イフタフ18



 夏休み直前の小旅行から後ろ髪が引かれる思いで帰国した僕を、なんと仗助くんたちが待っていてくれた。帰国の時間言ってなかったはずだけど……もしかしてずっと駅前で待ってたんだろうか? 君はどこの忠犬ハチ公だい。お土産を期待してるのかと思ってプロシュートやホルマッジョを渡したら三人は喜んで受け取った。


「お土産も嬉しいっすけど、土産話も聞きたいなーなんて!」

「イタリアってどんな国だったんですか?」

「このハムうめぇー!」


 おいこら億泰くん、こういうのは家に帰ってから食べるもんだよ普通は。公衆の場で食べるんじゃない。

 駅から流れてくる冷気で涼みながら、駅のベンチでイタリアの話をすることになった。


「どんな国か、ね……食事は全体的に脂っこくて、あのままあそこにいたら太るんじゃないかと不安になったけど美味しかったよ。サーモンカルパッチォが一番白いご飯と合うんじゃないかな。お菓子は甘かった」


 話せないことの方が多いのでどうでも良いことから話せば、三人がコソコソと集まって「花園さんってもしかして説明下手……?」「もっと話すべきことってあるはずだもんな……」と話していた。君たち、丸聞こえだよ!!


「仕方ないね。物騒な話と平和な話、君たちはどっちを聞きたい?」


 三人の頭に拳を落としてから訊ねれば、仗助くんが「どっちも聞きたいっす!!」と言ったので両方話すことになった。人の多い場所で話せることでもないからどこか四人だけになれる場所はないかと言えば、仗助くんがハイハイと勢い良く手を上げて「オレん家来て下さい!!」と目を輝かせた。


「お邪魔しても大丈夫かい?」

「邪魔だなんて、花園さんならいっそ一緒に暮らしても良いくらいで!」


 なんかおかしな方向に話が向かっていやしないか?

 助けを求めて康一くんや億泰くんを見たら、何故か勢い良く顔を逸らされた。仗助くんのおかしな言動の原因について知ってるのなら教えて欲しいんだけどね……。後で尋――詰問すべきか。

 ちょっと離れてるからタクシーに乗りましょうよと提案されたので、タクシーで仗助くんの家へ向かうことになった。タクシー乗り場までの短い距離ながら僕だけキャリーをガラガラ引っ張ってるのが気になるのか、仗助くんが代わりに持ちましょうかと言ってくれた。中身スカスカだから全く重くなんてないんだけど、年上にだけ持たせるのは悪いと思ったんだろう。こういうところ、仗助くんの育ちの良さが現れて良いよね。


「有難う。でも大丈夫だよ、軽いからね」

「そっすか?」


 タクシーには僕、仗助くん、康一くんが後ろに乗り、億泰くんは一人前に乗った。タクシーの運ちゃんが明らかに不良ルックの二人に顔を引きつらせたけど、仗助くんは気にした様子もなく住所を伝えた。


「そういえば、イタリアに行くのって半日も飛行機に乗ってないといけないんですよね? やっぱりそんなに長時間乗るのって大変ですか?」


 康一くんが仗助くん越しに質問してきたので、まあそうだねと答える。


「行き道は運が良いことに、航空会社側が誤ってダブルブッキングしたことでビジネスクラスの席に座れたんだ。いやー良かったよビジネスクラス。エコノミークラスが反省房に思えるくらいだね」

「え、反省房に入ったことがあるんですか」

「そりゃあ中学高校と入らない週はなかったよ」

「ほへー」

「すげー」


 停学処分も三回食らったし、退学処分になりかけたことも一度ある。いつもは厳しくて鬼みたいだから、政史って名前からとって政鬼って呼ばれていた体育教師が庇ってくれなかったら高校を中退していただろうね。あの時ほど捨てる神あれば拾う神ありという言葉を実感した時はないよ。

 平気そうどころか感嘆までしてる億泰くんと仗助くんに対し、康一くんは青ざめた顔で僕を見た。どうしたんだい康一くん、君は僕が不良だったってこと知ってただろ? 今さらだよ君ぃ。


「ビジネスは静かだし席を後ろに倒しても文句を言われないし、飲み物も料理も良かった。金のかかるような趣味なんて持ってないから、今度旅行に行く時はビジネス席にしようかなと思うよ」


 これと言った趣味、ないんだよね。いま読んでる漫画なんてピンクダークの少年くらいだし、銭湯でゆっくり湯につかるのが至福の時かな。小説はハードカバーじゃなくて文庫本版を待つか図書館で借りるから支出も少ないんだよね。一応両親に仕送りしてるけど懐には余裕が十分ある。

 そんなこんなと話しているうちに仗助くんの家に着いた。前にも見たけどやっぱり大きくて羨ましい。広い風呂場、広い部屋。実家に帰っても、きっと僕の部屋は物置部屋になってる。


「どーぞ花園さん入って下さい!」

「じゃあ、遠慮なく。お邪魔しまーす」


 ニコニコと僕を家に招く仗助くんを可愛いなと思っていたら、康一くんと億泰くんが僕の後ろでコソコソと内緒話をしていた。僕はアルティメット・シイングだよ、聴力は人間の――何倍あるのか測ったことないから分らないな。


「なあ、あれってよ……ホの字?」

「そんな感じ、だよね。慕ってるというには行き過ぎた感じがするし」


 ちょっと後ろの二人、怖いことを言うのは止めてくれないか。僕の恋愛対象は異性だし、それ以前の問題として性欲もない。十四歳になっても朝の生理現象がないことで、僕は不能なのかと一ヶ月ほど悩んだことがあるんだからね。学校のマドンナから告白されて可愛いなと思った――けど全く性欲が湧かなかった。もちろん断る他なかったさ。この悔しさが分るかい?

 「女が駄目なら男だったら性欲が湧くかなー」なんて実験をするつもりはないんだよ。









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 24から転載&加筆修正有り。
2013/07/31

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