晦日番外〜inキラル3〜



 今日も美味しいファガルの料理に舌鼓を打った後、今日の宿でキラルのもう一人のお兄さんについて話をせがんでみた。キラルとガルファールがこんなに美しいんだもの、もう一人だって美形に違いないわ!

 ぴったりと詰められたベッドに円座を組むように座って、もちろん私はサリーム様のすぐ隣。


「コーラルはもちろんキラルやガルファールと同じく美しい顔をしていますよ。造作はキラルを垂れ目にして終始笑顔にした感じでしょうか」

「キラルのあの顔で笑顔ぉー? 想像できないわねぇ!」


 いつもふてぶてしい表情のキラルを、笑顔に脳内変換してみる――無理だわ。頭でも打ったのかって思っちゃう。

 ん? でもコーラルってどっかで聞いた覚えがあるわね。コーラル、コーラル……


「ああ――!! もしかしてそのコーラルってあのコーラル!? キラービーのコーラル!?」


 最初はその髪の色と雰囲気から蜂蜜の(ハニー)コーラルって呼ばれてた美貌の魔族。でも、いつも一緒にいる自称弟の人間が馬鹿にされたり傷つけられそうになると、相手が誰であれ半殺しにするんだとか。そのせいで蜂は蜂でも蜂蜜(ハニー)じゃなくて殺人蜂(キラービー)にあだ名が変わったって言う……。


「ええ、その彼ですね。ご存じだったんですか?」

「ご存じもご存じよ! 悪名だけなら一・二を争う魔族じゃないの!!」

「そうなのか」

「そうなんですよぉサリーム様ぁ! どこぞの誰それを半殺しにしたとか簀巻きにして底なし沼に落としたとか、怖い噂にこと欠かないヤツなんですよ!! そのコーラルって奴は!」


 力説した、ちょうどそこにキラルが帰って来た。食後に襲撃されたのを、腹ごなしだって言って殴りに行ったのよね。ファガルはなんでか困り顔――なんなのよ、私何か変なこと言った?


「なんの話してるんだ?」

「あんたのお兄さんの話よ。ガルファールも性格がひん曲がってるけど、コーラルってのも大概みたいね」

「はぁ? コーラルだけだぞ、オレが他人に胸を張って『家族だ』って紹介できんの」

「ええっ!? あのキラービーのコーラルを!?」


 キラルはファガルを見て、示し合わせたみたいにしょっぱい顔をした。ファガルが苦笑を浮かべながら「あのですね」と口火を切る。


「半殺しの刑に遭わせているのも、相手を簀巻きにして底なし沼に落としているのも、コーラルがしたことじゃないんですよ。コーラルが弟のように可愛がっているクロロという人がですね……すこぉし暴走していると言いますか。コーラルを馬鹿にされると、相手が泣いて謝っても許さないんです」

「なにその病んでる弟」


 そんな弟を良く可愛がれるわね?


「コーラルの顔が美しいことで、彼を格下に見る魔族は多いんです。クロロは普段は落ちついた人で、読書を好む良い人なんですが……」

「ただの人間、それも無手の奴にボコボコにされたなんて言うのはプライドが許さないって奴等が『これはコーラルにやられたんだ!!』と言い訳したわけだ」

「な、なるほど……」

「そして、他の魔族が似たようなことを何度も繰り返したために、コーラルのあだ名が変わった、ということだな」


 サリーム様が厳かに頷いた。サリーム様はどんなポーズでも素敵!!

 まあでも、それならキラルが自慢の兄って言うのも、ちょっとしこりが残るとは言え頷ける話ね。人間を弟とできる度量とか、魔族をボロボロにしてしまう弟を受け入れる懐の深さとか、そういうものね!


「機会があったら紹介してやるよ。ガルファールとは似ても似つかないくらい良い兄貴だからな」


 キラルがニッと笑った。――うん。クロロって人には会いたくないけど、コーラルには会ってみたいかもしれないわ。









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 兄さんはどこかでくしゃみしたかも。
2013/05/17

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