モモン化



 目覚めたら木の洞らしきところに寝てた。穴からは夕方の赤い明りが差し込んでる。しょぼしょぼする目で周りを見回せば――私と同じくらいのでかさをした鼠が。……鼠が? スヤスヤと眠ってるそれを見る限りどうやら鼠は鼠でも赤ん坊らしい。もしや、人類は滅亡したのか? オーバーチュアか?! そして巨大な生物が地球の覇者となったんだな、良く分かった。この場合私はこの鼠の赤ん坊の保存食として連れてこられたんだろう。なんてこった、このままここにいたら食われてしまう! 外に出て他の生き物に八つ裂きにされて食われる可能性もないではないが、こんな可愛らしい鼠の赤ちゃんに頂きますされるよりはそれらしい獣にパックリ殺られた方が何倍もマシだ。

 ――この時の私はどうやら動転していたらしい。そりゃそうだ、目の前に巨大な鼠が転がってたら怖いわ! それも赤ん坊でこのサイズだぞ? 成獣になったらどんだけデカいんだ! 頭からパックリ食われるっての! 出入り口らしき穴から身を乗り出し、落ちた。悲鳴を上げようとして、気付く。あれ、私の体なんかおかしくね? 何で腕と足を繋ぐ膜が張ってるの? 手が鼠のそれみたいなミミズっぽいのになってんの? 体が自然と大の字になって、ふよふよとゆっくり落下、着地。草むらに座り込んで自分の手を確かめてみれば、どう見ても鼠とかそういう類の動物の手だった。マジか。これは転生というやつだな、それも畜生道に落ちたという。ところで鼠じゃなくてモモンガだったのか。可愛いよねモモンガ。でもせめて犬とか猫とかに生まれて人に飼われたかった……ご飯の心配しなくて良いし、雨風しのげるし。野生動物って大変だろ……それに普通、巣から落ちた子供は親も見捨てるだろ。飢え死にか食われて死ぬか。なんてこった、お先真っ暗だ!

 私は寝てる間に食われていることを願いつつ眠った。凍死でも良いけどなるべく気付いたら死んでた方が良いなぁ……。親らしきモモンガが私の頭上あたりで飛び回って私を見守ってたとか、さっぱり知らんかった。そして、それを見つけた超人がいたことも知らんかった。









 たまには遠出も良いかもしれないと考え、いつもは行かない方向に出てみた。特に目的があるわけではないし、狩りをする気にならなかったから弁当持参で適当にブラブラとそこらを歩く。人の暮らす街とは離れた、喧騒もなにもない静かな森で数時間歩きまわり、そろそろ帰るかと帰路に着いた、そんな時だった。食材にするには小さすぎるし別に特に美味しいわけでもないモモンガ――種類は覚えていない。森であればだいたいどこにでもいる、人間界に広く分布したモモンガだ――が巣穴があるらしい木の横をくるぐると旋回していた。餌がそこにあるわけでもないだろうに、一体どうしたのかと近寄ってみる。

 気配も何もかも消したからモモンガがボクに気付いた様子はない。見れば、そこにはまだ生後数日だろうモモンガの赤ん坊が落ちていた。この子はもう駄目だ――ピクリとも動かない。放っておけば死ぬだろう……それに一度巣から落ちてしまえば、親は養育を放棄するという。もしボクがこのモモンガの赤ん坊を巣に戻したとして、この親が育てるかどうかが問題だ。気配を戻してモモンガを見やれば、木に張りついてボクを警戒するように死角に逃げる。


「この子は助からないよ」


 巣から落ちてしまう赤ん坊なんて、どこにでもいる。それが自然の摂理だし、それを曲げてまで助けようとは思わない。ボクの知らない所で今もきっと巣から落ち死が確実となった命があることだろう。死んでいるならせめて埋めてやろうと拾い上げれば、まだ暖かいことに気付いた。驚き「見」なおすと、このモモンガはまだ落ちて時間が過ぎていないらしい、生命活動が活発で健康だった。助けようか……? 瀕死の動物などこれまでにたくさん見てきたし、それを殺したことも多くある。救える命なら――ボクは初めて、自然の摂理に逆らってこの子を拾ってみようかと考えた。親指ほどもないこの小さな命を、救いたいと思ったんだ。

 その赤ん坊を昼食を詰めていたバスケットに寝かせ、ボクは走って家に帰った。









モモン化に反応してくれた方サンクスですよ! 一回書いたのを没にしたので機会がつかめなかったのです
05/10.2010

- 380/511 -
*前目次次#

レビュー・0件


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -