可愛いあの子6



 遊園地の帰りに、ヒソカ少年用の国語辞典と漢字辞書を買った。国語辞典に関しては小学校低学年用だとかそういうのではなくてごく普通の一般用。漢字辞書は小学生用のを。

 漢字が難しそうだと唸るヒソカ少年に私は笑って言った。


「ゆっくり身につけていけば良いさ」


 だがいくら文字を覚えたとして、戸籍がなければ学校にも行けないし就職も困難だ。まさか私がこんな心配をしなくてはならないとは……。つい数日前までは戸籍なんてあってもなくても一緒とか思っていたというのに。


「――戸籍がないのは……どうにかなるでしょ」


 確か記憶喪失者には戸籍がもらえたはず。もしもの時には『僕、ユマさんに拾ってもらうまでの記憶がなくて……』とか言わせれば良い。と思いたい。


「うん」


 真新しい『ヒソカ少年用』の辞書二冊を抱きしめヒソカ少年は笑んだ。今日一日遊園地ではしゃいだのもあって顔色が少し悪いが、寝れば治るだろう。


「――あ」


 駅からの帰り道にある小さな雑貨店の棚に、キラリと光る、気を引かれる何かを見た。


「ちょっと見て行って良い?」

「うん」


 もうあと五分も歩けば家だ。明日また来れば済む話だが、今見なければいけない気がした。


「ふーん」


 中に写真を入れることのできるキーホルダー。長方形のそれはちょうどプリクラがはいるサイズだ。ポケットから今日撮ったプリクラを出す。うん、ちょうど良い。

 二個持ってレジに並び、店を出てすぐに開封した。中を密封できる形だから雨に濡れても大丈夫だろうそれに、プリクラをペタリと貼った。


「ほら、ヒソカ少年」


 一つをヒソカ少年に渡す。一つは私のカバンに。


「え、あ……? 僕に?」

「今日の記念に。あげよう」


 ヒソカ少年は少しはにかんでキーホルダーを受け取った。いそいそとポケットに入れると私の左手を取った。手を繋ごうということらしい。


「うん。悪くないな」


 手を繋ぎ、また歩きだす。マンションに着き、カバンから鍵を取り出すため手を離した。そして鍵を見つけ、振り返れば。




















 そこには誰もいなかった。






+++++++++

 だって短編だもの、と言い訳してみます。逆トリ編は一応終了。トリップ編も書いてみようか目下悩み中。
 こんなのでも続きが読みたい、という方は拍手等でそれを叫んでくださるともれなく続きが付いてきます。
06/19.2010

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