Be in touch with me3



「その年で……年下の子供に褒めろって言うとかっ…………あーダメだ、腹がよじれる!」


 ひーひー笑いながら途切れ途切れにそう言ったのは、金髪美青年だった。市川海老蔵みたいに目が大きくて実際の年齢よりも幼く見えるけど、もう二十歳は過ぎてるっぽい。その後ろにいる江戸時代かそこらの浪人みたいな男は額を抑えてため息吐いてる。


「シャル、そろそろ笑うの止めろ」

「だって! 面白いじゃんこの女!!」


 面倒な仕事押しつけられたと思ったけど、負けるが勝ちってこういうのを言うのかな? と薄ら涙でぬれた目で私を観察する青年に、とりあえず「知らんがな」と答えておいた。


「あんたたちここに何しに来たの?」

「そこで伸びてる奴等引き取りに来たんだよ。最近ここで調子ぶっこいてやがったからな、絞めて追んだす予定だったんだが……絞める必要はもうねぇみてぇだな」


 浪人風の男の視線は、さっき私が滅多打ちにした黒服たちに向いてる。そうだ!


「そうだよ聞いてよ!! このなんかヤバい職業に就いてますってバリバリ主張してるコイツらさ、この素直で超可愛い子たちを追っかけまわしてたんだよ!? 誘拐愉快とかギャグ言える状況じゃないし、もしかして性犯罪目的なんじゃとか考えちゃうし、もうほんと信じらんない!!」

「素直で超可愛い、ねぇ……」

「流星街のガキ捕まえて超可愛いなんて言えるとか、イカれてるの、君」


 浪人とパツキン美青年が白けた目で子供たちを見やった。何をう、可愛いじゃないか、素直で!


「素直だよ! 牙をガチガチ言わて涎をダラダラ流しながら三日三晩ずっと追っかけてくる奴とか、美味しいご飯の幻が見える鱗粉を撒き散らして獲物をおびき寄せる奴とか、粘着力の強すぎる糸を投げ縄みたいに振り回して五倍以上体がデカい相手を雁字搦めにしてチマチマ食べる奴とか、そんなのよりもよっぽど素直で可愛いよ?」


 コレ、全部私が引っ掛かりかけた奴らね。一つ目は肉が筋っぽくて美味しくなくて、二つ目はどこを食べれば良いのか分らなくて、三つ目もどこを食べれば良いか分らなかった。


「……君、どんな秘境にいたの?」

「さあ? ただ、人類は一人もいなかったよ?」


 引きつった口元を隠そうともしないパツキンと、何故か「面白そう」とばかりに目を輝かせる浪人。対照的な反応だなぁ、面白い。……あ、今さら気付いたとかアレだけど、言葉通じるんだ? あー良かった良かった。やっと会えた人類が別の言葉話してたら言葉覚えることから始めないと駄目だし、ただでさえ五年も人間が足りない状態で過ごしてたのにコミュニケーション無理とか泣けるし。


「どこの国にいたんだ、おめぇ。面白そうな場所じゃねぇか」

「ノブナガ趣味悪いよ」

「面白ぇ奴がいると知って戦わねぇでいられるかってんだ」


 浪人――ノブナガとかいうのが、上瞼が垂れ気味の目を輝かせる。強い奴と戦いたいとか、どんなマゾ? それともこれが私の生きる道、うぉうぉー?


「水面歩行ができるなら半月で着くけど――あ、私の足でね。人によっては半年かかるかもしんない場所にあるよ」

「水面歩行ってお前、忍者かよ」

「残念ながら忍者のアスタは持ってないよ」

「は?」

「うん?」


 話が通じてないっぽい。この世界にはアスタが普通なんだよね? ツォルちゃんたちも私がジョブチェンジしてるの見てもスルーしてたし、人類なら出来て当然なんだと思ってたんだけど。


「えーっと、アスタリスクは分るよね? もしくはジョブチェンジ」

「ゲームの話?」


 パツキンが首を傾げた。いや、元々ゲームだけど、違うよ。現実の話だよ分れ。子供たちがお代わりを要求してきたから一玉丸ごと渡した。そのおててに持ってるナイフ使いなさいナイフ。


「ノブナガさんだっけ、貴方はソーマス、じゃなかったソードマスターだよね。そっちの金髪はすっぴんかな」

「……ちょっと待って。ソードマスター――ノブナガが? それでオレがすっぴん? わけが分らないよ。順を追って説明してくれないかい?」


 あれ、違うの? じゃあこの世界は誰もがBDのシステムアシストを受けてるわけじゃないってこと?


