♀+♂→QUEEN9



 空港へジョセフさんを迎えに行くというホリィさんと同行することはせず、オレは承太郎と鉄格子越しにしゃべって暇を潰していた。お前のために今日学校を休んだんだ、感謝してくれても良いんだぜ。

 スタンドについて書かれた本なんてあるわけがないせいで、承太郎の周囲にはオカルトや超能力に関する本が山になっていた――そんなもの、読むだけ無駄なんだけどなぁ。スタンドの暴走を止めたいならスタンドを使わないと。自転車が動く理屈を知ってても練習しなきゃ乗れないのと一緒だ。


「というわけで承太郎。死ぬなよー」

「おい、そりゃ何だ……まさか本物とか言うなよ」

「もちろん本物の拳銃に決まってるだろ。実弾入ってるからな、死ぬなよ」

「おいてめッ!!」


 こっそり警官からスったんだが、ジャンヌを使ったからオレがやったってバレてない。銃口を承太郎に向けて引き金を引けば――スタプラさんが危なげなく弾を止めた。


「何をしやがる!」

「実験」


 ガルルと吠える承太郎にケロリと答えてやる。逆行してくる前、承太郎が「銃の弾も掴む正確さと速さを持つ」って言ってたのが気になってたからちょうど良かった。ちなみに失敗した時は承太郎の命を盗り返すつもりだったから大丈夫。

 拘留されてる他の奴らが「人間じゃねぇ」とか「殺される!!」と騒いで煩いから睨みつけて黙らせる。


「これは357マグナムだから初速で約四百四十メートル毎秒。オレと承太郎の間には五メートルも距離がないから初速からさして失速してない。つまり承太郎のスタンドは秒速四百四十メートルの銃弾を見切り、掴むことができる程の正確さと速さを持つことがこれで証明されたね」

「鳴海、お前」

「スタンドの能力を良く知らないままでいるのは選択肢を狭めるだけだぜ」


 もしあの時、奪い返す力について知ることができなかったら。――オレは絶望のうちに死んでいただろうし、それ以前の問題として今この場にいない。

 帰りがけにこっそりまたホルダーに返しておかないとなと思いながら銃をポケットに突っ込んだその時、扉の向こうから話し声が近付いてくるのが分った。

 十一時を少し過ぎたところだから、空港からここまで直行したんだろう。承太郎のいる牢屋内を見た警官が悲鳴を上げた。


「お……恐ろしい……ま、またまたいつの間にか……も、物が増えている……。そ、そして凶暴なんです……か、彼にはな……なにか恐ろしいものが取り憑いている……。こ、こんなことが外部に知れたら……わたしは即、免職になってしまう」


 承太郎が過ごしやすいようにどんどんと物の増えた室内にはダンベルやらギターやら、テーブルにラジコンまである。この年齢でラジコンが好きとか可愛い性格してるじゃないかと思うオレは爺臭いのかもしれない。


「大丈夫、孫はわしがつれて帰る」

「孫……?」


 警官の後ろから現れたのはオレの記憶にある姿よりもだいぶん若いジョセフさんだった。認知症になってないし背筋もぴんしゃんしてる。オレが初めてジョセフさんに会ったのは可愛いお爺ちゃんになってからだからちょっと新鮮だ。


「なにをする? これより奥へ行くことは禁止と言ったはずだぞ、ここで説得してくれッ!」


 ジョセフさんは危険だとか責任がとか騒ぐ警官を無理やり摘まみ上げ、「いいからどいてろ」と横に放り投げ通路へ押し入ってきた。この時は波紋法とかいう呼吸法で若さを保ってたんだっけ? 髪こそ白いけど体格も眼光も承太郎に勝るとも劣らず……いや、胸板の厚さとかはジョセフさんの方が勝るな。あの可愛い爺さんにもこんなオラオラな時代があったんだと思うと「人に歴史あり」とはなるほど頷ける言葉だ。


「承太郎! おじいちゃんよ! おじいちゃんはきっとあなたの力になってくれるわ。おじいちゃんと一緒に出てきて!」


 ホリィさんが後ろからひょこりと顔を出して承太郎にそう呼びかけ、オレに「ナルちゃん、承太郎についていてくれて有難うね!」と笑顔を浮かべた。警官からパクった鍵で扉を開いたジョセフさんの鉄格子を挟んだ真正面に承太郎が立った。オレは出入り口で震えてる警官の近くに寄って拳銃をこっそり返す。そっちから返却されに来てくれるとは有難い。


「出ろ! わしと帰るぞ」

「消えな」


 ジョセフさんも説得とか話しあいとかそういうのを丸っと無視した言葉だけど、承太郎もそこまでバッサリ切り捨てなくても良いんじゃないか?

