ネギ様になりたいだなんて誰が言った・上



 今週もルルーシュ恰好良かった――コードギアスの感想を毎週のように聞かされていた私だが、実際にアニメを見たことは無かった。何故なら当時、我が家のテレビは兄貴の司法試験に邪魔だと言う理由で倉庫へ押し込まれていたのだから。テレビとしての仕事をできなかったテレビも可哀想だが、皆の見ているアニメの話題について行けなかった私はもっと可哀想だ。友人がアニ☆メイトで買ったというグッズを見ながら、見ることの叶わないアニメに心を飛ばす――そんな日々を送っていた。それが三年前の話。

 大学生になって一年目は飛び込んだ新しい友人関係や新しい環境で目を回し、二年目にもなれば落ちついたもののオタクとしての自分を忘れかけていた、そんな頃。高校時代の友人皆でカラオケに行こうというメールが来た。歌うのは嫌いじゃないどころか大好きなので、迷うことなく「ぜひともー!」と返した。

 カラオケは私の知らないアニメのOPEDキャラソンで埋め尽くされ、何その曲知らない状態の私を放置で盛り上がる友人たち。やけっぱちになって懐かしのアニソンメドレーをしたけど浮いてるのは間違いない。二時間もすれば私は空気になっていた。


「永遠の――まだ完結から二年だけど――我らが神アニメ、コードギアスいっきまーす!」


 モザ/イク/カケラとテレビ画面に表示され、隣に座ってる奴が興奮した様子で腕を振り上げた。私、コードギアス見てないんですけど……。


「あ、そうだ。ねぎねぎ」

「んー? 何?」


 私の名字が根木だから、あだ名はねぎねぎ。反対隣りの子が袖を引っ張って来たから顔をそちらに向ければ、テレビはもう繋いであるかと聞かれた。いや、そりゃ繋いであるけど。


「コードギアスのDVD出てるんだし、見てみれば? 放送をおっかけることは出来なかったかもだけど、ずっと見ないままなんてもったいないよ」

「あー……」


 そういえばDVDも出てて当然。微妙な反応の私に奴はうんうんと頷き、親指を立てた。なんとなく親指を立て返して考える。もう諦めきってたけど、今さらだけど、見てみようかな……なんて。


「んじゃあTUTAYAで借りてみるわ」

「それが良いよ」


 話してるうちに先のモザイ/クカ/ケラが終わり、私が入れた虚空/の/迷宮が流れ出した。


「ねぎねぎっていっつも選曲古いよね」


 ほっとけ。てか、それが分るあんたこそ古今のアニメに精通しすぎだろ。

 帰り道にTUTAYAでコードギアスのDVDを借りた私は、警察と楽しいカーチェイスをしていた暴走車に撥ね飛ばされ死んだ。




 気が付けばどこかの事務所の様な場所でソファーに座っていた。正面には土下座をした老人。何故かその背中には生クリームたっぷりのホールケーキが乗っている。


「あの……何してるんですか?」


 異様な雰囲気が流れているものの、この老人しか人がいない。声をあげた私に老人はぶるりと震え、「申し訳ない!」の言葉と共に、バネが仕込んであったかのようにその足を伸ばした。――ケーキは勢い良く空を飛び、私の顔へ真っ直ぐ飛び込んだ。

 顔を振ってケーキを振り落とした私の視界には顔色を失くした老人。きっと彼の網膜にはクリームまみれの私の顔が映っているに違いない。


「……で?」

「本当に済みませんでした!!」


 老人によると、部下に「正しい謝罪の仕方」を教えられた結果だという。どこのネウロだ。それに、飛ばすのはケーキではなく最中だ。


「で。あそこで私が死ぬ原因になったのは、宴会で出すはずの天界の酒を天使が誤って地上に零してしまって、それを偶然飲んじゃった可哀想な中学生がミラクルスーパーハイになって車を盗難し暴走させたせいだ、と」

「そうじゃ」


 飲んじゃった中学生も可哀想だけど轢かれた私はもっと可哀想だ。


「で、何か慰謝料代わりになるものをくれるんですか?」

「もちろんじゃ。何でも三つとは言えんが、一生分にはなる償いをするつもりじゃ」


 魔法(?)でちょちょいのちょいと私の顔面のクリームを除去した老人は、なんと神様だという。信じがたい話だが背中と神経の繋がった羽根を見せられれば信じないわけにはいかない。ケーキの苛立ちを羽根を引っこ抜くことで晴らしていたら、チクチクと痛いから止めてと泣かれた。


「なら、アニメキャラのような細い腰とメロンみたいな胸が欲しい。もちろん転生するのは人間で。顔は見苦しくなければそれで良い」

「最近は赤と青のオッドアイで銀髪っちゅー注文が多かったが、原点回帰した感じが拭えぬのぉ」

「女の子の夢はいつまでも美しくあることだから仕方ないんです」


 ハーメルンのバイオリン弾きやキャシャーンsinsのあの細い腰は女の子の夢だと思う。あの抉れたんじゃないかと疑ってしまう程の細い腰――生前の私にはどうにも手に入れられなかった物だ。


「二つ目は恵まれた生活環境。転生したけど貧民でしたとか奴隷でしたとかなったら笑えないので」

「まあ、気持ちは分らんではない」

「三つ目は大兄弟の姉ポジションですね」


 頷く老人に満足しながら三番目を口にする。


「ほほう、それは何故か聞いても良いかね?」


 一番目と二番目とは趣の異なる願いに老人が目を丸くする。だけどこれにははっきりとした理由があるのだ――子供好きという。幼稚園の頃からちっちゃい子が好きで、周囲からはロリコンショタコンと蔑まれたくらい年下の子が好きなのだ。他人の子供を可愛がりすぎると犯罪を危惧されるから、姉として合法的に可愛がりたい。


「ちっちゃい子が好きなんです。妹や弟が欲しくって」


 ちびっこは天使だ。私は確信している。

 そうして、私は三つの願いを叶えてもらい転生した。


「お前の名前はギネヴィア。ギネヴィア・ド・ブリタニアだよ」


 私を抱いた母の言葉に耳を疑う――ブリタニアって、コードギアスじゃなかったっけ。主人公のギアスに操られて、皇族の多くが宮殿ごと爆死するって聞いた覚えがあるのだが。あれ。おかしいな、死亡フラグが三本立ってるよ。

 あのくそ爺ぃぃぃぃぃ!!





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 勉強したくなくて書いた、ほぼ説明調の小話。一万文字を超えているので分割
2012/07/21

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