「アスタリスクを知らないなら見せた方が早いかな。『ジョブチェンジ』」


 唱えれば足元に魔法陣が展開されて、私の正面にアスタリスクが浮かぶ。とりあえず赤魔導師にしとこうということで、赤魔のアスタリスクをタッチ。

 魔法陣が輝いて視界が一瞬ホワイトアウトしたと思えば、薔薇を模した真っ赤なドレスタイプの戦闘服に変わる。手にはデモンスタッフ、帽子も薔薇っぽい。いくら衣装がボロボロになってもジョブチェンジ時にリセットされると分った時は本当に安心したよ。


「この姿が赤魔導師ね? 赤魔導師は白魔導師の魔法も黒魔導師の魔法も両方使えるヒーラー兼アタッカー。属性攻撃が可能な奴が相手ならほぼ無敵かも」


 くるりと一回転してからノブナガさんとパツキンを振り返れば、ぽかーん口を半開きにしてた。子供たちは「すげー、魔法!?」と興味深々だけど。どうだ、参ったか! 本当に魔法だぞ、もっと褒めろ!!


「念能力、じゃない……よね?」

「ああ、よほど精密な隠でもしてるってなら納得だが、ここまであからさまな能力で隠を使う必要性はねぇしな……それに、オーラが駄々漏れだ」


 念能力? どっかで聞いたなぁ。隠、念、オーラ――あ、ハンターハンターだ!! じゃあこの免職武士はノブナガで、パツキン美青年はシャルナーク? で、ここは流星街! クロロが二十六歳の九月がヨークシン編だったような、もう五年も前だと思い出せないや。


「ねえ、どこか行く予定ある?」

「ないけど」


 パツキンことシャルがエセ爽やかな笑顔を浮かべて訊ねて来たから正直に答えたら、にこにこし始めて「会わせたい人がいるんだ、行こう」と言って私の手首を取った。


「行くのは良いけどこの黒服さんたちどうすんの? 思ったより脆かったし、子供誘拐しようとする性犯罪者だし、一応手加減したつもりだけど死にかけかも」

「ん? いーのいーのそんなの! 君がボコボコにしなくても、どうせオレたちが殺してたし!」


 そう言うことなら気にしなくて良いのか、と納得して頷いたら、子供たちからブーイングが上がった。ご飯をくれる良い人を連れてかれたら困る、とのこと。そりゃそうだね、ご飯は大事だもんね!


「んー、腐らない食べ物なんて持ってないしなー……一緒に行動するのも無理だし、面倒見られるわけじゃないし、どうしよーかな」

「……君さ、カモって言われること多くない?」

「思考回路が生ぬるすぎるぜ……」


 私の腰にしがみついて「ご飯行っちゃヤダー!」って大騒ぎする子供たちと私を見て、シャルとノブナガは呆れたと言わんばかりにため息を吐いた。おお、子供がまるで腰みのみたいだ。


「へへーん、カモなんて言われたことないもんね! それどころかこの五年間、人類と交流することもなかったもん。第一村人には親切にしたいってだけですぅー」


 シャルが顔を引きつらせながら「一体どんな秘境にいたんだ……」と呟き、ノブナガは修行に集中できそうだと目を輝かせる。


「うーん……そうだ! 食べ物はあげられないし屋根の付いた住みかもあげられないけど、自分たちの身を守れる力ならあげられるよ!」


 ツォルちゃん相手に一度試したことがある、他人のジョブチェンジ。どうみても蟻が真っ赤なドレスを着てる姿は違和感しかなかったから、すぐにすっぴんに戻したけどね。できないことはないのだよのび太くん。

 ――私が子供たちに気軽にアスタリスクを分けちゃってる姿に、シャルが団長が欲しがるだろうなとか思ってたなんて知らない。ちなみに、赤魔からすっぴんに戻った。








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ストック放出その二。続き書きたいけどエントリーシートやばい。
2013.04/19

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