♀+♂→QUEEN4



 いつもの如くオレの意思など関係なく連れて来られた承太郎の家にはジョリーンちゃんが遊びに来ていた。ジョリーンちゃんだけなら安心だ――マサチューセッツで同性婚できるようになってしまったため、最近はジョリーンママの視線が怖いのだ。まるで獲物を狙う肉食動物の様で。あみんの「待つわ」を真顔で歌われるくらい怖い。

 テラスに紅茶セットを置いて椅子を三脚置いた……のだけど、オレの膝の上にジョリーンちゃんが座った。なんだこの可愛いの。天使か?――天使か! そっかそっか!!


「ジョリーン! オレの天使!!」


 十一歳になったジョリーンちゃんはそれでもまだオレの腕にすっぽりと入るサイズで、抱きしめるオレの頭を撫でてくれる。ああ天使!


「天使には性別がないのよナル、知ってた? だからナルが天使なの」


 オレの言葉にきょとんと目を瞬かせ、笑いながらそう言った。そういう意味じゃないんだけどね、性格とか性格とか、性格の問題なんだよ。承太郎は粘着質で執念深いから悪魔だもんな。


「そう言う見方も出来るね。ならオレはジョリーンだけの天使になろうかなー!」

「ほんと!? ナルが私の天使になるの!?」

「もちのろんさジョリーン。オレはジョリーンが世界で一番好ぐぇッ」


 にやけた顔を晒しながらジョリーンに愛を囁こうとした瞬間、承太郎がオレの襟を掴んで横に引っ張った。


「な、何をするんだ承太郎!」

「お前のいるべき場所は、ここだろうが」


 承太郎が自身の太腿を叩いたことでパアンと良い音が響いた。相撲取りがまわしを叩いた時みたいな音だな……。


「えー? 座りにくいからヤだ」


 承太郎が盛大に舌打ちした。ジョリーンちゃんが真似したらどうするつもりだ。


「ねえナル、親父と結婚なんてしたら嫌よ。ナルは私かママとマサチューセッツで結婚式上げるんだから」

「はっはっはっはこの親にしてこの子有りだなぁオレってば驚いちゃったぜマジかよ可愛い顔に騙されちゃいけないってことかこの似た者親子め」


 ぎゅーぎゅーとオレを抱き締めてそんなことを言ってくれたジョリーンちゃんに身の危険を感じた。小さいとはいえ一応機能してる男の部分を今のうちに切っておいた方が良いんだろうか。結婚できる年齢になったジョリーンちゃんに上に乗っかられるという恐ろしい想像をしてしまった。腕の中の女の子はいつの間にか天使から小悪魔にジョブチェンジしていたらしい。遠い目をしてしまうのも仕方ないだろ……。

 ――あれから数年。ジョリーンが友人の罪を負い被されて投獄されたと聞いた時、実は安心した。いや、冤罪だし理不尽な目に遭ってることは可哀想だとは思うとも。だがオレの身の危険がだな。ジョリーンママに「マサチューセッツ、コネチカット、アイオワ、バーモント、ニューハンプシャー、ワシントンDC……どこに引っ越す?」と笑顔で聞かれるのも怖いし、ジョリーンが「ママと三人でヨーロッパに移住しない? 例えばオランダとかスペインとか」って言ってくるのも恐怖以外の何物でもない。毎度承太郎が救出してくれるとは言え怖いものは怖い。

 ジョリーンの救出に行くからついて来いと言われ、勝手知ったる他人の家で承太郎を待つ。だが出る直前になって財団本部からメールが来たとかで十分待つことに。ソファの上でゴロゴロ転がってたら、居間のテーブルの上に何かの欠片のようなものがキラリと光ったのを見つけた。


「ん、なんだこれ?」


 コップでも割ったんだろうか。指を切ったら痛いし、オレが捨てといてやるか。立ちあがってテーブルの上の欠片を摘まむ。本当に小さな欠片だ――ガラスじゃないっぽい。どちらかというと金属……刃物の欠片?


「つッ!!」


 気を付けて持ったはずだけど人指し指にチクっときた。ティッシュを一枚取ってその上に乗せ、テーブルの上にあったオレ用ヌッテラの瓶で端を押さえておいた。オレが処分した後に「実は……」なんてことがあったら大変だしな。

 血の滲んだ指を舐めたら傷跡がなかった。血が出たくらいだから大きな傷が出来たと思ったんだけど、一体どういうことだか。

 なんとなく指を舐めたままソファに戻ろうとしたら承太郎が居間に入ってきた。

 すぐに指を口から引っこ抜いて、何もなかった振りをした。







 この日、承太郎が寝たきりになり……オレの背後に甲冑付けた女の子の幽霊が現れた。ストーカーが一人大人しくなったと思ったら新たなストーカー登場なの?

 とりあえず彼女は鋼鉄の処女――じゃねぇや聖処女ジャンヌ・ダルクから名前をもらってジャンヌさんと呼ぶことにして、オレは承太郎の見舞いで毎日を過ごすのだった。







♀+♂+♀+♂+♀
 24から転載&加筆修正有り。
2013/07/15

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