ヴァンパイアの娘3



 DIO様の膝の上で寝たと思ったら何故かエンヤ婆の部屋で目が覚めましたショーンです。怪しげな笑い声が聞こえてきて怖々と目を開けたらエンヤ婆の部屋だったからびっくりしました。エンヤ婆、あの笑い方は怖いっていうか人間辞めた感じがするから止めた方が良いと思うよ。

 腕に包帯が巻かれてたから吸血鬼なDIO様が味見したんだろうかと思ったら、エンヤ婆に「スタンドの矢を刺したのじゃよ、どこか体調におかしいところはないかえ?」って言われた。噛まれたわけじゃないのかと一瞬安心したけどすぐにあることに思い至る。

 ――テレンスもヴァニラもスタンドという能力を持つDIO様の配下だ。スタンドの矢っていうのはそのスタンドを目覚めさせる鍵のようなもの。……つまり私も今日から本当の意味でDIO様の配下になったってことか! とうとう魔族の仲間入りってことだね!! 魔族の一員、なんて甘美な響きだろう。魔族。夢が広がるね!


「エンヤ婆、私のスタンドはどんなものになったんですか?」


 エンヤ婆はひょひょひょと悪役じみた笑い声を上げながら、それぞれ人によって能力は様々だと教えてくれた。

 エンヤ婆のスタンドは幻を作りだすジャスティス、テレンスは人形に人の魂を入れてしまうアトゥム神、ヴァニラは何でも呑みこんでしまうクリーム、そしてDIO様は時を止めるザ・ワールド。それぞれ何かしらの目に見えるヴィジョンが現れるのだ、と。


「どうやったらスタンドが出てきますか?」

「慣れれば出そうと思った瞬間に出てくるようになるじゃろうが――そうじゃな、とりあえず力んでみよ」

「はい! むぅんッ!!」


 私の中に眠れるスタンド能力よ、今ここに具現化せよ!! 魔女っ子菖蒲ちゃんここに爆誕! 月に代わってお仕置きよ!! テクマクマヤコンマハリクマハリタヤンパラヤン! 主よ、種も仕掛けもないことをお許しください!

 目を閉じて力んだ瞬間、私の手の中に何か固いものが現れた。そろそろと目を開いた私の目に映ったのは――レイアースのヒカルっぽいフィギュア。


「人形かえ……まあ、女の子らしいと言えばそうじゃなぁ」


 フィギュアの高さは三十センチ超で四十センチはなさそう。恰好は甲冑だけどやけにファンタジックでスレイヤーズを思い出させるデザインだ。腰に刺した剣は装飾過多で実用的には見えないけど、もしかすると振るうと炎の弾が飛び出るなんていうギミックがあったりするかもしれない。

 関節部分とかもしっかりと作りこまれた可動フィギュアらしく、腕を摘まんで動かしてみればとても滑らかで人間っぽい動作が可能みたいだ。――と思えば勝手に動き出し、床に降り立ってにっこり微笑み私に手を伸ばした。口はきけないのかな? 表情やらなんやらでコミュニケーションが可能だと良いんだけど、慣れれば良いだけの問題だね。


「貴方はヒカル?――あ、やっぱり違いますか。貴方は何ができるんですか?」


 右手を差し出せば手のひらに『戦闘』と書かれた。バトルかぁ……ポケモンとか対戦系のゲームはさっぱりしてこなかったから、私に「指示を出してくれ」と言われても困るんだよね。でも私のスタンドには独立した自我があるみたいだし、私がいちいち指示しなくても色々と動いてくれるだろう。

 スタンドを良く見てみれば、ヒカルではないことはすぐに分った。お下げじゃないし、白目が無くてちょっと無機質な目をしてるし。ただ第一印象はヒカル。


「エンヤ婆、スタンドの名前を決めました」

「ひょ? もう決めてしまったのかい」


 何故かタロットカードを持ってたエンヤ婆に宣言すれば、エンヤ婆は肩透かしを食らったような顔をして私を見た。何か私、悪いことしただろうか。


「はい。スカーレット・テトラグラマトン――緋色の尊き者です。これからよろしくお願いします、テトラ」


 フィギュアもといテトラは嬉しそうに微笑んだ。気に入ってもらえたらしい。エンヤ婆が「神を名乗るとは……いや、しかし……」とブツブツ呟いてたけど、テレンスもアトゥム『神』だから目くじら立てるようなことじゃないと思う。







