♀+♂→QUEEN5



 オレの背後霊さんは優しい心の持ち主だったらしく、時々剣を包帯に持ちかえて治療してくれる素敵な女性だ。ストーカーとか思ってごめんなさいと謝りたくなる程出来た女性なのだ。承太郎と同レベルに置いちゃいけなかった。

 なんかオレにはさっぱりなことが色々とあって承太郎が目覚めたと思ったら、承太郎の野郎オレを無理やり連れてジョリーンを助けに行くぜとかなんとか。そしてやっと合流したと思ったら――ジョリーンの体に穴が空いてるぅぅぅぅぅぅ!? そして承太郎から何か青い変な人が出て来た!? え、皆アレを何で変だと思わないんだ?

 メンバーの中で一番の弱者であるオレを先に倒してしまおうとしたのか、プッチとかいう血管とか神経がプチッと逝った感じの神父がこっちに顔を向けたので「近寄るな変態!!」と叫んだ。その瞬間さっそうと現れたのがオレの騎士様ジャンヌ様。背筋を凛と伸ばしレイピアを振りまわす様子はうっかり惚れそうなほど様になっていて、何故か「キャー流石はジャンヌ様! オレには出来ないことを平然とやってのける! そこに痺れる憧れるゥ!!」と叫ばなきゃいけないという考えにとりつかれた。

 血管プッチ神父が眉間に深い皺を寄せた。


「スタンド……貴様もスタンド使いだったのか……」

「へ?」

「しらばっくれるな。これだけ強力なスタンドを持っている者がまだいたとは」

「は?」


 ジョリーンちゃんから「流石は私の未来のパパ!!」という声が聞こえてきて更に混乱した。ジョリーンママとは結婚してないし、これからもするつもりねぇよ!!

 ナルシソたちが「え、あの人は女性じゃないの? パパ?」って困ってるだろ!? 承太郎と見比べるなよ恥ずかしい!

 背後霊のジャンヌさんがスタンドだと分ったものの、オレは我が身を守ることに精いっぱいで――エルメェスや承太郎、ナルシソと殺されていくのをただ見ていることしかできなかった。ジョリーンはまだ生きてるって? でも満身創痍じゃないか!!


「承太郎、承太郎!! くそ、オレは……オレはなんて『弱い』!! なんて弱いんだ!!」


 高速で進む時の中は幻想的だけど、吐き気をもよおす程に嫌悪感しか覚えない。オレは、オレは……どうすれば良いんだ!! 涙が頬で弾けて落ちた。このまま殺されてしまうのか、オレは、オレは! エンポリオを逃したジョリーンと肩を並べながら、頭の中は後悔と何もできないことに対する悔しさと、色々な物が混ざり合っていた。


「ナル、貴方には何も関係なかったのに、巻き込んでごめんなさい」

「ジョリーン……」

「最後だからさ、最後だから――お願いを聞いてくれない? ナルのことパパって呼びたい」

「ジョリーン、ジョリーン、オレの子。オレの天使。オレが駄目だなんて言うわけがないだろ?」


 ジョリーンがオレを見ることなくただ真正面を向いたまま、フッと嬉しそうに笑んだ。


「大好きよパパ」

「オレも愛してるよジョリーン」


 オレも正面を睨んだ。そこにはプッチ神父がいる。合わせたわけでもないのにジョリーンと声が重なった。


「「――来いッ!! プッチ神父!」」


 そして、ジョリーンがバラバラになった。オレもジャンヌで攻撃したものの、まだスタンドを扱いきれてないせいか歯が立たない――このまま死ぬのか。このまま、何を成すことも出来ず、このまま……そう思った瞬間だった。

 突然なにもかもの動きが緩やかになり、オレを攻撃しようとするプッチ神父の動きもまたのろのろとしだした。一体何が起きたんだと困惑するオレを後ろから抱き締める――鈍く輝く甲冑の腕、ジャンヌだ。


「私ハじゃんぬ。じゃんぬ・だるく。私ノ本来ノ能力ハ剣デモ腕力デモナイ――私ノ能力ハ奪還スルコト。奪ワレタ物ヲ取リ返スコト」


 初めて聞いたジャンヌの声は壊れたラジオのように音割れしていたが、女性の声であることは分った。ジャンヌが兜の下で微笑む気配がする。


「ジャンヌ、なら……それなら」


 奪われたものを取り返す力ならば――時間は。時間や命は奪い返せるのか?


「神父ガ奪ッタ時ヲ奪還スレバ、じょりーんヤ承太郎ハ蘇ルダロウ……」


 兜が消え、ジャンヌの黄金の髪が宙に舞った。薄い青の瞳がオレの顔を映す。彫りの深い白人の少女がオレを見つめて笑みを浮かべる。オレの手に重ねられた彼女の手の中からレイピアは消え、オレは気が付けばマリアの描かれた白い旗を持っていた。


「我ガ旗ハ奪還ノ旗! 奪ワレシ地モ奪ワレシ血モ、再ビコノ手ニ取リ戻スタメノ旗。コノ旗デぷっちヲ刺セバ、奪ワレタモノハ全テ取リ戻セル!!」


 ジャンヌが旗の柄をそっと撫でたと思ったら、時の流れが戻った。


「残るは貴様だナルミ!! 終わりだッ!」


 飛びかかってくる神父に向かってオレは旗を構えた。


「違うね! ここで終わるのはオレじゃない、てめーの方さぁプッチ神父ッ!!」


 旗の上部、槍になっているそこをプッチに向けて振り下ろし――そして。








「なあ鳴海。起きろって」


 子供の声がオレの耳を打つ。


「んー……もう五分……」

「五分前にもそう言った。鳴海、起きろって言ってるだろ」


 しつこい声に起こされて薄目を開けば、そこには頬を膨らませた小学校高学年くらいの子供――いや、承太郎だ。承太郎がいた。そういえばオレたちは承太郎ん家の縁側で、バスタオルを布団にして昼寝してたんだった。

 承太郎が煩いから起きあがる。涙が目の端から零れて床にハタハタと落ちた。


「どうしたんだよ、何か怖い夢でも見たのか!?」

「いや、何でもないから心配すんな。な?」


 一週間前のことだ。懐かしい我が家の布団で目が覚めたことで理解した。オレは戻って来たんだと。ちょっと戻り過ぎじゃないかと思ったが、ジャンヌにたった数十年くらい余計に逆行したところで問題ないだろうと言われてしまった。承太郎を心配がらせたまま転校したこととか色々……後悔ばかりだったあの時をやり直せると考えればこれで良いような気もする。――それにオレは、エンリコ・プッチがまだ倒せる能力でいるうちに殺す、そのために帰って来たんだから。


「だけどお前、変な顔してるぜ」


 承太郎が口をへの字にして正直に答えろと言ってきたから、オレは肩を竦めてコレだけ言った。


「とある女の子のパパになる夢を見たんだ。それだけだ」


 な、ジョリーン?






♀+♂+♀+♂+♀
 24から転載&加筆修正有り。
2013/07/15

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