情けもない



 ツナヨシの部屋から「はぁああああ!?」という声が聞こえたのを見計らい、ノックなしでドアを開ける。そこにはここ数年で私も見慣れたツンツン頭に情けない目付きと、ひょろひょろで筋肉のきの字もなさそうな十歳児が姿見と睨み合っていた。三年もあればツナヨシを見慣れねばおかしいと言うもので、現在生意気盛りの三歳児である私はツナヨシのことを「綱じゃなくて紐だなヒモヨシ」と馬鹿にしていた――昨日までは。
 ただでさえ姿が幼くなっていて混乱しいてるというのに、見知らぬ他人である私の姿に更に訳が分からなくなったらしい、ツナヨシは頭を抱えて「これってどういうこと!?」と叫んでいる。


「初めまして、沢田綱吉……いや、兄さん」

「へっ!? いつの間に弟なんて出来てたの!?」

「違うわタワケ。説明してやるから正座して聞け」


 三歳児の前で正座する十歳児なんてかなりシュールな図だけれど、今はそんなことも気にならないのか綱吉は大人しく私の指示に従った。


「良いか……」


 私が三歳児なのも綱吉が一気に五年も遡ってしまったのも、女神的な何かが原因だ。すでに終わってしまった物語を「まだ終わってほしくない」という理由でループさせてしまったのだ。ーーそれも、自覚なしで。気づいた時には既に事後でどうしようもなく、仕方がないので彼女は時間を繰り返す綱吉にサポート係をつけて謝罪の気持ちにすることにした。それがこの私で、原作のストーリーと概要は知っているものの原作に対するこれといった念もなにもないことと、ちょうど良くポックリ逝ったことでサポート係に選ばれたのだという。まるで催眠術のように私を洗脳しようとしてくる妹の呪詛――じゃなかった、漫画の萌え語りをうろ覚えながら記憶している私は、女神的な何かにはとても便利な存在だったらしい。

 女神的な何かとの交渉により、私はこの次の生つまり来世で優遇処置を受けるという条件でこの要望を受けた。どうせなら良い思いをしたいじゃないか、なあ?


「つ、つまり、オレも君も、その女神的な何かのせいでこんなことになってるってこと!?」

「さっきからそう言っているだろうが。それと記憶にないだろうから言っておくと、私の名前は義家。ツナヨシは私の事をヨシと呼んでいたからそう呼んでくれ。綱吉の七歳差の弟だけれど、精神年齢は私の方が上だから節度と礼儀を守って接するように」

「う、うん」


 義家ってかなり縁起が悪い名前だと思う。源義家は数々の逸話を残す功績ある武将だけれど、殺戮の代名詞でもある武将でもある。これはこの世界に生まれ変わってから図書館で調べたことだからこの認識で間違いはない。――家光は私に何を求めているのやら。

 先の時代をわずかながら知っている私と、時代を逆行してきた綱吉。始めは距離感などで戸惑ったものの、一年もしないうちに打ち解け、今ではそこらの兄弟より仲良くなったように思う。主にツッコミの方向で。


「ヨシ、また変な詩集買ってきたの? どうせ読まないんだからもう買うなよ!!」

「何を言う。これは私の書斎を飾るに相応しい本じゃないか、ホラ」

「そりゃあ中身は高尚な詩が描かれてるんだろうけど、ただお前は棚に飾って眺めてるだけだろ!? もったいないから止めろよ!」


 最近とみに煩いツナをシッシと手で払えば、ツナは頭を抱えて座り込んだ。


「最初は頼りがいのある相手だと思ったのに……付き合ってみればコレだもんな……」


 私が詩集や本を私の書斎や私自身を飾るために買う度、ツナはギャンギャンと噛みついてくる。全く、詩集がなんのためにあるのか知らない奴に、この本の価値が分ろう訳もないか……。詩集を持っている私は、とてもクールで恰好良くなるだろうが! つまりこれは私なりのアクセサリーなのだ。

 例えば、スカル系のリングが好きだからと言って、リングの作り方やスカルを囲むアイテムの意味を深く知ろうとする者は五割もいないだろう。それと同じだ。詩集を持っている私は恰好良いから、詩集を買って木陰でそれを開くのだ。

 私の部屋のドアの前でしゃがみ込んで動かないツナを蹴れば、ツナはのろのろと私を見やり、そしてまたため息を吐いた。人の顔を見てため息を吐くなと言っただろ。


「ツナの好きなゲームだって一つで八千円はする。これは一冊三千円以下」

「うっ!」

「それに私も一月に一冊しか買わない程度の自制心は持っているつもりだし」

「ううっ!」

「で、ツナ。何か言うことは?」


 唸るツナに畳みかければ、ツナは「オレが間違ってたよ、そう言えば良いんだろ」と白旗を上げた。


「ところでツナ。覚えているかは知らないけれど、そろそろイタリアから奴が来る時期だったと記憶してるのだけれど」

「……うん、リボーンが来る」

「今度は最初からボンゴレを継ぐのを受け入れるのだろ? なら、さっさとイタリアでもなんでも飛ぶべきだと私は思う」

「分ってるけど。でも、ここで出会えた人が沢山いるから」


 ツナは口の端を上げてニコッと笑んだ。


「付き合ってくれるんだろ、ヨシ」

「まあ、それが私の仕事だからな。――おお、なんだか今の台詞は恰好良かった!『それが私の仕事だからな』。恰好良い!」

「どうでも良いよそんなこと」


 ツナは長嘆息を吐きながらガックリと項垂れ、「こんなサポーターで本当に大丈夫なのかなぁ」と嘆いた。失礼な……私には「そんなこともあろうかと」という奥の手があるのだ。様式美のためにツナにだって言っていないが、女神的な何かから頂いた最終兵器がある。

 さあ、物語の始まりだ。







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 セミナーに疲れた頭で、アルコールを摂取しながら。もちろん時間がかかった。この木曜日にあるゼミの資料が80枚ちょっとあるのが困る。目が死ぬ。
12/02.2012

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