赤ちゃんとボク24



 リンネは風船みたいに飛んで行きそうなくらい軽い。まだ生後二ヶ月だから軽いのも当然なんだろうけど、気を抜いたらどこかに行ってしまいそうだ。

 窓枠に座って外を眺めるリンネを抱き上げて腕に座らせる。


「ねえリンネ。リンネは毒の耐性あるの?」

「あるわけがないだろ、まだ二ヶ月だぞ。主食が粉ミルクの乳児に毒の耐性を求めるな」


 ただでさえふっくらしてる頬を更に膨らませるリンネに悪戯心が湧いて、親指と人差し指で頬を押しつぶす。ぶしゅ、と気の抜けた音が響いた。……持ち帰りたいなぁ。でもそうするとヒソカとの契約を破棄することになるんだよね。一ヶ月だけなんて嫌だな、一生いれば良いのに。

 二十四金の、赤みがかった黄金色にオレの顔が映る。右の瞳に良く分らない記号が浮かんでるのが分る――確か、ジャポンの文字でこんな記号があったような。数字だったかな。この画数だと四? いや違った。確かそう、六だ。


「じゃあ、オレん家に来たら毒の訓練もしないとね。始めは麻痺毒から慣らそうか」

「痛いのは嫌いだ」

「痛いんじゃなくて麻痺するんだよ」

「痛くないなら良いぞ」


 痛いのは嫌だっていうのは常識的な感性なんだね、ヒソカなら痛キモチイイとか言って興奮しそうだけど。ああいうところが似なくて良かった。ヒソカみたいな変態が二人に増えたら対応が面倒そうだ。――でも。


「リンネは本当にヒソカと親子なの?」

「突然どうした。オレとパパはこれ以上クリソツになることは不可能なくらい似てるだろ」

「顔の問題じゃないよ。ヒソカの息子なのに変態じゃないこととか、恋愛観がヒソカと違うとかさ」

「蛙の子は蛙のはずだと言いたいのか?」

「うん」


 戦闘や殺しに対する忌避感のなさは「親子だから似る」というものじゃないから除外して、親子間ではどうしても性癖や趣味の傾向が似るものだ。読書好きの親の元に生まれれば読書好きに、スポーツに精力的な親の子供は何かしらのスポーツをする。例えばオレの家なら家業が暗殺だからオレも暗殺者だ。

 だけど、リンネはヒソカと違いすぎるように見える。隣に立つことは出来ても、同じ方向を見ることは出来ない――そんな印象を受ける。

 そんなことをぽつぽつと話せば、リンネは口をへの字にして頭を横に振った。


「先ず、オレと普通の子供は前提条件から違ってるぞ。同一視するのは間違いだ。オレは記憶を持ったまま転生してこの世に生まれた。つまりオレが似ているべきはパパではなく前世の両親だぞ」

「生まれ変わったんだから今の親はヒソカだろ。ヒソカに似るようになるんじゃないの?」

「違うぞ、オレの自我は既に確立された物だ。もしこれからオレがパパに似ていくことがあったとしても、それは朱に交われば赤くなるレベルの話だ」


 リンネはヒソカに似てない。これからも親子のように似ることがないという台詞は、あっさりした言葉だって言うのに、とてつもなく重い。リンネの顔は確かにヒソカに似てるのに、その心はヒソカに親としての位置づけを求めてないということが……この親子のいびつな関係を象徴しているような気がする。

 何時の間にか眉間に皺を寄せてたらしくて、リンネが赤ん坊に似合わずニヒルに笑みながらオレの偽名を呼んだ。


「パパにはそういうの、言うなよ。パパはあれでもオレのパパになろうと頑張ってるんだからな」

「無駄な足掻きだって教えてやった方が良いだろ。どうして秘密にする必要があるのさ」

「どうしたってオレたちは親子にはなれないってことは当然のことだぞ。だけど、親子になろうと努力してるパパをオレは否定する気になれない。そういうことだ」


 良く分らないけど、リンネがヒソカと親子ごっこを続けるつもりだってことは分った。


「それに……オレも、パパがパパであることに助けられてるからな」


 リンネの独り言を聞き逃して「ん?」と聞き返したら、何でもないと言われた。








+++++++++
 要は、二人とも自分のために家族ごっこしてるんだ、という話。ヒソカはだんだんリンネを息子と認識できるようになっていくけど、リンネが見て育った背中はヒソカのじゃないんだよねぇ、という。同類だけど同族じゃない――全然伝わってない気がする\(^o^)/
2013.03/19

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