ヴァンパイアの娘6



 DIO様をあの場から逃がしてから半日が過ぎた。時間の経過と共にテトラとの繋がりが細くなっていくように感じる。始めは太い縄で繋がっていたのが、今では糸みたいにかすかな繋がりだ。


「お嬢ちゃん、そろそろ名前を教えてくれんかね?」


 空条承太郎ら勇者パーティに保護という名の下に捕縛された私は今、短剣さえも取り上げられてSW財団の持つビルの一室にいる。そして勇者一行の一人、ジョセフ・ジョースターとテーブルを間に挟んで向かい合っていた。首から覗く包帯が痛々しいけど、DIO様は首だけになったからもっと痛いに違いない。


「……ショーン」

「ショーンちゃんか。ショーンちゃんはどうしてDIOなんかの部下をしとったんじゃ? この爺に教えてくれんか」

「DIO様は『なんか』じゃないもん。DIO様は私を拾ってくれた人だもん。じじいどっか行け」


 シッシッと手を振ればジョセフ・ジョースターはあちゃーと頭を掻いた。言葉のチョイスを間違えたと気付いたみたいだけどもう遅いよ。椅子から降りて棚と机の間に置いてあったごみ箱をどけてそこに潜り込めば、ジョセフ・ジョースターは微笑ましいものを見るようなどうすれば良いか分らないような表情を浮かべた。


「すまん、許してくれショーンちゃん」

「嫌!」


 ゴミ箱をバリケードにしてジョセフ・ジョースターの視線をシャットアウトする。恩人を扱き下ろされて怒らない人間はいないと思うんだけど、じじいにもなってそんなことも知らないんだろうか。――きっと、「私の恩人」を扱き下ろすつもりはなかったんだろう。DIO様は魔王でジョセフ・ジョースターたちは勇者パーティだから、敵対してた相手を悪く言ってしまうのは癖になってたに違いない。でももう少しこっちの気持ちを考えてよねと言いたいよ。

 ジョセフ・ジョースターが「あー」だの「うー」だのと言ってるのを聞きながら、この狭い場所の居心地の良さに瞼がくっつこうとし始めた。うう、眠い。でも寝たら駄目だ寝たら駄目だ寝たら駄目だッ……やります、僕が乗ります!――じゃないや何に乗るの? エヴァ初号機?

 片手で目元を擦ったりあくびをかみ殺したりしていたら、ジョセフ・ジョースターの「うむぅ……」という困惑のため息が聞こえた。そして「すまんかったな、しばらく一人になりたかろう。わしは出とくよ」という言葉の後に扉が開いて閉まる音。ゴミ箱をずらして室内を見回せば、わたし以外の誰もいないみたいだ。ゴミ箱を元の場所に戻して室内を見回す。この部屋は休憩室だったらしく部屋の奥にはパイプの二段ベッドが二つ並んでいて、畳まれたシーツがベッドの上に置かれている。

 そのシーツと枕を取ってベッドの下を確認する――掃除が行き届いているみたいで埃はない。ハルノがいなくなった後からはDIO様に合わせて夜型生活だったから、今は眠くて仕方ないのだ。でもジョセフ・ジョースターたちに寝顔を晒すのはちょっとやだ。

 シーツと枕を先にベッドの下に突っ込み、それから自分も這いずってベッドの下に潜り込む。枕が妙に柔らかくて変な感じ。


「おやすみなさい……」


 噛み殺せないあくびで生理的な涙が出た。頬を伝っていく冷たい涙の線が、少し痛むような気がした。








 今はショーンちゃんを閉じ込めるための部屋になっておる仮眠室から出て、すぐ隣の部屋に移動する。隣室にこっそりと設置しておいた三台の監視カメラからの映像でショーンちゃんがベッドの下に潜り込んだのを知った。嫌われたみたいじゃなあ……まるで手負いの獣か何かじゃ。手を出しても噛まれるのがオチじゃろう。

 テレビ画面を眺めていたわしの下にSW財団の職員が現れ、ショーンちゃんについて知り得た情報を報告し始める。


「病院のテレンス・ダービーに身柄の安全の確保と引き換えに引きだした情報によりますと、彼女の名前はショーン・ブランドー」


 さっき名前は教えてくれたが、名字は教えてくれんかった。――が、よりにもよってブランドーか。


「ブランドーか」

「はい。しかし彼女はどう見てもアジア系ですし、DIOが目覚めたのは四年前ですから歳が合いません。養子の可能性があります」

「まあ、そうじゃろうな」


 承太郎に「DIO様は恩人」と言っていたそうじゃし、DIOのヤツと似たところなんて全くないからな。華美ではないが上質な服を着ておることから考えるに悪い扱いはされていなかったに違いない。日焼けを防ぐ長袖にはところどころレースがあしらわれた可愛らしいもので、動きやすいスパッツは女の子の好みそうな花柄。靴も白地にピンクのワンポイントが入っておる。悪い扱いではないどころか、可愛がられておったのではないか?


「彼女のスタンドの名前はスカーレット・テトラグラマトン。パワータイプのスタンドで数百キロを片手で持ちあげる力を持つそうです」

「わしの念写のような特殊能力はない、ということか?」

「ダービーは『これ以上は口が裂けても話さない』とのことですから、もしかするとあるかもしれません」


 承太郎によるとDIOの首を抱えて逃げたっちゅうことじゃし、やもするとそういった目的の能力を持っているかもしれんな。


「あと……ダービーが『ショーンは幼いながらDIO様に絶対の忠誠を誓った人間、子供だからと馬鹿にしたら痛い目を見ますよ』と言っていました」

「うむぅ……」


 どうしろと言うんじゃ。更生の余地がある子供を処分するようなことはしたくないし、出来ん。頭を抱えておれば、承太郎がノックせず部屋に入ってきた。


「あの餓鬼はどうだ、じいさん」

「どうもこうも――まるで手負いの獣じゃ。わしにガンつけてきた」

「そりゃ将来が楽しみだ。餓鬼の名前は?」

「ショーン・ブランドー。DIOの養子のようじゃ」

「ほお」


 承太郎がわしの後ろから覆い被さるようにしてテレビのある台に手を突くと、体重でギシリと台が軋んだ。三つあるテレビ画面を見て口をへの字にする。


「部屋ん中にいないみたいだが」

「ベッドの下に潜り込んどる。眠そうな目をしておったし、きっと寝てるんじゃろ」


 承太郎はつまらなそうに鼻を一つ鳴らし、壁際にあった椅子を持ってきてそこに深く座った。


「DIOはショーンちゃんにとって大切な存在だったようじゃが、だからと言ってDIOをこのまま野放しには出来ん。養父を奪うことになるが、DIOは倒してしまわねばな」


 わしらはこの旅で二人と一匹の仲間を失った。……アヴドゥル、花京院、イギー。お主らの仇は必ず取るからな。

 背もたれに体重を預けて目を閉じたわしに、承太郎が「おい」と声をかけてきた。目を開けて承太郎を見やれば、承太郎は顔をしかめながら――言った。


「俺もDIOの野郎をぶちのめすことには賛成だ。だが俺はこれ以上DIOにかかずらっていられないぜ。留年なんて面倒なことはしたくねえ」


 ……OMG!! すっかり忘れておった!!








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 24から転載、加筆修正有り
2013/08/31

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