晦日番外〜inキラル2〜



 人間の年齢にしてまだ十五かそこらのオレだけど、これでも小金持ちの端くれだ。父上の生前分与や母上の遺産相続、人間の年齢で十歳になった時に父上に任された領地からの収入。華美な生活を送ろうと思えば送れる程のお金を持っているんだけど、オレは貧乏症だから無理っていうか性に合わないんだよね。旅費くらいがあれば良いやって思ってたけど、この貯金があったお陰で弟の育児用品を揃えられたことを思うとお金って大事だなって思うね。

 ところで。母上が亡くなってしまったから弟の命名権は父上にしかない――のに、その父上本人が育児放棄をしてるんだよね。親としてそれはどうなの? 魔族にとって名前はとても大切なものだからこそ、弟の名前をオレが勝手に付けることは出来ない。つまり、今のところこの子は名無しの権兵衛ってことだ。

 ファガル君がヤギの乳を哺乳瓶に入れて弟に飲ませてるのを見ながら、もっと優先しないといけないことがあるのを思い出した。


「そうだよ、名前について悩むのは後回しだよ! 乳母を見つけないと!」

「乳母、ですか?」


 ファガル君は「ヤギの乳ではいけないのでしょうか」と首を傾げる。まあ、体に凄く悪いとか毒だとか言うつもりはないよ?


「赤ん坊って言うのはお母さんのお乳から栄養補給をするよね。子ヤギや子牛の必要とする栄養と、赤ん坊が必要とする栄養――全く同じものを同じ量ずつ必要とすると思う?」

「ははあ、だから乳母なんですね」

「そう言うこと」


 ファガル君は頭が良いらしくオレの伝えたいことにすぐに理解を示した。


「一日に一度で良いからお乳を分けてもらえるようにしなきゃ、栄養が偏っちゃうよ」


 ――ということで、乳児のいる家庭を調べてこそこそとそこに頼みに行ったわけだ。その奥さんはかなり豪快な人で、一度と言わず毎度飲ませてやるよと脂肪より筋肉の多そうな胸を叩いて請け負ってくれた。

 二人揃って街を歩く十代始めの少女(に見える少年)と十代半ばの少年、片割れの少女の腕の中には赤ん坊とあれば、ゴシップ好きな街の人々は好き勝手な妄想を作り上げるもので。……『まだ若いながらも仲睦まじいおしどり夫婦』という噂が街全体に広まっていると知った時は頭痛がしたよ。赤ん坊は弟でファガル君は従弟で男なんだと何度説明しても「まあまあ、ウソ言うなよ」と言われる始末だし。

 帰りがけに買い物をした時に「奥さんを大事にしてやれよ」と言われた時は相手を泣いて謝るまで殴ろうかと思ったけどファガル君に止められた。


「コーラルさん、今日のデザートは何にするんですか?」

「アップルパイにしようと思ってるよ」

「ホントですか? 楽しみだなぁ」


 嬉しそうに目を細めて微笑むファガル君は確かに女の子に見える。オレは一緒に風呂に入った仲だから胸がなくて股間にあることは知ってるけど、知らない人からすれば少女に見えるのもまあ仕方ないんだろう。人間の成長は早いから、今は美少女でも数年後には美青年になるに違いない……早く誤解が解けますように。

 数年後、美少女が美男子になるどころか美女になってしまって頭を抱えることになるとは――この時のオレは思いもしなかった。






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 今回は短いです。どうにもここで切った方がしっくりきたので。
11/14.2012

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