触らぬ悪魔に祟りなし4



 東京を回るならここを本拠地にすれば良いと押し切られて今日で二泊目だ。昨日また花京院典明という宿泊者が増えたから、人を泊めるのが好きな家なのかもしれん。さて今日はどこへ行こうかとトリッシュと話しながら朝食を頂き、学校へ行くという承太郎を見送ろうと彼について玄関先まで行った――が、承太郎にいってらっしゃいのキスを迫るホリィが来ない。昨日の攻防を知っているわたしはもちろん、普段キスをするのしないので争っている承太郎が変に思わないはずがない。

 バタバタと台所へ引き返せば……ホリィが倒れていた。背中から伸びるのはスタンドか――戦闘本能の薄い者には害になり死に至ることは経験から知っていたが、仮にも一宿一飯の恩人である彼女をその他どうでも良い奴らと同じように見捨てることなどできるはずもない。しかし、何故彼女にスタンドが発現したのだろうか? スタンドの矢はここにないだろう。


「ホ……リィ」


 ジョセフが掠れた声でホリィの名を呟いた。アヴドゥルもジョセフも――承太郎にもスタンドが見えているということは、三人ともスタンド使いということか。トリッシュはまだスタンドこそ発現していないが、わたしのキング・クリムゾンを視認できる。血を同じくする者同士は共にスタンド能力の発現する確率が高いから、ジョセフあたりがスタンドに目覚めて承太郎に伝染したのか……。


『パドレ、スピーナ(棘)……いたいいたい』

『そうだな。ホリィが痛そうだな』


 トリッシュには茨が刺さっているように見えるようで、ホリィの背中を指差していたいいたいと繰り返す。このまま人の痛みを分ることのできる人に育ってくれ。

 横でジョセフが承太郎に掴みかかり台所の扉に押し付け、承太郎の肩に額を押し付けて唸る。娘の生死だ、動揺するのも分る。わたしもトリッシュがスタンドに殺されると知ったら原因を八つ裂きにしても止まらないだろう。もし原因がわたし自身だとすれば自殺するのも厭わない。


「わ……わしの……わしの最も恐れていたことが……起こりよった。つ、ついに娘に……『スタンド』が……」


 抵抗力がないんじゃあないかと思っておった、DIOの魂からの呪縛に逆らえる力がないんじゃあないかと――と続けるジョセフの言葉になるほどと内心頷く。そのディオとやらから呪われたか何かして、ホリィがスタンドに強制的に目覚めさせられたというわけか。

 承太郎がジョセフの左手を握り潰さんばかりにギリギリと掴み、ドスの効いた声で対策を言えとジョセフを詰問する。ジョセフはバッと承太郎を離してアヴドゥルからホリィを受け取り嗚咽を漏らした。


「DIOを見つけ出すことだ! DIOを殺してこの呪縛を解くのだ! それしかない!!」


 部外者のわたしの存在を忘れ、三人はやれナイルウエウエバエだアスワンウエウエバエだの、どこから持って来たのかは知らんが世界の甲虫図鑑を広げて大騒ぎし始めた。エジプトアスワン付近にディオとやらがいると分ったところで昨晩から泊っている花京院典明青年が現れ、さも当然の顔をして話に加わる。


「わたしも同行する」

「花京院」


 承太郎が目を見開き花京院を見やった。わたしも同行したいところだがトリッシュを連れて行くわけにもゆくまい。楽しく愉快なエジプト旅行と洒落込むのは難しいだろうし、休暇を取れる期間も限られる。しかし楽しそうだな……目的はディオという男を倒すためのものだが、スタンド使い同士の親善旅行と言えなくもない。


「JOJO。占い師のこのおれが、おまえのスタンドの名前をつけてやろう。――運命のカード、タロットだ。絵を見ずに無造作に一枚ひいて決める。これは君の運命の暗示でもあり、スタンド能力の暗示でもある」


 わたしは自分で勝手につけたと言えない流れだな……。

 台所の端で壁に背中を預けて立つわたしに、やっと視線が向いた。アヴドゥルが困惑した様子を隠すことなく口を開く。


「ディアボロ……君ももしかして」

「その通り、わたしもスタンド使いだ。そしてトリッシュもまたスタンド使いになりうる素質を持っている。私のスタンドはキング・クリムゾン、数秒先の未来を読むことができる」


 時間を消し飛ばす能力については口にするべきではない。彼らが人に洩らすとは思わないが、これでもわたしはマフィアのドンという立場にある。


「そこの花京院という彼はついて行くようだが、残念ながらわたしはついて行けない――トリッシュを一人には出来ないからな」


 トリッシュを安心して預けられる相手がいることはいるが、彼らは今イタリアだ。後で電話して預けたとしてもジョセフたちから二日遅れることになる。


「しかし、ホリィには美味しい日本の料理や風呂を頂いた。わたしは一宿一飯の礼を欠くような男になるつもりもない。裏の人間だが、一人、良い人材を知っている」

「――つまり、あんたも裏の人間だと?」


 ジョセフが眉間に皺を寄せる。


「そうだ。わたしはイタリー一の規模を持つマフィア、パッショーネを率いている……要はヤクザの親玉だ」

「マフィア……!」


 全員が目を見開いた。


「勘違いして欲しくないのは、パッショーネは麻薬を扱うような外道マフィアではないことだ。街の人々に愛され憧れられるマフィアだ」


 街の子供たちに将来の夢は何かと聞けば、十人に七人はパッショーネに入ることと答えるほど好かれているぞ、と胸を張る。

 彼らの中でマフィアというものはチャカをバンバン撃ち合って血みどろの殺し合いをするとか、映画のゴッドファーザーのようなイメージが強いらしい。「それは本当にマフィアなのですか?」と花京院に言われたが、マフィアだ。トリッシュに会う前まではもっと物騒なチームだったということまで言う必要もないからな。


「それでだ。わたしの配下には幾人ものスタンド使いがいる。中には病気の症状を一時的に失くすというスタンドを持つ者もいるのだ――スタンドの拒絶反応を失くすことができるかは分らんが、してみて損はないはずだ」


 彼女のスタンドは病気の症状を失くすだけで、病状は日々悪化して行くのだがな。病気か寿命かは関係なく、そろそろ死んでしまうという時に「残りの命をベッドから出て過ごしたい」という希望を持つ者は多い。医者と看護婦の両親を持った彼女がそのようなスタンドを持ったと分った時は納得したものだ。


「本当か!? そのスタンド使いを派遣してくれんか……お願いじゃ、派遣してくれるなら何でもする……何でも、ホリィの代わりなどおらんのだ……!」


 ジョセフはわたしの肩を掴んで揺さぶる。承太郎も口にはしないものの同じことを考えているようだ。


「ストップ、ストップ。派遣すると先に言っただろう? 対価などいらん。彼女が日本に滞在するための宿の用意さえしてくれれば良い」


 誘導してホリィに視線を集める。はぁはぁと荒い息を吐き、背中から荊のような蔓を生やしている彼女は本当に辛そうだ。

 全員がグッと拳を握り唇を噛み締める。わたしは彼らの仇であるDIOとやらがどんなな男なのかは知らない。少し前のわたしのように「オレの絶頂エクスタシー」みたいな状態なのだとしたら至極残念な男としか言いようがない。しかしジョセフが取り出した写真のナルシストらしいポーズを見るに「エクスタC!」とか言っていそうだ。Cなのはオロ○ミンCだけで十分だ。

 ホリィのためにも、すぐにドッピオに連絡させねばな……。









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24から転載&加筆修正有り。
2013/07/31

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