Pink polaris!



 ゴミ山の上に座ってパクと一緒にじいさんが教えてくれた星座を見上げる。数十メートル向こうで上る煙が夜空に飲み込まれていっていた。


「あれはオリオン座」

「小熊座」

「冬の大三角だよね」


 指差し示しながら名前を挙げて、だがそれ以外に口を開く気になれず黙った。


「――北極星」


 じいさんが最初に教えてくれた星を指差す。旅人の指針、船乗りの命綱。光る砂を散りばめたかのような夜空にひときわ輝く明星は今日も変わらない光を灯している。


「うっ……うぇーん、ふぇ、うぇっく」


 パクが泣き出した。声を上げて悲しいと全身で表現するパクを止める気にはなれず、オレは北極星を見上げた。

 オレたちに星座を教えてくれたじいさんが死んだ。まだどれがどの星座なのか全部教わっていないのに。


「くそっ」


 地面を殴り、震える口を引き結んで顎を反らす。視界に飛び込んでくるのはただひたすら明るい夜空で、じいさんの死さえも気にすることなく晴れ渡っている。くそ、くそ、くそ……っ!


「おじいちゃん、おじい、ちゃん。うぇえ」


 横でパクが泣いているのを見てオレも泣きたくなった。涙を出せと胸の中を熱が荒れ狂い、目頭が急速に熱を持ち始めた。


「パク。じいさんは、きっと、北極星に向かったんだ」


 熱を飲み込んでそう言った。パクが泣きながらオレを見やる。


「じいさんは言ってただろ、北極星はみんなが目指す星なんだって。なら、じいさんも北極星に向かったんだ」


 パクと二人で北極星を見やる。

 十分ほどして落ち着いたパクと手を繋いでゴミ山を降りた。ウボォーやノブナガたちがパクを心配そうに見ているのに気が付き、いびつな笑みを返しておく。

 手を離さないままじいさんの堀立て小屋へ向かった。じいさんの何かを手元に残したいと思った――遺品は日用品なら皆で平等に分け残りは売ったり捨てたりと処分することになっているから、日用品以外でオレたちが持っていっても良いものを。


「ん?」


 どこの家も似たような形に色をしているが暮らし慣れたオレたちに区別が付かないわけがない。じいさんの家が見える所まで来た時、オレはあるものに気づいた。


「あれは何だ?」

「えっ?」


 パクも泣いて半眼気味の目を大きく開いてアレが何なのか目をこらした。じいさんの家の前に落ちている黒い塊……。

 近寄ってみれば、それは果たして女の子だった。五歳かそこらだろう、夜だから髪の色は判別できないが顔色が悪いのは分かった。分厚い立派なコートに包まれた指先は冷えきって氷みたいだ。


「パク、このコートはどっかに隠せ。それとこの靴も。こんな立派なの着てたら襲ってくださいって言い回ってるみたいなものだ」

「あ、うん! 分かった!!」


 オレは女の子からコートと靴をはぎ取るとパクの手に押しつけた。そして代わりにオレが女の子を抱き込んで暖める。十月の半ばと言ってももう寒く、冷えきった子供が軽装で屋外に転がされれば待っているのは死だ。


「ザ……ス、えの、…………に」


 何かを呟いている彼女の口元に耳を寄せる。


「お……う――らで輝く、北極星に――なりたかった」


 オレは目を見開いた。そして彼女の気力を保たせようと同じ言葉を繰り返した。


「そうだ、お前は北極星になるんだ! なるんだろう、北極星に! なら死ぬな、生を諦めるな――北極星になるんだろう!」


 能面のように表情のなかった彼女の顔に、うっすらと笑みが浮かんだ。

 その日、流星街に流れ星が落ちた。その星は北極星――名前はマチ。














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桃空の続編、はーじーまーるーよー!
道を探す旅が始まる――とか、格好良いことを言ってみる。
11/25.2011

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