小鬼と示すアイの話5



 私に見鬼の才があると知れられたことで、奴良組への挨拶が十三歳の誕生日を待たず前倒しになった。あの日鯉伴が奴良組に私を連れ帰ったことで二代目こと鯉伴はもちろん初代や幹部と顔合わせをしたけれど、正式な物ではなかったから。

 色々な姿をした妖怪――私にも見覚えがある木魚達磨さん以外にも色々。牛鬼は一目で分った――が並ぶ中で挨拶を終え、さてこれから会食だと室内の空気が緩んだ。

 両親はおちょこを手に「まさか若菜に見鬼の才があるとは思いもしませんでした」等とぬらりひょんや幹部たちと和やかに会話し始め、私はかつての同族である小鬼たちにまとわりつかれながら料理をひょいぱくと口に運ぶ。時々「その黒豆一粒くれ」だの「おいらは目玉焼きにはソースだと思う」だのと主張してくるのをあしらいながら最後の米一粒まで食べきって、手を合わせながら満足のため息を一つ。

 流石は奴良組、出てくる料理のレベルも高かった。胃のあたりに軽く触れればちょっとぽこっと出でるのが分る。普段は腹八分目で済ませているのを、美味しさに夢中になって食べ過ぎた。

 お茶を飲んだことで肩の力が抜け、なんとはなしに室内をぐるりと見回した。鯉伴が私の視線に気付いて顔を輝かせ廊下を指差した。初代がいるとはいえ宴から抜けだして良いのか組長。

 飲んで騒いでる妖怪たちの邪魔にならないように部屋を出て廊下で待つ。夕方から始まった宴会だから、もう夜で月が低い位置に上っている。私のお披露目のためにとお母さんが用意してくれた着物は今の私のような年齢の子供には地味な色合いで、でも着つけて鏡を見た後はこのチョイスになるほどと納得した。呉服屋で赤やピンクといった色の着物も試しに当ててみたんだけど、全く似合わなかったんだよね。どちらかというと男の色である藍色とか深緑とかが私には合うみたいだ。


「鈴」

「鯉伴」


 広間から出てきた鯉伴は障子をトンと閉めて、こっちへ来いと私の手を取った。人気のない廊下を進んで案内されたのは鯉伴の部屋。

 鯉伴がどこからか出した火種で蝋燭台に明かりを灯す。電灯に慣れた目にはチラチラと揺れる火は少し暗い。


「また会えて嬉しいぜ」

「私も」


 座布団の上に座り、互いの顔をまじまじと見つめた。私が知ってる鯉伴はまだ幼くて、烏天狗の授業から抜け出すような子供だった。それがこんな色男になるんだから……時間っていうのは偉大だ。


「前は時間がなかったから、むかし話なんて出来なかったもんね」


 そうだなと頷いた鯉伴は少し照れたような表情を浮かべる。


「なあ鈴、今頃言うのも遅すぎるがよ。あん時オレを守ってくれて――有難う」


 お前があの時庇ってくれなきゃ、今ここにオレはいねえ。そう言った鯉伴に顔がほころぶ。


「今は逆転しちゃったけど、私は鯉伴よりも年上だったからね。年上が年下を守るのは当然のことだ」

「鈴」

「鯉伴が無事で本当に良かった。おねーさん嬉しいよ」


 うるっと目をうるませた鯉伴にちょっと笑ってしまう。


「泣くなよ男だろ! それより鯉伴の武勇伝なんかを聞かせてよ。長く生きて来たんだから三つや四つはあるでしょ?」


 鯉伴の背中を叩けば、不敵な表情に変わって「オレの武勇伝? 三つ四つなんかじゃねえ、両手どころか両足つけても足りねえぜ」と話しだす。

 今晩は鯉伴の武勇伝で更けそうだ。







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24でのリクから。久しぶりで性格が掴めなかった……
2013/07/27

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