♀+♂→QUEEN8



 過剰防衛で留置されただけで、承太郎は人殺しをしたわけではないそうだ。冤罪をおっ被されたんだったらジョリーンと一緒なのにと思ったけど、死者がないのは良いことだ。

 牢屋の前まで迎えに行ったホリィさんとオレを見た承太郎は面倒くさそうに顔をしかめた。曰く、悪霊が憑いてるから出ないとのこと。

 だけど承太郎が悪霊だと言ったのって、スタプラだろ。もう一人の自分を悪霊扱いするとかどんなマゾプレイ? まだスタンドについて知らないからこその悪霊扱いなんだろうが、知ってるオレからすれば単なる自虐行為にしか見えない。ぷぷーわろすわろすー。

 だがホリィさんに対して帰れアマとはなんとも……ジョリーンを脱獄させに行った時にそっくりだ。流石親子、似なくて良いところが似るんだな。


「おい承太郎。ホリィさんはちょっと天然が入ってるけど良いお母さんじゃないか。アマとか言うなよ」

「天然って何の天然?」


 ……そういうところです。


「チッ――お袋、鳴海、俺は帰らないぜ。悪霊が何をするか分ったものじゃねえ」


 いそいそと留置所の中を片付けて整理整頓するスタプラを見てると、ジョリーンを守るために戦った時の彼と比べてしまって涙が出そうだ。哀れな……なんて哀れなんだ。雄々しく頼りがいがあるはずのスタプラさんがただのオカンに見えてきた。スタプラさんマジ主婦すぎる!! いや、恰好良いスタプラさんは未来のスタプラさんだけどな?

 仕方がないので、スタンドについて分ってるオレが説得に当たることにしよう――だけどちょっとくらい怪我させちゃっても良いよね。


「ホリィさん、ここはオレに任せてもらえませんか。ちょっとアグレッシヴというかヴァイオレンスというか、見ていて気持ちの良いとは言い難い光景が広がると思いますので……なるべくなら先に帰って頂いた方が良いかもしれません」

「ナルちゃん、でも……。ううん、ナルちゃんの言葉なら承太郎も聞いてくれるわよね」

「どこからそんな確信が持てるのかはさっぱりですが任せて下さい」


 承太郎の手綱なんてオレに引けるわけがないだろう、常識的に考えてくれ。

 振り返りつつ帰って行くホリィさんを見送って、さっきから無視してるけど煩いことこの上ないヤジを上げる奴らを見回す。


「恋人が捕まっちまって残念だな、ねーちゃん!」

「そんな不良の彼女なんて止めてオレに乗り換えねぇかい!」

「煩い黙れ酔っ払い共。一人寂しく飲酒運転で事故って天国でもどこへでも行け、そして帰ってくるな」


 オラは死んじまっただ、地獄に行っただとでも歌ってろ。静かにしてもらわないと困るので殺気を込めて睨めばみなが押し黙った。


「――承太郎、その青いのは悪霊じゃない。同じ力を持つ者同士でしか視認することのできないヴィジョンで、スタンドという」


 鉄格子に手をかけて承太郎を見やれば、承太郎もベッドに腰かけたままオレを見上げた。スタプラさんが雑誌をまとめて部屋の端っこに積み上げたのが視界の端に映って……笑いをこらえるのが辛い。クソッ、オカン……! オカンがいるッ! 猛烈に似合わない!!


「スタンドの名前の由来はStand by me、そばに立つもの。個々の性格や思想などによってスタンドの姿は様々で、人型の物もあれば動物や現実には存在しないような不思議な生物の形をとる物、はたまた銃のような武器として現れる物まである」

「……やけに詳しいじゃねえか、鳴海」


 唸る様に言った承太郎に苦笑が零れる。これを教えてくれたのは将来のお前自身なんだがな、承太郎。


「オレもスタンド使いなんだ」


 両腕をクロスさせて胸に置いて少し海老反りに立つ――ジャンヌ・ダルクが現れ、オレの両手にはレイピアと旗が出現した。この立ち方に理由はないけど、なんとなくビシッと決まるのでジャンヌを出す時にこのポーズをとることが多い。


「彼女の名前はジャンヌ・ダルク。オレのスタンドだ。スタンドにはそれぞれ固有の能力がある。腕力がその能力である場合ももちろんあるけど、重力を操作するとか色んな場所にジッパーを作るとか、超常的な能力を持つ物も多い。オレのスタンドは奪われたものを取り戻すという能力を持つ。例えば――承太郎、オレのこのハンカチを持って、『絶対に鳴海には返さない』と強く念じていてくれ」


 ポケットからハンカチを出して鉄格子の中に投げ渡せば、承太郎が難なくそれをキャッチして握り締めた。


「チクっとするが気にするな――ジャンヌッ!!」


 旗を持ったジャンヌが承太郎にその切っ先を突き出し刺し貫いた。刃物を突きつけられたってのにオレから目を離さず微動だにしない承太郎は本当に肝が据わってるよな。


「――このように、ハンカチはオレが『取り戻した』」


 承太郎の手からハンカチが消えうせ、オレの手の中に戻っている。


「手品のように思えるかもしれないけど、これはスタンドという超能力によるものなんだ。お前にもその超能力が目覚め、それが今は暴走している状態。暴走を止めるには自覚と決意が必要だ」

「自覚と決意だ?」


 真っ直ぐにオレを見つめる承太郎に頷く。


「そうだ。スタンドとは己の精神がヴィジョンとなったもの、つまりもう一人の自分だということを自覚し、その超常的な力を完璧に統制された理性の元に振るう決意。この二つが必要だ」


 視線を誘導してスタプラさんを見るように促し、黙って立つスタプラさんの腕と足を指差す。


「スタンドの腕は他人の腕ではなくお前の腕だ。スタンドの足は他人の足ではなくお前の足だ。スタンドは他人ではないし、悪霊でもない。オレのこのジャンヌ・ダルクのように、その青いスタンドはお前自身だ」


 スタプラさんが空気に溶けるように消えて行く。承太郎がきちんと自覚しきってくれたかはまだ謎だが、スタンドを拒絶する気持ちは薄まったからだろう。


「ここを出よう、承太郎。ホリィさんも心配してる」


 ここまでオレが丁寧に説明してやったと言うのに、首を横に降りやがったコイツ……。


「まだ安全だとは言いきれねえだろうが。アレが安全だと分るまでここから出るつもりはないぜ」


 こうだと決めたら梃子でも動かない承太郎の事だ、絶対に出ないに違いない。あークソ、面倒なことしやがって。

 説得を諦めて留置所を出ればホリィさんが待っててくれた。


「すみません、色々と説得してみたんですけど……」

「気にしないで。ナルちゃんの言葉でも出ないくらいだから――承太郎にも何かあるのよ」


 オレの説得には特別な力なんてないんだけど、ホリィさんの中でオレはどんな人間だって認識されてるんだか……。








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24から転載。加筆修正有り。
2013/07/30

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