イフタフ19



 花園さんが俺ん家に来ることになって嬉しくて、だけどすぐに心配になった……俺の部屋片付いてるよな? そんなに汚くしたつもりはねーけど、人が見たら汚いと思う可能性あるし。あ、そ〜だ居間にいてもらえば良い!

 ってことで居間に花園さんたちを通して緑茶を人数分淹れる。紅茶とかコーヒーは向こうでもっと美味しいのを飲んでるだろうし、日本に帰ってきた人が相手ならやっぱ緑茶だろ。菓子は煎餅があったからそれを皿に出した。向こうの菓子が甘かったっつってたし、醤油とか喜んで……もらえたら良いなァ。

 お盆に全部乗っけて居間へ戻ったら、花園さんが鞄の中から観光案内冊子や向こうの新聞をテーブルに出してるところだった。


「有り難う仗助くん」

「いえいえ呼んだのはこっちなんで当然っすよ〜」


 実は花園さんの分だけ二番茶のみだけど差別じゃない、区別だ。俺が花園さんの横に座ったところで土産話が始まった。


「僕にはペンパルが何人かいるんだけど、その一人がイタリア人でブローノ・ブチャラティと言うんだ。彼にネオポリスへ来ないかと誘われたことで今回の旅行と相成ったのさ」

「イタリア人のペンパルってことは、花園さんはイタリア語が堪能なんですか?」

「ラジオイタリア語講座程度の会話なら可能だよ。で、行きの飛行機がビジネスに変更になったのは言ったよね。それでこれは幸先が良いな、この旅行は良いものになるに違いないと思った。実際にその通りだったよ」


 ブチャラティってヤツとすぐ兄弟のように気安くなったこと、そいつの家までの道でドイツのワーゲンとカーチェイスをしたこと……そして、そいつがギャングスターだったこと。


「ギャング!? え、花園さん大丈夫だったんすか!?」

「もちろん無事だったよ。ギャングと言ったって誰彼構わずハジキ向けるわけじゃないよ。普通にしてたら良いのさ、敵対して殺そうとしない限り殺されることはないからね」

「でも、物騒ですね、イタリアって」

「だよなァ、銃で撃つだの殺されるだのってーのは心臓に悪いぜ」


 康一たちの感想に花園さんは困ったように笑った。


「イタリアは先進国の一つで、世界を引っ張る立場にある国だ。EUの中では立場も力も弱いけど世界中の国々の中では影響力の大きい部類に入る」

「ふんふん」

「だけど同じ『先進国』である日本と比べると治安はかなり悪い。――日本の治安は他の国の何倍も良いって聞いたことはないかい?」


 新聞だったかテレビだったかで何度か聞いた覚えがあるようなないような。康一だけは「あります!」って答えてたけど、俺と億泰は顔を見合わせて聞き覚えがあるか訊ねあった。


「きみたち、オリヴァ・ツイストを読んだことは……」


 俺たちの顔を見た花園さんは一瞬口をつぐんだ。


「なさそうだね。レンタルビデオ店で『オリヴァ・ツイスト』とか『オリバー!』とかで探せば古い映画だけどビデオがあると思うよ。――孤児である主人公のオリヴァはロンドンの街でユダヤ人フェイギン率いる窃盗団に無理やり入らされ、スリや泥棒をさせられそうになる。しかしオリヴァは正しい心を持ち続けたために最後には幸福を手に入れるという物語さ。今言いたいのはこのスリや泥棒のことで、実を言うとヨーロッパにはまだストリートチルドレンやスリが沢山いる。観光地でも路地裏とかにひっそりと暮らしていて、隙だらけの観光客から財布をスったり荷物を全部強奪したりってのは彼らには慣れた物だ」

「え、子供がそんなことをするんですか?」

「子供だからそんなことをするのさ。すばしっこいし、狭い路地裏にでも逃げ込んでしまえばすぐに見失ってしまうだろ。今回もたった五日間の滞在だったのに両手で数えられないくらい狙われたよ」


 背が低いし細くて弱そうに見えたんだろう。でも盗られたのはポケットティッシュ入れだけさ。そう言った花園さんにホヘーと感想が漏れる。そんな子供も世界にはたくさんいるのか……。


「ギャングの仕事の一つに、そういったストリートチルドレンを監督し、あるライン以上の街の治安を守るってことがある。日本で言えば暴力団がショバ代を出させる代わりに警備を行うようなものだね」

「暴力団って……」

「銃ぶっ放して抗争してるイメージしかねーや」

「俺も。それか銀星会みたいな政界と癒着して……ってヤツだなァ」

「仗助くんがあぶデカを知っていることに僕はちょっと驚きを隠せないよ。君は一体幾つだい」


 じいちゃんが録画してたのを見たから知ってるんだと答えれば、なるほど納得だと花園さんが笑った。


「暴力団っていうのは村や町の自警団が元だからね。自警団っていっても『オレたちに暴れられたくなければ金を出せ』っていう意味合いもなきにしもあらずだから、もろ手をあげて歓迎するわけじゃないけどいなくなられても困る組織だったわけ。イタリアのギャングも同じことさ。腕力を示すことで土地の治安を守り、その対価に金をもらうんだ」


 僕の友達は純粋で正義感に溢れる男だよ、とそのブチャラティってヤツを自慢する花園さんは満面の笑みで、今この場所にカメラがないのがすっげーもったいなかった。

 花園さんに喜んでもらいたい。笑顔を見たいし、色んな表情を見たい。この家に暮らしてくんねーかなァ。

 それから俺は花園さんの土産話を色々と聞きながら、花園さんをこの家に同居させるにはどうしたら良いかを考えて過ごした。









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24から転載&加筆修正有り。
2013/07/31

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