 睨み合いながらそんなやり取りをするのが祖父と孫だっていうんだから……普通の祖父と孫というのは「承太郎、じいちゃんと一緒に帰ろうじゃないか」「仕方ねーな」みたいな心温まるやり取りをするものじゃないのか。オレの場合はそうだったんだけど。


「およびじゃあないぜ……俺の力になるだと? なにができるって言うんだ……ニューヨークから来てくれて悪いが、おじいちゃんは俺の力になれない」


 そう言って承太郎が掲げて見せたのはジョセフさんの義手の小指だった。ジョセフさんが左手を見下ろし、そのスピードと正確さに目を見開く。


「見えたか? 気付いたか? 俺に近づくな……残り少ない寿命が縮むだけだぜ」

「練習次第でどうにかなるって言ってるのに……」


 オレの愚痴は無視された。

 ジョセフさんは足で牢の扉を閉めて背中を向けた承太郎を見つめながら何やら決心したようで、硬い表情をして指を鳴らす。オレ、指を鳴らすの出来ないんだよな。何故かスカスカ言うんだ。

 そんな平和なことを考えてるオレを置いて展開は進む。扉の向こうから現れたのは頭に黒い棒をいくつも刺したような髪型の巨漢で、年齢は分らないけど老け顔だろうことは分る。それにしても、外国人というのは筋肉太りしやすい性質なんだろうか? ナルシソは細マッチョだったけど、オレの知るマッチョ共の九割九分はボディービルダーのような体格を誇るヤツばかりだ。

 それにしても『アヴドゥル』か、ここに来たってことはスタンド関係者に違いないけど、聞き覚えのない名前なのは何故だろう。その1、オレがスタンド関係の問題に巻き込まれる以前に亡くなっていた。その2、その時にはSPW財団と関わらない生活をしていた。その3、何らかの理由があって承太郎たちと絶縁した。

 オレとしては平和な選択肢であるその2を選びたいところだ。――その1が一番可能性が高いように思うのはオレの妄想か? 確かDIOとの戦いで数人亡くなったと聞いた。アヴドゥルさんはその一人なのかもしれない。気のせいであってくれれば良いんだが。


「三年前に知り合ったエジプトの友人アヴドゥルだ。アヴドゥル……孫の承太郎をこの牢屋から追い出せ」


 友人に命令形ってどうなんだ。

 承太郎はどっかりとベッドに腰かけると、アヴドゥルさんに対して物凄く失礼なことを口にした。


「力は強そうだが、追い出せと目の前で言われて――素直にそんなブ男に追い出されてやる俺だと思うのか? 嫌なことだな……逆にもっと意地を張って、なにがなんでも出たくなくなったぜ」

「承太郎初対面の人をブ男なんて言うなよ。お前の顔が恵まれ過ぎてるんだ」


 また無視された。しまいにゃ怒るぞオレも。おい見ろよアヴドゥルさんの顔……美形に面と向かって「やーいブ男ー」と言われたらキレたくもなるよな、そりゃそうだ。気持ちは良く分る。


「ジョースターさん……少々手荒くなりますが、きっと自分の方から「外に出してくれ」とわめき懇願するくらい苦しみますが」


 よろしいですか、とにおわせるアヴドゥルさんにジョセフさんが許可を出した。ですよねー。

 ホリィさんが困惑して声を荒げ、警官たちが「騒ぎは困る」と細い声を上げた――黙ってろと言われて「はい」と答える日本警察。これで良いのか日本の警察。そしてアヴドゥルさんがなにやら不思議なポーズをとることで精神集中し、その体から飛び出て来たのは鳥の頭に人の体を持つスタンドだった。鳥の頭とは言っても人間の顔を少しミックスさせたような造形だから鳥の種類までは分らないけど、猛禽類だろうことは明らかだ。出身地も考えるとラーもしくはホルス型スタンドって言うと良いのかもしれない。ってことは、このスタンドの能力はッ!!


「気をつけろ承太郎! そいつの能力は熱か炎だッ!!」

「「なにッ!?」」


 零れんばかりに目を見開いてオレを見つめる二組の目。オレ、何か変なこと言った?


「君にも見えるのか、これが!」

「何故私のスタンドの能力が分った!?」


 あー、えーっと、承太郎クン助けてくれない? 視線でそうお願いしたら、承太郎がアヴドゥルさんに喧嘩をふっかけた。


「おいブ男、お前の相手はオレだぜ」


 承太郎がアヴドゥルさんを誘導してくれたお陰で詰問の目は一組に減ったけど、ジョセフさんの視線が痛すぎる。


「オレも持ってるからですよ、スタンド」


 そう言ってジャンヌを出せば、何故かジャンヌの甲冑が鎖帷子に赤い十字のベストを着た姿に変わっていた。昨日までは女用の甲冑だったから一目で女だと分ったけど、これじゃあ細身の男にしか見えない。一体どういうことだ? 何かで進化したとか……そんな予兆全くなかったんだけどなぁ。


「このスタンドとは今年で七年目の付き合いになります」


 ずっと能力を磨き続けて来たんだ、そこらの奴らに負けるつもりは全くない。ジャンヌを見やれば頷かれた。だよな。オレたちコンビは決して負けない。負けたらいけないんだ。

 ――そういえば、ジョセフさんの顔を見て思い出したんだけどさ。仗助くんってこの時期にはもう生まれてるんじゃなかったか?







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24から転載&加筆修正有り。
2013/

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