触らぬ悪魔に祟りなし(四部)1



 わたしとトリッシュ、暗殺チーム&一人……いや、この旅行中に限って言えばディアボロと愉快な旅行者達は、杜王町の銘菓であるというごま蜜団子を買いに土産物屋へ突撃した後、承太郎の目撃情報があったぶどうヶ丘高校へと足を向けた。承太郎は性格が真っ黒だというのに全身真っ白な恰好をしているのだ、目立たない方がおかしい。

 途中オーソンでそれぞれ好きなアイスを買い、垂れないように食べながら歩いた。承太郎へはスイカバーばかり五本用意しておいたが果たして全部食べるだろうか。


「承太郎さんに会うの久しぶりね、パードレ!」

「そうだな。トリッシュはあいつとはもう三年も会っていないのだったか」


 わたしの服の裾をきゅっと握ってわたしを見上げる少女に微笑みかけた。


「もうすぐ会える」

「ほんと?」

「本当だ。わたしが今まで嘘を吐いたことがあったかい」

「ううん!」


 父親がジャポネーゼであることもあり日本語も英語も堪能なこの少女との会話は主に日本語で行われる。わたしがジャポーネ贔屓であることから暗殺チームも自然と日本語を覚えたし、トリッシュはもちろん話せないはずがない。――ここに、世にも珍しい日本語が堪能すぎる十二人の外国人グループが存在した。

 道には制服姿の学生が増え、外国からの旅行者が珍しいのだろう、わたしたちに自然と視線が集まる。それに気付いて気配を薄くすれば視線はすぐ拡散した。


「承太郎さーん!」


 そろそろ校門が見えるかという時、声変わりを終えた少年の声が響いた。なんともちょうど良いタイミングだ。真っ白過ぎて目立つ恰好の承太郎と、明らかに改造している学ランの少年ら数人が合流した。


「リゾット、メタリカでわたしたち全員を隠せるか?」

「可能だ」

「ならばわたしたちを隠せ。――ジョリーン、あそこに君のパパがいるのは分るな? パパに突撃するんだ。さあ、行ってこい!」


 少女……いや、ジョリーンが走る。幼児の短い脚だというのにこれがなかなか速いもので、まるでミサイルかロケットのごとき勢いで承太郎の膝裏に突撃した。そこを狙うとは筋が良いな、ジョリーン!


「なんッ……!? 徐倫!?」

「承太郎さんズボンにスイカバーが! そしてこのちびは誰っスか!?」

「なんだと? いや、今はそんなことはどうでも良い! 徐倫、どうやってここに来た?」

 真っ白なズボンにスイカバーが広がっていく。良くやったジョリーン。君は最高だ。


「ディアボロのおじちゃんが連れて来てくれたの」


 膝を突いてジョリーンと視線を合わせていた承太郎の目つきがとたんに険しくなった。事情はSPW財団から聞いているため杜王町が危険地域だということは知っている。だからこそ逆に、この旅行に同行させたのだ。スタンド使いが十人も護衛に着くなど普通ではありえんのだぞ。


「ディアボロ、あの野郎……徐倫、ディアボロはどこにいる?」

「あっち!」


 ジョリーンが指差したのはさっきまでわたしたちがいた地点だったが、今の私たちがいるのは逆の歩道だ。リゾットにメタリカを解除するように命じる。


「久しぶりだな承太郎」


 勢い良くこちらに顔を向けた承太郎に片手をあげて挨拶した。学ランの少年たちが目を丸くしてわたしたちを見つめる。あのリーゼントの少年の雰囲気がジョセフに似ている気がするが、まさかそろそろ八十にもなろうという男がこの年齢の子供を持っているわけもあるまい。承太郎の従弟あたりか。


「てめー、何を考えてこんなことしやがった」

「挨拶は人間関係の潤滑剤だとジョセフが言っていたのを忘れたのか? 久しぶりの一言くらい返せ。それにわたしは喜ばれることをしこそすれ、怒られることをした覚えはないぞ。貴様は離婚の危機のようだが、嫁にだけでなく娘にまで嫌われるつもりか」


