Applauso(三部)



 おじいちゃんに呼ばれてエジプトに来たは良いけど、待てど暮らせどおじいちゃんたちが来ない。遅れるなら遅れると連絡くらいくれれば良いのに……。仕方がないからエジプト観光と銘打ってあっちこっちを見て回って過ごしてる。SPW財団の人が色々と手配してくれたお陰で私一人の連泊もスルーされてるしホテルのサービス良いし、しばらくここでヴァケーションを過ごすのも良いよなぁ……なんてね。こんなに暇なんだったらイタリアのおじいちゃんとおばあちゃんも一緒に来られれば良かったのに。

 今の私は子供用のサングラスに日焼け予防の薄手の長袖を羽織りデニムパンツを履いて、ホテルの一階にあるオープンカフェのテラスでオレンジジュースを啜りながらぼんやりしていた。気温が高いけど不快じゃないのは湿度がそれほど高くないからだったっけ? 暑くてじめじめしてるよりは暑いけどカラっとしてる方が過ごしやすいってのは分るね。私のいるイタリアの田舎も夏が過ごしやすいし。まあ、三十度を下回らない熱帯夜を経験してる私には、温暖化問題もまだ先送りできてるこの時代の夏は涼しすぎるような気もする。

 お腹がぐぅと鳴って、そろそろ夕方の七時になるってことを思い出した。この季節柄まだまだ明るいけど日はもう地平線にある。あと五分か十分もすれば日没。

 もう屋内に引っ込んで夕飯でも食べよう。ウェイターをちょいちょいと呼んでルームキーを提示すれば、彼は私の部屋番号を手元に控えて頷いた。ルームキーを提示すれば自動的にホテル代と一緒にSPW財団から引き落とされる仕組みになってるのだ。無料の旅行って良いよね。

 さあ屋内に引っ込もうと立ちあがったとたん、額から顎にかけて汗が流れて行く感覚がした。いくら涼しいと言っても今は初夏だし、当然ながら汗が出る。ジョセフおじいちゃんからのプレゼントのハンカチをポケットから出して額を拭う。カチカチに凍らせたこん○ゃく畑食べたいなぁ……それかチュー○ット。ない物ねだりだって分ってるけど食べたい。

 そんな風にぼんやりとしてたせいだろう。軽く摘まんでたハンカチが風に飛ばされた。……SPW財団のマーク入りだから、「失くしちゃったぁテヘペロ」って言いにくいものなんだよね、あれ。生地が薄いくせにかなり強靭な布なのを見るに、かなり金のかかってるハンカチと私は見ている。


「ハンカチ待ってー」


 ハンカチを追ってカフェのテラスを下り、風に吹かれてヒラヒラと舞うハンカチを見失わないようにしながら右へ左へ走った。

 ハンカチは、少し奥まった路地の入口にある細いパイプに貼りついた。でも残念なことに、貼りついた位置が高すぎて手が届かない。まだ日が沈んですぐだから明るいけど、もたもたしてたらすぐに暗くなってしまうだろう。ううーん……ハンカチ、諦めないと駄目かな……肉体年齢六歳の私がこんな場所にいるのは危険すぎる。私はどう見ても観光客だから、特に。ハンカチと私の身の安全を比べたら私の身の安全の方が重要。ジョセフおじいちゃんには後で謝っておこう。

 そう決めて、でもやっぱりおじいちゃんからのプレゼントを見捨てて行くのは後ろ髪が引かれて、落ちて来ないかなと思いながらハンカチをもう一度見上げる。その時だった。


「そのハンカチを取りたいのかい?」


 声に振り返ってみれば、なんか猛烈に私の頭の中で警鐘が鳴るタイプの人が二人立っていた。片方は全体的に黄色くてハートがグリーンで厭らしい感じがして、もう一人は見るからに変態……レオタード……う、うん?


「あ、えと、良いです。気にしないでください」


 交流を持ったらいけないタイプの人だ。変な人に声を掛けられても名前を言ったら駄目っておじいちゃんもおばあちゃんも言ってた。


「子供が遠慮をするものではない」


 私が特にレオタードさんの恰好を見て表情筋を痙攣させているのを見た黄色い人はニヤニヤと笑った。分ってて一緒にいるんだとしたらこの黄色い人は悪趣味だ。


「取ってやろう」


 レオタードの人は何故か黄色い人をうっとりと見つめてる。――ハッ!! まさかこの二人、ホモップル!? レオタードの人は「やだぁーアタシのカレ子供に超優しいー! マジ惚れ直すんだけどぉー」みたいな!? それで、黄色い人の方も「コイツに良いところ見せてやるぜ。手始めに餓鬼を助けてやるか」っていう? ……もしそうなら、私が断っちゃうと黄色い人の顔に泥を塗ることになる。あんまり親しくお付き合いはしたいタイプとは言えないけど、まあお願いしようかな。三方一両得ってやつだよね……うん、そうだよきっと。

 で。頭を軽く下げてお願いしたら、黄色い人の背後に、突如黄色い拳闘士が現れて目を剥いた。なにこれ!? え? どういうこと!?


「貴様、スタンドが見えているのか!?」


 私がぽかーんと黄色い拳闘士を見てるのに気付いて、レオタードの人が眉間にふっかい皺を寄せて突っかかってきた。黄色い人は面白い物を見つけた目だ。なんかヤな目つき。


「スタンドってこれのこと? それなら私も……似たようなの持ってるし……」


 そしてグラッツェ・ミレを見せた途端、私は黄色い人に誘拐された。








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このDIOに遣わされし天使(苦笑)。
2013.06.08

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