♀+♂→QUEEN



 小学校を卒業した春休みに両親と三人で膝を突き合わせ、何をするのかさっぱり分らないまま家族会議が行われた。そこで落とされた特大の隕石……「実はアンタ、男の子じゃないの」。


「えっ」

「小学生までは男も女も関係ないから黙っておこうって思ってたんだけどね――アンタは半陰陽って言って、男でもあるし女でもあるのよ」

「えっ」

「病院の検査の結果だと、アンタにある女性としての器官も動いてるんだって。つまり、月の物が来るってことなの。……ちょっと鳴海、お母さんの話理解出来てる?」

「え……うん?」


 ショックだった。今まで男子トイレに行ってたのを女子トイレに行かなきゃいけなくなったことも、学校の指定水着がズボンじゃなくてスク水だったことも、何もかもがショックだった。制服だけは学校に交渉してズボンにしたし、学校でもトイレを我慢して『男』であり続けた。そうしてないと頭がどうにかなりそうで、でも誰にも相談できなくて、親友の承太郎にも心配されたけど気持ち悪がられたらと思うと怖くて、夜が眠れなくて辛くて苦しくて……衣替えの時期に倒れた。母さんに渡された白いものがスポブラと認識したすぐ後のことだった。

 近くに住む親戚の家に母さんとオレの住所を移すことで転校し、前のオレを知ってる人なんて一人もいない中学に通った。短いスカートは足がスースーするから踝まである長いスカートにして、その下にスパッツを履いた。ブラジャーは死んでも嫌だからサラシを巻いた。他の『男』に力で押し負けるのが悔しくて木刀を持った。――気が付けばオレは、そこでスケバンとして君臨していた。両親は何も言わなかったし、何も聞かなかった。

 高校は他県に住む祖父母の家に居候し、その近くにある私服可の学校に通った。三年間女として暮らしてみてもやはりまだ女子は別の生き物のように感じられた。……だが、オレはその時点で、男子でも女子でもない、宙ぶらりんな存在になっていた。教室の隅でクラスメイトがエロ本をこそこそと広げている姿に吐き気を覚えた。周囲の女子が化粧だファッションだと色気付いた姿を見る度に頭がクラクラした。オレって何なんだろう? 男だと思ってたけど男じゃない。でもだからと言って女にもなれない。

 そんなこんなで高校生活は中学時代より更に荒れた。木刀一つで暴れ回り、暴走族の番長張ってる屈強な男相手でもボコボコにのした。

 大学でやっと落ち着いた。高校で荒れまくったせいで、勉強が中学で止まってたオレに入れるのは名前さえ書けば受かると揶揄されるくらいの馬鹿大しかなかった。でも、落ちついた奴の多い大学だった。主語述語さえもぐちゃぐちゃなオレの言葉を静かに聞いて、黙って抱きしめてくれるような奴ばかりだった。そこで、ある奴に言われた。


「お前の性別は、鳴海だ!!」


 性別欄の男と女の字の間にある黒い点に丸付けとけとか、オレの性別を気にしないそいつらと関わるうちに、オレの中で性別へのこだわりが吹っ切れた。オレはオレだ。それで良いんだ。それが良いんだ。

 そうなると自分の学力の低さが気になってきて、そいつらと一緒に勉強を始めた。そいつらも頭悪いし人に教えるのが猛烈に下手だったお陰で、自分で調べる習慣が身に着いた。それから大学受験しなおして理学部の海洋研究関係の学科に進み、運良く世界的に有名なSPW財団の日本支部に入った……ってのがオレの経歴だ。順風満帆な半生じゃなかったけど、それが今のオレを作ってる。

 だがオレは忘れていたんだ、小学時代の親友の存在を。そして再会してしまったんだ、そいつに。


「あの人誰?」

「えー知らないんですかー? 空条さんですよ、アメリカの」


 日本支部で働き始めて二年目、出社したら見知らぬ男がいた。やけにムキムキで海洋学者とは思えない体型だったから工事関係の人かと思ったけど、先輩職員とヒトデに関する専門的な話してるし。詳しいだろう女子職員にエルボーして訊ねてみれば、そいつはキャアキャア言いながらマッチョマンを紹介して腐った。下さったじゃない、腐った。黄色い歓声うぜぇ。


「はあ、空条さんですか」


 どっかで聞き覚えあるな。どこだったか誰だったかも分らないけど聞き覚えがある。


「そうです! 空条承太郎さんですよ!! ちゃんと覚えてくださいね!!」


 なんで貴様にそこまで言われないといけな……承太郎? 空条承太郎?


「あ、榎木さん! 空条さんがこっちに気付きましたよ!! 空条さーん!」


 オレたちを振り返ったマッチョマンの顔に昔の面影がある……あの天使がどこをどうすればアレになるのか分らないし知りたくもない。とりあえず待ってくれ、心の準備がまだ出来てない。


「あー、ちょっとオレ突如として猛烈な腹痛に襲われているんだ実はそうなんだよ腹痛がするんだよ腹痛が。もしかすると盲腸かもしれないなー不安だなー怖いわーマジで怖いわーだからここはわざわざ紹介してくれようという気持ちはとっても嬉しいのだけどイヤ本当にいっそ迷惑なくらい有難いのだけど今日はオレ病欠しますサヨウナラまた明日」


 ワンブレスで言いきって逃げた。よくぞここまでオレの舌が滑らかに動いたものだと我がことながら感心せずにはいられない。

 明日からどうしよう。







♀+♂+♀+♂+♀
 24から転載&加筆修正有り。
2013/07/15

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