五歳の妹が五歳のクロロを拾ってきた・上



 お袋は町内会の親睦旅行で、現在進行形で九州は別府の地獄めぐりを楽しんでいるらしい。来週からは有明の海の幸を楽しむ予定だそうだ。大学はもう休みに入ってるから良いが――二週間も不在とはどういうことだ。この町内には暇な奥さんしかいないのか? 隣の悟のお袋さんも三軒隣のアヤメのおばさんも参加しているそうだし。それともあれか、寒い地域にいるからこそ冬は暖かい地域に行きたいという渡り鳥精神か。クリスマスまでには帰ってくるのが唯一の救いかもしれん。

 本州の大学に進んで、北海道出身と言うと海の幸やらスキーやらが羨ましいと言われることが多い。――が、良い面しか見てないからそんなこと言えるんだ。雪が降れば屋根に上って雪かき、道が雪で埋まって車が出せない、つまり買い物も無理。ちなみにここは道央。新鮮な海の幸って言うほど海が近いわけでもない。

 そろそろ公園から帰ってくるはずの妹とオレ用の昼飯こと漢チャーハンを炒めながら、約一年という別離のせいか余所余所しくなってしまった妹を思う。

 夏休みに一度帰って来はしたものの、大学で入った自転車部の合宿とか旅行とかで、実家で寝たのは三回くらい。だが、雪道をひたすら走るのは初心者には難しいだろうと言う部長の判断から一年だけ冬休みはオールフリー。妹との絆を繋ぎ直すには良い機会だ――お袋という緩衝材がいたらもっと楽なんだろうと思うと切ないが。

 麻耶ちゃん、お兄ちゃんと顔も合わせたくないみたい……。だってこの二日、オレが麻耶ちゃんの方を見る度に顔をぷいっと背けるんだ。お兄ちゃんのハートはもうボロボロなんだぜ。


「ただいまぁ」


 玄関扉が開く音と共に、何故か二組の足音が靴を脱ぐ音がした。お友達でも呼んだのかもしれん。子供が一人増えたところで問題ないが、ちゃんと親御さんに言って来たのか聞かんとな。


「おう、お帰り。お友達も一緒な、のォ!?」


 お袋、事件です。この日本にも子供の浮浪者というものがいるようです。麻耶ちゃんと同い年くらいだろう年齢だというのに、どう見ても一月以上洗ってなさそうな上下にベッタリとした黒髪、こけた頬は青白く目だけがぎょろりと大きい。


「麻耶ちゃん、その子とちょっとここで待っててくれる? お風呂の用意してくるから」

「うん」


 しっかりと頷く麻耶ちゃんは良い子だ。きっとこの子が見過ごせなくて連れてきたんだろうと思うと、麻耶ちゃんの天使さ加減に感涙しそうだ。

 先ずはボタン一つで風呂を沸かし、次に箪笥の奥にあるはずのオレのお古を探す。麻耶ちゃんが生まれる何年も前から二人目を考えてた両親がオレの着れなくなった服を残してたはずだ。

 数分とせずに見つかった服を手に居間へ戻れば、所在なげに立ちつくす少年と困り顔の麻耶ちゃんがさっきと同じ場所で立ちつくしていた。


「あー、キミキミ」


 呼べばビクリとオレを振り返る少年。いちいち挙動が鈍いのは空腹のせいか?


「お風呂に入ろう。おいで」


 これが、オレと麻耶ちゃんとクロロの、ファンタジック過ぎる十二日間の始まりだった。





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 五歳の妹シリーズとして、十話程度で完結させるつもり。いらないところまで設定を決めてしまうのは僕の悪い癖かもしれん。
10/21.2012

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