉の向こうへ去って行った。ほぼ同じ量の運動をしたにもかかわらずトレーナーは汗一つかいた様には見えず、ユリウスは舌を巻いた。積み重ねは侮れないものである。そして急設のシャワー室へ向かう。

 ここはヒーロー業界と関わるつもりのなかった服飾業界のビルである、元はといえばこのジムは倉庫であり、中を片付けてマットを引いただけの簡素なものだ。歩きながら靴と靴下を脱ぎ捨てて素足になり、角にひっそりと作られたシャワー室に入る。90p×90pの小さいそれは一人入ればみっちりとして、あまりぜいたくを言えない身の上ながらユリウスは少しうんざりとした表情を浮かべる。朝シャンは金がかかるため習慣のなかった彼はシャワーが苦手であった。桶で湯船の湯を掬い、かける――それができないシャワーはどうも違和感があるのだ。

 しかしだからと言って汗で貼り付いたシャツで帰るわけにもいかない。ユリウスはよろよろとシャワー室へ消えていった。















 おはこんちばんは、今のところ無職?な方のエキセントリックです! 一話進んだはずやのに戦闘シーンはおろか他のヒーローとの絡みもない、あったのはフランス人同士の絡みと、オレといい年こいたフランス人の絡みだけ。色気はどこや、燃え盛る情熱はどこや!? え、もしかしてこの連載、色気ナシの方向やっりして――そんなバナナ。

 てか、オレってヒーローやなかったっけ? なんでモデルデビュー明日に控えとんの? バトルは、犯罪者への八つ当たりはまだなんか!?


  次回、やっとオレの本領発揮――市中引き回しって最高の刑罰やんな! It seems he is heresy-彼は外道だったようだ- 楽しみにするとちょっとショックな出来やったりして!



++++
0715.2011






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