 ぞろぞろと現れたわたしたちに承太郎は一瞬目を瞬かせたものの、すぐに平時を取り戻してわたしを睨む。


「お前の奥方には許可を取っている。奥方もお前とジョリーンまでもが不和になることを望んではいないのだ」

「チッ!!」

「じょ、承太郎さん? このちびはもしかして……」

「……娘だ。徐倫、挨拶しろ」

「空条徐倫、です!」


 さりげなくジョリーンの頭を撫でる承太郎は良い父親だと思うが、さりげなさすぎて気付いてもらえていないのではないだろうか。アメリカでの一般的な愛情表現と承太郎の愛情表現には大きなずれがあり、アメリカ育ちでアメリカ人の母親を持つジョリーンには承太郎のそれを理解するのは難しいのではないだろうか。

 ローマではローマ人のようにせよというが……承太郎には無理なことだったか。


「わたしはトリッシュ。ジョリーンのお姉ちゃんみたいなものよ」

「おほー、徐倫ちゃんにトリッシュちゃんっていうのか! おれは東方仗助だぜ!」

「おれは虹村億泰! 一目惚れだ付き合ってくれ!!」

「出会ってすぐだよ!? まったくもう……あ、ぼくは広瀬康一っていうんだ」

「三人ともよろしく。私とお付き合いがどうとか、パードレの前で言ったら海の藻屑にされるから口にしない方が良いわよオクヤス」


 トリッシュたちと学生たちが自己紹介をし合っているのを横に、トリッシュとジョリーンの護衛兼日本食を堪能し隊メンバーの紹介をする。


「二人の護衛のリーダー、リゾットだ」

「よろしく」

「ああ」

「そしてホルマジオ、イルーゾォ、プロシュート、ペッシ、メローネ、ギアッチョ、ソルベ、ジェラートだ」

「美味そうな名前の奴が多いな」

「これが本名なわけがないだろう。仕事用の名前だ」


 子供に生ハムやメロンなんて名前を付ける親がいたら見てみたい。メロンを生ハムで包んで食べると絶品だが、今はそういう話をしているわけではない。


「こいつらがジョリーンやトリッシュを護衛する。――承太郎、お前が仕事を大事に思っている以上に家族を大切に思っていることは、わたしもよくよく理解しているつもりだ。しかし子供にその背中さえ見せないというのは頂けない。ジョリーンはお前に捨てられたのではないかと思っているようだぞ」


 承太郎の表情が苦く歪む。守るために沈黙を選んだ承太郎には「言われたくない言葉」だったのかもしれないが、黙っていても意思が伝わるわけなどない。沈黙が金なのはジャポネーゼだけだ。ジョリーンはアメリカーナだろうが。少しくらい言葉にしろ。


「危険な場所については先にこちらへ連絡してくれ――これが連絡先だ。近寄らないようにルートを修正する。あと、ジョリーンとすれ違ったまま離婚などということになりたくなければ明日から一週間の間に最低二日はフリーの日を作れ」

「……礼を言う」

「礼なら奥方に言え。わたしは提案しただけであって許可を出したのは奥方だ」

「ああ」


 さて承太郎との連絡事項も終えたしアイスでも押し付けて帰るか――と思い後ろを振り返ったが、何故かメローネだけがいない。リゾットとプロシュートが指差す方向を見れば女子高生に囲まれていた。

 頬を張られ腹を殴られ、ゲシゲシと足蹴にされている。一体あいつは何をしたのだ。ため息を一つ吐き、ギアッチョにメローネを引きずって来るように命じる。蹴られて嬌声をあげているように聞こえるのはわたしの耳がおかしいからだと思いたい。







+++++++++
歪みないメローネ。暗チが空気に見えるのは、上司の会話を邪魔しないために黙ってたからなんだよ書き分け出来なかったとかそんなことはない! でもソルジェラが困った!
2013.06.20

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