月と味噌汁、そして死2



 ちぎれてしまったらしきさい帯――へその緒から、とりあえずエリクシールでも流し込めば良いだろう。ゴンを育てた時をなんとなく思い出しながら「おっぱいでちゅよーメルエムたん……ネルメルだっけ?」とか我ながら気色悪いことを言って卵の表面を撫でた。少なくともネルネルではないはずだ、確か。

 王のナニーという地位を押しつけ……じゃなかった、拝命されたからか、オレは良い食事をもらえた。でもその食事が人肉団子だと知ってる身としては流石に尻込みするというか、尻込みしない方がおかしいよね。感覚で言うと数日前まで人間だったし、同族食いは遠慮したい。そんなわけで生々しい肉団子は他の蟻に譲ってる。

 ご飯はどうしてるかと言えば、魔法使い幸也さんに死角はない。魔法でキッチン整備して自分の飯だけ作ってる。オレってばこの蟻の巣の中で一番の文明人、じゃない文明蟻だってばよ! ちなみに食材の調達はオレの畑であって、お百姓さんの畑から泥棒なんてしてないよ。何度か魔が差しそうになったけどね。散歩の時つい他人様の畑に伸びそうになる右腕を抑えて「グッ……! 悪魔の宿った右腕が……罪を犯せとオレに囁いている! 聖なる左腕よ、悪魔を封じるのだ!!」とか遊んだけど。オタクっていうのはいくつになっても厨二なんだよ。

 話は戻って、オレがナニーを始めてもう一ヶ月だ。そろそろ王が生まれてもおかしくない気がする。膜の向こうに完全体っぽいのがうっすらと見えてるし、「ごはんでちゅよー」と言いながらエリクシールを流しこむと怒りの波動が伝わってくるしね。良いじゃないか赤ちゃん言葉。

 王の成長度合いを確かめにピトーが来て「念能力覚えたどー! コレお土産!!」と自慢してきたうえカイトの死体をブラブラさせたから「あ、そう」と答えて死体を引き取ったり、卵が腹から剥がれたせいで女王の体調がガクンと落ちて瀕死だと聞いたり、赤ちゃん言葉で話しかけたら王が膜越しにキレてる様子が分ったりとなかなか楽しい一ヶ月だった。


「あ、生まれるっ!?」


 寝床の真ん中に安置した卵がぐらぐら揺れ出した。慌ててピトーとかプフとかユピーを呼びに蟻を向かわせ、ベッドサイドで「ファイトだ、君ならいける!!」と手に汗握り応援する。気分は科学館でヒヨコが孵る様子を見た時のそれだ。頑張れ、もう少しだ、と逸る気持ちを抑えきれない。

 三人――三匹? が着いたちょうどその時、膜のてっぺんから昆虫らしく節のある腕が突き出し……一気に盛り上がってた気分が醒めた。グロテスクというか貞子思い出すね。


「うわぁ……ホラーだね」


 ユピーに馬鹿を見る目を向けられた。ピトーは頬を紅潮させてじっくりと王が生まれる様子を見て、プフはいつも通り斜に構えた様子ながら視線は卵に釘付けだ。

 卵からは両腕が突き出し、もはや感動の出産というより恐怖の出現だ。世にも恐ろしいモンスターが出てきそうだね! まあ本当に人類にとって大迷惑なモンスターが生まれようとしてるわけだけど。

 王は卵の穴の両側を掴んで勢い良く出てきた。寝床が羊水っぽい液体でビショビショになった――そういえば、オレは明日からどこで寝れば良いんだろ? ナニー業はこれで終わりだろうし、追い出されたらどこに行けば良いのやら。てかさ、帰って良い? 可愛い弟がきっとオレを血眼で探してくれてると思うんだ。姿は鳥類とミックスされちゃったけど、お兄ちゃんだよクロロ君! もう少し待っててね!

 明日からの展望に希望を抱きながら王の発言を待つ。お役御免って言って、お役御免って言え!!


「余は空腹じゃ。馳走を用意せい」


 ――何故それを、オレに向かって言うの!






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 なんか書きたくなったから、カッとして書いた。後悔はまあまあしている。
2013/03/06

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