晦日番外〜inキラル〜



 十人並みの顔の者ほど強く美しい者ほど弱いというこの世界で、オレは「美しいのに何故か強い」と言われている――魔族だ。二十歳違いのガルファール兄上は「ああコーラル、お前が黄金の如き金髪でエメラルドの瞳をしていたならば、もっと母上に似ていただろうに」と嘆くけど、あいにくとオレの髪は蜂蜜で瞳は珊瑚。全体的に色素が薄いというか不足気味なせいでコウモリ傘が手放せない。


「ああ……やっと、久しぶりの我が家だ……」


 ――つい数ヶ月前に母上が亡くなったのだけど、亡くなる前もなった後も、オレは実家に帰っていない。帰ってないっていうか帰れなかった。

 オレは人探しの旅をしてる。旅に出ることについては父上や兄上が猛烈に反対したものの、母上の鶴の一声で旅を出来ることになった。――だから母上の死に目には会いたかったのだけど、切羽詰まった状況だったせいで家族と連絡を取り合うことも出来ず、情報を得ることも出来ず……気が付けば母上が亡くなってから既に数カ月が過ぎてたという。オレ、夜中に爪を切った覚えなんてないんだけどなぁ……。

 半年前のある日、この容姿のせいでオレを弱い魔族だと勘違いした馬鹿に愛用のコウモリ傘を壊された。オレの魔力を込めて手作りした傘だからそこらへんで新しく買うとか今すぐ新しいのを作るなんてことができなくて、とりあえず宿に戻ってゆっくり作ろうと慌てたのが悪かった。その日は特に日差しが強く、オレは宿の二十メートル手前でダウンしたのだ。夕方まで待てば良かったのにオレのうっかりさん!

 それを拾ってくれたのが見るからに幸と影が薄いお嬢さんだったんだけど、なんと彼女は魔族に呪われてた。彼女のお父さんが警邏の元お偉いさんで、お父さんを恨む人が呪術士に呪殺を依頼したらしく――真名を握られ呪術士に使役されてる魔族のお兄さんとガチバトルをすることになっちゃったんだよ。魔族のお兄さんの攻撃を必死にいなしながら呪術士を殺して大団円……であれば良かったのにね。

 何故かお兄さん……そいつは「お前のひたむきな姿に感動した」とか抜かし、オレを部下にしようとあの手この手で勧誘というか恐喝を繰り返し繰り返し……やっと説得できたのが二日前。母上がお亡くなりになったことは今日になって初めて知ったよ。ボロボロにやつれた姿で歩くオレを見た近所の人が教えてくれたのだ。


「ただいま……」


 母上がいなければ家に帰る必要性が見つからないと豪語する父上と兄上はきっと、母上のいないこの屋敷に帰って来ようはずもない。返ってくるわけがない挨拶をして屋敷に入れば、何故か家の中には黒髪の少年がいた。


「あれ、君はどなた? お客さん?」


 客人にしては普段着の少年に声をかければ、彼は慌てた様子で両腕を振った。


「ち、違います! 数ヶ月前からこのお屋敷に引き取られたファガルと言います! えーっと……貴方は?」

「ここの次男坊のコーラル。もしかして君は叔父さんの息子かな?」

「はい。両親が死んでしまったので、料理を作る代わりに置いてくれるという約束でここに引き取ってもらいました」


 少年はまだ十歳かそこら。父上と兄上なんて気まぐれにしか帰って来ない人だからね、彼はここに一人きりってことか。……引き取った意味ってあるの?


「そっか。オレはお菓子作りが好きでね、料理はまあ一流には程遠いけどお菓子なら誰にも負けない自信があるんだ。一緒に食べない?」


 その前に湯あみをしてここ半年の砂塵を落とさないといけないけど。あー、プリン作りたいな。


「席をご一緒しても良いんですか?」

「良いから言ってるんだよ。――そうだ。生まれたって言うオレの弟か妹はどこにいるの?」

「はい? 弟か妹……?」

「知らないの?」

「はい」


 もしかして死産? そんな、会うのを楽しみに半年間頑張って来たのに、そんな。

 砂埃で汚れたマントを脱ぎ落とし、日避けの手袋やショールも投げ捨てながら奥の部屋へ走る。その後ろからファガル君がオレの落とした物を拾いながら追いかけてくるのを感じながら、弟妹の部屋になる予定だった部屋の扉を開け放つ。小さな寝台の中に、やつれ果てた赤ん坊の姿――あのクソジジイとクソアニキ、赤ん坊の世話を放棄するとかどういうことなの!?


「あ、赤ん坊っ!?」

「ファガル君、今すぐヤギの乳か牛の乳を持ってきて!」

「は、はいっ!」


 オレたちの気配で起きたらしい赤ん坊はヒイヒイと掠れた声で泣いた。その時オレの中で膨れ上がったのは父上と兄上に対する怒りも当然あったけど、可愛い弟に対する愛情だった。可愛いなあ、オレの弟! 泣いても可愛いなんて天使じゃないかな!






+++++++++
 もちろん探し人はクロロ君と麻那ちゃん。ほぼ説明の話になってしまった。
11/13.2012

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