可愛いあの子3
風呂を出て、えりぐりがだるだるのシャツとゴムパンツを身につける。どうせいるのは異性とはいえ少年、気にするほどのことでなし。
「ヒソカ少年!」
「ユマさ――」
ヒソカ少年が目を丸くし、そして赤面した。
「なんて格好してるの?!」
はしたない! とプンプン怒るヒソカ少年に私は手を振る。
「なに間違いが起こるわけでもなし、そんな神経質にならなくても良いだろう? それに私は、小学生に襲われる趣味はない」
「――屁理屈だよ!」
「屁理屈で結構。ここは我が家だからね」
ローマに入りてはローマに従えというじゃないか。我が家に入ったなら私に従うのが当然だろう。
「不毛な議論はするだけ無駄だ、服に関してはヒソカ少年が目を瞑ってくれたらなにも問題がない。さて、ヒソカ少年。何か食べたいものはあるか?」
冷蔵庫の中に何が残っているかによるけれど、ヒソカ少年のリクエストになるべく沿おう。オムライスとかだったら可愛いな。
「えと、じゃあ……お肉……」
まさか肉とは思いもしなかった! ガッツリいくんだなぁ。
「――ステーキ、ハンバーグ、餃子」
「は、ハンバーグ!」
「予想を外れないチョイスだな」
とっさに思いついた三つを挙げたら、ハンバーグだった。
たった二人分くらいなら一時間半もあれば作れる。まだ少し時間的余裕があるのを見て、私はお茶を用意する。ヤカンからコップにお茶を注ぎ置いた。したいというか、しなきゃいけないことがある。
「ほら少年」
「有難う」
ヒソカ少年がどうしてここにいるか――は悩んでも分るはずもないから置いといて、本当にヒソカ少年がハンター世界から来たのか、料理をする前に聞いておきたかった。自分の置かれた状況も分からないまま待ちぼうけを食らうのは怖いだろうから。
「ヒソカ少年、君はこれが読めるか?」
そう言って渡したのは小学一年生の国語教材。ちょうど開いたのがスーホの白い馬だった。
「?――これ、何?」
「文字だよ」
こんな文字知らない、とヒソカ少年。試しに紙と鉛筆を渡したらガリガリと彼の言うところによる「文字」を書き始めた。ハンター文字だ。
「ヒソカ少年、黙って私の話を聞きたまえ。これは確信を持って言えることだから否定しても無意味だ」
「は、はあ」
「分ったと考えておこう。はっきり言うが、君はここではない、別世界からトリップ――境界を渡ってきてしまった」
「はあ?」
「つまり言うなれば、ここに君の戸籍はなく親もなく友人もいないということだ。今私が使っている言葉は日本語と言う。そしてその日本語を使うのはこの世界において日本のみ。この意味は分るだろうか」
「え……えっと……」
六歳だか七歳だか知らないが、ヒソカ少年はまだ小学校低学年だ。この歳にしては成熟した精神の持ち主のようだからはっきり誤魔化しなく言ったのだが……やはり混乱しているようだ。
「納得できるまで悩んで問題ない。私はハンバーグを作るから」
母性的な優しさも可愛げもない私。どうしてあの男は私なんかと付き合いたがったのだろうか? 一人暮らしだからどうとでもしやすいとでも思ったのか、それとも一人で頑張るけなげな少女にでも見えたのか……。
冷凍庫からミンチ肉を取り出してボウルに出しながらそんなことを考えた。
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冷徹だ……でも彼女なりの優しさを基準に動いています。分かりにくいですが。 06/11.2010
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