All that glitters ain't Gold



 ディアボロはドッピオと私には甘い。私たちは運命共同体、ドッピオも私もディアボロから心の一部と体を借りて生きているから。決して裏切ることはないと確信しているからこそ、唯一の身内として甘くなるのだろう。

 初めてディアボロの心の中で目覚めた時、まるで借り暮らしみたいじゃないかと思ったことからアリエッタと名乗った。私は床下の小人としてディアボロを支えるのだ。それが私のためでもあるのだ、と。

 ディアボロが永遠に死に続けるなら、同じ体を共有する私も永遠に死に続けることになる。避けられるなら避けたい未来だ。だからホワイト(ドラッグ)は扱わないでくれとディアボロに頼んだし、ホワイトを扱わなくても良いようにと、私の持つ未来知識を総動員してパッショーネを巨大な組織に成長させた。ブチャラティたちから批判されるような後ろ暗い部分はない……わけではないけど、信頼はできなくても信用はできる部下だけに任せている。向こうはディアボロを盲目的に信仰してるみたいだけど、ディアボロが彼らに姿を見せてやることはこれまで通りこれからもないだろう。

 ディアボロの正体を探りに来たソルベとジェラートは私のマッシュルーム・サンバで洗脳して国外へ放り投げ、それから何事もなく二十一世紀になって一年が過ぎた。春が近づき暖かくなってきた頃、トリッシュ・ウナという少女の名が報告に上がった。写真を見る限り原作の通りにディアボロの娘で違いない。ブチャラティに反逆される要因は潰しておいたから原作は進まないんじゃないかと思いながら、牢屋で悠々自適の引きこもりをしている出不精に連れて来るよう命じた。――原作は進まないんじゃないかって信じてたのに、なのに、奴は銃の先をくわえて自殺した! 何故、何故何故何故何故何故ッ!? これはジョルノがパッショーネに入るための話だろう!? 何故入る必要があった!? また何故それをブチャラティが許可した!?

 理由がない。ドラッグを憎むブチャラティがホワイトマフィアに反逆するのは分かることだけど、どちらかと言えばパッショーネはブラックマフィア。堅気には手を出さないことで広い支持を得たから地元民をそこらのマフィアよりも大事にしてる。なのに何故あの新入りが、ジョルノ・ジョバァーナが入った!?

 私はまだ生きていたいのだ。一度死んだくらいで死ぬのが怖くなくなるわけがない。死ぬ瞬間の恐怖は十数年が過ぎた今でも私の背筋を凍らせる。他人を犠牲にしたとしても私は生きたい! それを邪魔する奴はたとえ主人公だとしても許さない。私が! なんのために! ソルベたちを国外へ飛ばすだけに留めたと思ってる! 暗殺チームから無用の恨みを得ないためだって言うのに!

 誰も近づく人のいない執務室には机が三つ――ディアボロ、ドッピオ、私のだ。窓を背に立つディアボロの机の左手側にある私の席から、ふらふらとディアボロの椅子に歩き座った。ハイヒールを脱ぎ捨てて椅子の上で膝を抱える。ディアボロの匂いがして、まるで包まれているようだ。しかし安心できるわけもない……ああ、金髪の死神が私を見ている! 私を殺し続けようとしている!!

 気が付けば何度も何度も親指の爪を噛んでいた。先端がガタガタになってる。やすりがけしたように整った他の爪との差が激しい……それにさえ苛つくし、もう頭がおかしくなりそうだ! 面倒事の原因は作らないようにしてきたはずなのに、何故! 嫌だ嫌だあぁ嫌だ嫌だ嫌だ! 本当に信じられない!

 顔を伏せて泣きながら親指の爪を噛む。頭の中に男の声が響いた。


『わたしの可愛いアリエッタ、お前はいつもわたしのために心悩ませている。しかし新しい幹部のブチャラティは地元民の信頼も深い男と聞く。きっとうまくやるだろう……』

「ああ、ボス! 私はブチャラティを見たことがありません。他人の評価など信じられません!! 不安なのです!」

『可愛いアリエッタ、お前の爪がボロボロになっていくのを見て見ぬふりはできない。信用というものは年月と共に積み上げて行くものだ――ブチャラティを信じろとは言わないが、試験期間を持ってやれ』


 ディアボロと私は一心同体、運命共同体。だからこそ原作のような未来はお呼びではない。黄金の意思の担い手は何故パッショーネに入ったのか? ブチャラティはどうしてパッショーネに反逆しようとしている? 彼らがこのパッショーネを憎む理由は一体何?


「ボス、ならばこの、子羊のように震えて貴方の無事を願っている私のために! 約束してください! ブチャラティではなくともボスに反逆する全ての者が、たとえそれがどんな者でも、地に落ちた毛虫のような力ない存在だとしても、持てる全力を尽くして潰すと!」


 いつこんな言い回しを身に付けたのだったかもう忘れてしまったけれど、これでディアボロは万難を廃してトリッシュを処分するだろう。してもらわなければ困る。ブチャラティの前で彼女を処分するなどという愚は犯さないと信じたい。


『アリエッタ。お前のその病的とも言える心配性に、いつもわたしの心は感動でうち震える』

「ああディアボロ。我が父、我が神、我が愛しの人!」


 十五年。私は十五年もの間ディアボロと共に生きてきた。結果こそを追い求め、弱点となるものを廃して歩くディアボロを私は見てきた。そしていつしか、私は彼を単なる体を共有する同乗者ではなく、一人の愛しい存在として認めていた。しかし一つ間違えてはいけないのは、私にはディアボロの恋人になどなる気はないということだ。芽生えたのは愛であり恋ではない。抱き締めたいのであり抱き締められたいのではない。

 これからのためにも暗殺チームを失うわけにはいかないし、ブチャラティたちも反逆さえさせなければ能力あるチームだ。ここは私が出るか? ポンペイで私が待ち合わせれば原作は確実に変わる。そこでトリッシュを引き取れば良い。ディアボロがトリッシュをどうするのか……私のマッシュルーム・サンバで幸福な夢の世界へ招待するのか、別の戸籍を用意し金だけやるのか、それとも単純に殺すのかはどうでも良いのだ。生と死を繰り返す未来から逃れ得るなら。


「ボス、お願いです。私がポンペイへ行く許可をください」


 私は、それが唯一の道だと確信している。なぜなら、チャンスとは自ら掴みに行くものだから。







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 光る物の全てが黄金とは限らない、Mushroom Sambaが通じる方は一緒に宇宙へ繰り出そうじゃないか。
2013.06.05

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