あの子を探して4
私は確かに舌を噛み切り死んだはずだった。口の中に溢れる血の味も覚えているし、口腔に収まりきらず吐き出した血が白いシーツを真っ赤に染めたのも覚えている。――そう。私は死んでいるはずなのだ。
「死んでいる」なら呼吸など必要ないし血を流すはずもない。なら私は生きているということになる。何故生きているのか? 向こうでの死はこちらでの誕生になるのか?
何故は膨らむばかりだ。
マチがマグカップにリンゴジュースを注いでくれた。誰の趣味かは知らないが、マグに描かれていたのは自分の首を探すティディベアの絵だった。
「由麻は大人しいね。あの死体を見て何も思わなかったのか?」
マチが私の頬を撫でながら首を傾げる。
「彼らは血だらけだった」
「――うん」
彼らは血だまりに倒れて絶命していた。
「無駄のない殺戮だと思った」
弱者をいたぶるわけでもなく、ただ殺してあった。それだけのこと。
「そう」
体を張った殺しも、反撃を許さぬ一方的な殺戮も、結果はどちらも同じこと。苦しまずに死んだ――良いことだと思う。私のように鬱々と、全てを諦めて死ぬよりどれほどマシなことか。彼らが感じていただろうことは、死に対する恐怖と残される者の心配だけなのだ。彼らの心は死んでも燃え尽きないが私は死ぬ前に燃え尽きてしまった。
だからこそ私は幻影旅団の殺しを肯定する。良い殺しだったと。殺された瞬間、彼らは永遠となるのだ。
「そろそろ部屋に戻ろうか」
マチが空になったマグを取り上げシンクらしき所に置いた。再び手を引かれ歩く。
あの子がマチに連れられて出て行ったあと、ノブナガが口火を切った。
「パクノダ、オメーはどこまで『視た』?」
「どこまでって――あの子が一般人と同じ生活を送ってるってことだけ視たわ」
由麻はジャポン人かしら? 記憶に出てくる人間たちは、髪を染めない限りみんな黒髪黒目、肌は黄味がかっていた。
「由麻は『自殺したらここにいた』と言ってたんだ。あいつが帰ってきたらそれとなく確かめてくれ」
「自殺した?」
あの小さい子供が、自殺しただなんて――まだ八歳かそこらだろうと思ってたんだけど。
「念は覚悟だ、それがきっかけで目覚めた可能性がある」
ノブナガが眉間に皺を寄せながら言った。
「ハ。自殺するような奴は心弱いね。気にしてやる必要ないよ」
フェイタンが鼻を鳴らす。フランクリンは由麻の出て行った出入り口を見つめて黙っているし、ウボォーはノブナガの好きに任せているらしくどうでも良さそう。
「でもオレ、自殺したら瞬間移動なんて念、興味あるなー」
シャルが手を挙げて主張した。
「『自殺すること』が鍵なのか、死ぬほどの覚悟が鍵なのか分らんが――面白そうな話をしているようだな」
クロロがニヤリと笑いながら話に加わる。
「とりあえず記憶を視る、それで良いわよね?」
「そうしてくれ」
「本当にあの餓鬼を視る価値あるか?」
皆が頷く中フェイタンは心底どうでも良いと言いたげ。こっちで決めつけるのは簡単だけど、視てから決めても何ら問題ないわ。
+++++++++
僕にしてはシリアスな雰囲気を頑張った! という感じの話。
- 197/511 -
*前|目次|次#
レビュー・0件
|