 ショーンに発現したスタンド【スカーレット・テトラグラマトン】は自立行動ができるらしく、ショーンがあれこれと指示する前に自ら動きまわっている。人形の見た目に反して腕力も有り、グランドピアノを片手で余裕綽々と持ちあげちょろちょろと走り回っている――脚力もあるようだ。350キロを片手で持つと言うのだからそのパワーは素晴らしい。

 ただ一つ疑問なのは、ショーンのスタンドは三十センチが最長なのか否かだ。まだショーンの身長は百センチと少ししかない。ショーンの成長と共に相対的にテトラも大きくなっていくのか、それともこのまま固定なのか。身長などのサイズ上の問題で敵に劣ることがそのまま勝負の勝ち負けに繋がることがある。

 前者ならば良いが……後者であった場合ショーンには戦わせない方が良いだろう。

 わたしとハルノを抱いたテレンスが見守る中、今ショーンはテトラでどのようなことができるのかを一生懸命説明している。この屋敷の元持ち主は音楽好きだったらしく広い音楽室があり、グランドピアノがある以外は広々と開けて何もない部屋だった。つまりショーンがエイヤーと幼児のお遊戯をするには最適な部屋ということだ。――ショーンはわたしたちに説明しているつもりなのだろうが、ちょこまかと動く様子はうさぎのダンスのようで微笑ましい。


「あれを幼児のお遊戯と仰いますか……」


 テレンスがショーンとテトラを見ながら頬を引きつらせる。テトラの振り回したグランドピアノがむき出しの石壁とぶつかり大破した。キャーキャー騒ぎながら破片から逃げるショーンとテトラが微笑ましい。スタンドに目覚めたばかりでコレだけできるのだ、成長すれば更に強くなるだろう。楽しみだ。


「ショーン」


 名を呼べば顔を輝かせてわたしの足元に駆け寄るショーンを抱き上げ、頭を撫でてやった。ショーンの後ろから少し遅れてテトラが続き、わたしとショーンを見上げる。テレンスの人形よりも親近感の湧く見た目をしているのが救いだな。可愛らしい人形を作られても気色悪いが、あの無駄におどろおどろしい見た目の人形には少し引く。


「ショーン、テトラは腰にある剣を使わないのか?」


 テトラの腰にある剣は細身であることと宝石やら細工やらのせいで装飾剣にしか見えないが、ただのファッションで持っているとは思えん。刃渡りは二十五センチ程か、テトラが持てば長剣だがわたしが持てば単なるナイフでしかない。


「テトラの腰の剣は私用の剣なのです。いつもテトラが近くにいられるわけではないので、離れて行動する時に私があれを持つんです」


 刃が危険だから私が持っていたら駄目なんです、とはきはき答えたショーンになるほどと頷く。もしもの護身用ということだろう。知れば知るほど面白いスタンドだな。


「お前のスタンドについては良く分った。――テレンス、ハルノを見ておけ」


 赤ん坊のくせにショーンに手を伸ばすハルノに少し不快感を覚えながら音楽室を後にし、エンヤ婆の部屋へ向かった。ノックをして呼びかければ中から返事があった。


「DIO様、どうされましたかの?」

「テトラは格闘に特化したスタンドのようだから、こいつに訓練を付ける相手にちょうど良い者を一人二人ピックアップしておけ。用件はそれだけだ」

「ははあ、分りましたですじゃ」


 テトラをちらりと見やってそう答えたエンヤ婆に鷹揚に頷き、老人特有のすえた臭いのする部屋をさっさと後にした。

 ショーンはまだ幼いが、幼いからこそ伸び代は大きい。もしショーンが決して手放せない様な素晴らしいスタンド使いとなった暁には……吸血鬼にしてやるのも一興かもしれん。








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 24から転載、加筆修正有り
2013/08/31

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