♀+♂→QUEEN番外THE PAST(逆行前)



 オレと両親との仲は最悪だ。絶縁状態と言っても良いくらいに乾ききっている。原因はオレの性についてがあまりに一方的だったことと、オレが荒れても見て見ぬふりをするばかりで何もしようとしなかったことだ。縁を切ってないのは――会いに行くのも手紙を書くのも嫌だから。遺産がどうのこうのってなった時は遺産破棄の手続きするつもりだし。


「来月から日本へ行くぞ」

「そーか」


 承太郎と再会して二年、アメリカに無理やり連行されたが、承太郎は日本へ帰るらしい。承太郎がいない場所ならアメリカも天国になりそうだ。


「じゃあ承太郎も荷物まとめないとな。ベッドとかも処分しないといけないだろうし」

「何を言っている」


 ソファに寝転がって書類に顔を埋めてたオレを、承太郎は呆れた顔で見下ろした。


「『行く』と言っただろ。滞在するだけだ――向こうではホテルに住む」

「さようか。体壊すなよ、行ってらっしゃい」

「馬鹿を言うな、お前も一緒に行くんだ」


 なんだと。


「承太郎、お前一人で行けよ。もしくは嫁さんとジョリーンちゃんと三人で行ってきたらどうだ? 里帰りでもしろよ。きっとホリィさんが『承太郎が連絡くれないわ』とか『承太郎からの愛の電波が届かないの』とかって泣いてるぞ」


 ソファの肘置きにもたれるように体をずらして起きあがり、承太郎と再会してから連絡を取り合うようになったホリィさんの名前を出す。ジョセフさんが「ホリィが承太郎が連絡をくれないと嘆いておるんじゃ。ナルミは仕事のパートナーじゃろ? 適役適役!」とか言って連絡先を押し付けて腐ったことでメル友になったんだが、承太郎を生み育てたとは思えないほど優しくて良い人だ。


「犯罪者を追うのに妻子連れで行く馬鹿がいるか?」

「――海洋学者からインターポールに転職したのか?『インターポールの銭形です』ならぬ『インターポールの空条です』とでも言うわけ?」


 犯罪者を追う海洋学者がどこにいる。


「そんなわけがないと知ってるだろうが。SPW財団での仕事だ……てめーにはまだ話したことがなかったな、オレが追うのはスタンドという超能力によってもたらされる犯罪だ」


 ……どうやら脳内が妖精に侵されてしまったらしい。オレを拘束するのはまあ、心配かけ過ぎた反動なんだろうと思うことにしてるが、超能力とか言われると正直引くわ。

 書類を横のテーブルに投げて立ちあがる。オレより十センチ以上高い位置にある顔を見上げながらポケットからPHSを取り出した。


「承太郎、病院に行こう。オレも一緒に着いて行ってやる。でも一応診察室には一人で入ってくれよな」

「俺の話を聞け」

「奥さんやジョリーンちゃんへの説明は任せておけ。ちゃんと治るまで病院から帰ってくるなよ」

「話を聞けと言っている」


 こ、コイツ殴りやがった……! この打撃一回でオレの灰色の脳細胞が何セル殺されたんだ。この野郎、慰謝料請求してやる!

 そして二人でソファに座り、落ちついて茶を飲みながら説明を受けたのはスタンドとかいう分けワカメなものについて。


「――ふむ。お前の頭がショッキーングショッキーングになっていることは良く分った」

「全然わかってねえよ」


 今度はチョップかよ痛いな!!


「まあそのスタンドとかいうのは後で考えるとしてだ。ホテルってことは東京以外だな?」

「ああ。M県S市杜王町という場所だ。てめーが寄るっつうなら実家に寄ってから行っても構わないぜ」


 全然聞いたことねーわそんな町。どこら辺にあるんだ?――その杜王とかって町をド田舎だと言うつもりはないけど、関東から出たことのないオレが東北のとある市のとある町の名前まで知ってるわけない。分るのは県庁所在地までだ。


「そりゃあホリィさんも喜ぶ。是非そうしろ」

「俺が言ってるのはてめーの実家のことだ」

「必要ないよ、そんなの。あいつらオレが今アメリカにいることすら知らねーし」


 恵まれた両親の下に育つ子供ばかりじゃないんだぜ、世の中って。そう軽く言えば、承太郎は難しい顔をして「そうか」とだけ答えた。

 オレはXX/XYモザイク型性分化疾患と言うヤツで、ホルモン投与如何でどちらにでもなれた。――オレは男として育ったし男としての自我もあった。性別を聞かれたら男以外の何なんだよと答えただろう。性別を決めるのにオレの意思は全く無視で、スカートだスポブラだと渡されたら……まあ、オレが荒れたのはそういうこともあったんだ。女にさせるくらいなら、なんで男として育てたんだよ。おかしいだろ。

 今さら男性ホルモンの注射を始めても身長はこれ以上伸びないし肩幅もしかり。ふにゃふにゃ軟弱な男になるのはオレの矜持が許さない。それなら女のままでいる方がマシだ。


「承太郎」

「……なんだ」

「お前の実家に一泊するっていうのはアリか?」


 あからさまな話題転換に承太郎の口元が少しだけ緩む。ほんの少しだから分らない奴の方が多いだろうけど、これでも幼馴染み兼親友だ。分らないわけがない。


「アリだ」

「そうか」


 いつか、この性別を受け入れられるようになったら。

 そうしたら――誰かと結婚なんてのも考えて良いかもな。









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24から転載&加筆修正有り。
2013/07/31

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