聖☆おちびさん



 題名に反して、話が進むとシリアスな表現があります。他漫画からのキャラの流入があります。

 それでも良いという方のみ下へ。


















 盗んだバイクで走り出すとか、そんな生易しいもんじゃないレベルの治安の悪さに頭がクラクラした。まさに世紀末伝説、ケンシロウとラオウが「アチャー!」とか言いながら殴り合うのが似合う荒廃した世界。そんな世界に転生したと知ったときの衝撃ったらない。顔から血の気が音を立てて引いていくのが分かったくらいだから。そして私が生まれた街の名はヨークシン、破壊活動を都市開発とうそぶき銃弾と刃の交錯する昼と夜が支配する街。そんな中にあって、私は比較的平穏に育ったと言える――だって親がマフィアのドンだもの。四階建ての屋敷から外を見下ろせば鉛玉が飛び交ってて流血なんて日常茶飯事で、いつの間にか私の感性も麻痺しちゃったんだけど、この世界の治安はもの凄く悪かった。そりゃあもう死を覚悟するくらい酷かった。

 その覚悟とこの世界の法則が出会った末私は念に目覚めてしまい、さらに私の身が危うくなったとか言うのも悲しいけど。


「お嬢様、窓の近くに立たれては危険です。内側へお入りください」

「うん」


 むさくるしい見た目のボディーガードがそう言うのに従って窓から離れた。病気も怪我も、何でも治してしまう神の娘。念に目覚めてからはや六年。私は気がつけばそう呼ばれるようになっていて、六年前から全く変わらない幼い姿も相まって生き神のように思われている。両親は私という金の卵を生むガチョウに狂った。死にたくないから念に目覚めた――そのはずなのに、どうしてこうなってしまったんだろう。安楽椅子に腰掛け揺られながら、この十五年を思い返してみた。







 私が生まれたとき兄は十二歳で、後妻の子である私をあまり好ましく思っていなかったようだ。もしかすると自分の命を脅かすかもしれない相手を良いように思うのは難しいし、当然だと思う。それが変わったのは私が一歳になる前のことだった。父が女である私を無理に跡継ぎ候補にはせず、兄を疎んじて追いやることがなかったからだろう。心の余裕ができた兄は私に対する偏見を捨て、可愛い赤ん坊として私を見るようになった。私は今生の母に似てすっきりとした愛らしい顔をしていて、また今生の家族に対するサービスのつもりでニコニコしていた。可愛い赤ん坊が家族に向かって笑顔を向けているというのは心暖かくなる情景に違いない、そう思っていた私は普通でおかしいところなんて全くないはずだ。

 だけど兄は一般的な感性から大幅に逸脱していたらしく、その赤ん坊に胸をときめかせてしまった。その一部始終を見ていた私は、人が恋に落ちる瞬間を間近で見てしまってものすごくいたたまれない気分になったことを明記しておきたい。自分の顔が良いことは鏡で知っていたけど、まさか実の兄をペドフィリアに目覚めさせてしまうなんて。そのときの私は、表面上は笑みを浮かべながら内心では『兄をどう更正させるか』なんて考えていた。

 それから三年ほどして、兄が他マフィアとの抗争の最中に念に目覚めてしまった。かなりのオーラを保有していたらしい兄は『体から白い霧が上がってるんだ』と首を傾げながら帰宅し、それを聞いた私が慌ててオーラの吸着法を教え事なきを得た。

 数ヶ月して原作のゴンなんて目じゃないスピードで念を修得した兄が、念能力もあってなんだかマフィアの跡取りというよりも殺し屋に見えてきた。だからついうっかり「ゾルディックみたいね」と言ったら「何それ」と聞かれたので、「ご本に『ゾルディックっていう凄い殺し屋のことが書いてあったのよ』と答えた。そして兄は次の日には名字をゾルディックに改名してしまった。

 それからまた四年して、兄がファミリーを抜けた。マフィアじゃ私を守れないとか父と怒鳴り合った末のことだという。まあ、このまま順調に育てば、どこか他のファミリーと同盟する際に人質としてどこかに嫁ぐんだろうことは間違いない。それもまた人生かなと覚悟してたし気にするほどのことでもない――けど、兄は嫌だったらしい。父と死闘を繰り広げ、父を半死半生にした末どこぞへ飛び出してしまった。私にできるのはただひたすら『兄がどこか聞き覚えのある名前の山を買う』ことがないよう祈ることだけだった。そういえばこの安楽椅子は去年に兄が贈ってくれた物だったかな。

 そしてそれから一年。私は誘拐され、初めて命の危機というものを味わった。ブッダじゃないから東西南北の門をそれぞれ見て回ってこの世の無常を悲しんだ――とか、そんなことはない。ただひたすら怖くて、『私が』死にたくなかっただけだった。死にたくない……でもこの世界の医療は時代背景もあって発展していない。殺されたくない……でも私は強くないし、強くなろうという努力もしてこなかった。ただの塵芥のように死ぬなんて嫌だ。神様、命以外なら何でも持っていって良いから。だから――と。

 そうして念に目覚めた私は何度撃たれても刺されても死ぬことがなくて、それどころか他の人質さえ見る間に治癒してしまった。こんな世界の住人のくせして信心深かった敵対マフィアの人たちは恐慌に陥った。この少女は一体何なのか、もしや神なのか。自分たちは神を襲ってしまったのか? 結局私は無事父の元へ戻ることができ、他の人質にされていた子供たちも親元へ帰れた。父は私の無事を泣いて喜んだし母も私を数日は放そうとしないくらい喜んだ。けど――私の念能力は親子の情を破壊するのに十分すぎた。

 いくら金を積み上げても不治の病は治らない。いくら神に祈っても瀕死の怪我は死神の鎌を拒めない。でも、何でも治せる者が、治癒の力を自在に操れる者がいたとしたら、人は金を積み上げることを厭わないに違いない。父も母も金の魔力に魅入られ、いつしか多額の報酬と引き替えに私の力を利用するようになった。私の力は神から授かった神通力、すなわち私は神の娘である――そう宣伝して。





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 説明回(^p^)
11/15.2011

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