♀+♂→QUEEN7



 中学で女の子デビューするんなら始めから違う学校に行った方が良いんじゃないかということで、奨学金で私立に通うことにした。男子は学ラン女子はセーラーというのは他と変わらないが学ランは白いしセーラーは水色だった。着る人間を選ぶ色だなマジで。いつも清潔に保ってないと汚れが目立つ色のせいで、先輩達が「生活感あふれるグループ」と「ちょっとくらいの汚れなんて気にしないグループ」に分れてるのが一目で分った。

 オレはちょっとくらいの汚れなんて気にしない派なんだが、教師はやはり清潔感あふれる派の方が好きらしく、そちらが贔屓されていた。制服に時間をかけるよりも勉強とかスポーツに時間をかける方が良いと思うんだけど……この時代の教師って結構身勝手だよなぁ。

 二十一世紀になると贔屓はどうだこうだとか、教師が生徒に圧力をかけたらいかんとかの批判が上がるようになったけど、まだ教師が神職な時代だからか教師の態度が悪いのなんの。女子でも竹刀で殴られるのが当たり前とかスパルタかよ。――というわけで、反抗してみた。小五から伸ばしていた髪を角刈りにしプロテクター代わりに胸や足にサラシを巻いて、かつても親しんだ木刀を持った。殴られたら殴り返してやるぜと木刀の先を竹刀の教師に突きつけてやった。

 ――結果、一ヶ月の停学処分になった。だけど制服の汚れなんて少しくらい気にしない派の生徒からヒーロー扱いされ、停学処分撤回の署名まで集まった。だいたい、制服が汚れてる派ってのは運動部に入ってる人とかが多いから、制服の汚れなんて気にする暇ないもんな。柔道着とか空手着は綺麗な白さスズランの香りが好まれるけど。相手さんは汚れ=汗だもんな。

 ここの中学にはここら一帯では珍しいことにフェンシング部があり、それがこの学校をえらんだ一番の理由だ。ジャンヌはもう一人のオレだからこそ、オレ本体もフェンシングをしておくべきだと思ったのだ。元々運動神経が悪くなかったお陰で夏休み前には同じ中一の中じゃ頭一つ抜けるようになり、顧問には「お前の剣には殺気がある」と褒めて良いのか分らないと言った表情で褒められた。

 高校はフェンシングの推薦で家から一時間の学校に通うことになった。顧問はフルーレ個人で日本代表にギリギリでなれなかったという男性教師で、入部早々オレの両肩を掴み「お前ならいける!! 目指すはオリンピック!!」と血走った目で叫んだのがちょっと怖かった。


「お前のその気迫と性格ならエペが良いんだろうが、オリンピックに女子エペはない! ちなみにサーブルもない! というわけでフルーレだ。私と同じフルーレだ。ただひたすらに目の前の敵を突け、渾身の力でヤツを突き殺せ!!」

「ヤツって誰ですか。それに殺しちゃ駄目だと思うんですけど」

「気にするな、そんなもん試合上の不運な事故だ! あの時の私もヤツさえ殺っていれば……!」


 おい指導者。人間としても色々間違ってるだろう指導者。これで良いのか指導者。


「一緒に世界の星を目指そうな、榎木!!」

「うい、むっしゅー」

「ついてはこの大リーグ養成ベル……ゴホン!! オリンピック養成ベルトを付けてみないか」

「止めてください」


 たまの休みに承太郎と二人で街へ遊びに出掛けること以外はこれといった娯楽もなく毎日が過ぎて行った。一年生で全国大会に出たことを恨まれたりしたけど、個人で銀の杯を持って帰ったことで表立って悪口を言われたりすることはなかった。

 高校二年生になり、会うたびにマッチョマンへの階段を昇って行く承太郎を見てふっと思い出した。そういえば今年の冬に承太郎はDIOとかいう吸血鬼を倒しにエジプトへ行くんじゃなかったか、と。去年と同じなら十一月も十二月も対校試合とかそんなのが入ってるはずだ。オレがレギュラーにいたら他のメンバーに迷惑をかけることになる。退部――かなぁ。

 そしてオレは、二学期の始まりを機にフェンシング部を辞めた。顧問が泣いてオレの腰に縋り付いて来たのを見てめっちゃ申し訳ない気持ちになったけど……ベルトの恐怖から逃れられたのは良かったと思う。


「鳴海ぃ、空条さんから電話よー」


 十一月になり、そろそろ二学期末テストの勉強を始めないとならない気がしてくる時期になっていた。内容はともかくとして量の多い宿題をガリガリ消去する作業に勤しんでいたオレに、ホリィさんから電話があった。一体どうした、ついに承太郎の頭のおかしさが周知のものになって鉄格子付きの病院にでも連行されたのか? そうなら嬉しい。


「はい、代わりました。鳴海です」

『あぁッ!! ナルちゃん……どうしたら……ッ私、私ッ!!』

「おばさん落ちついてください。一体どうしたんですか?」


 承太郎の事だ、黄色い救急車の可能性は限りなく低い。いや黄色い救急車って都市伝説だけどな。落ちついて深呼吸してと繰り返し、やっと混乱が収まったホリィさんの言葉に、オレは笑ってしまうかと思った。


『あのね、承太郎が留置所にいるんだって!』


 どんだけ似たもの親子なんだ!! ってか聞いてないぞソレ、一体何したの? ねえ何したの?

 迎えに来いって言われて……と声を震わせるホリィさんを、オレはなるべく優しい声を出して宥めた。


「オレも、オレも一緒に行きます。どこの留置所ですか?」


 行き道に承太郎のスタンドが十一月場所について特集の組まれた雑誌を万引きしてるのを見た時には、どんな顔をすれば良いのか分らなかった。おい承太郎ソレって軽くても犯罪……。








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24から転載。加筆修正有り。
2013/07/30

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