晦日の月11
「到着!」
ゴンとキルア、ノブナガの三人がブラックスーツのSPに囲まれて立っていた。オレが空から飛んできたことに一瞬目を剥いたものの、すぐに臨戦態勢に入れる彼らはプロなんだろう。
「コーヤ!? 早すぎない!?」
「飛んできた!?」
「おー、今度の能力はなんだ? 面白そうなことしてんじゃねーか」
キルアはオレと空を見比べ、信じられないと言わんばかりの表情だ。うーむ、ゾルディック兄の方を見慣れてると表情豊かな弟が育ったことに驚いちゃうね。
「運良く起きてたからすぐに来れたんだよ。あとこれはオレの能力ってわけじゃないから。――ゴン、パナシーアボトルとエリクシールが欲しいって言ってる『バッテラ氏』はこの人の事かな」
バッテラ氏だろう人を見れば、その横には確かツェズゲラって言ったか、オレの店にも来たことがある男が立っていた。ゴンはそうだよと頷いてる。
「あんた、NPCじゃなかったのか……!?」
「そ、NPCじゃなくてゲームのサブマスターだよ」
ツェズゲラが驚愕に声を荒げ、それに対してバッテラ氏はオレの前へ一歩踏み出すと真剣な表情で口を開いた。SPが慌ててるのがちょっと可哀想。
「私は、君がNPCであるとかサブマスターであるとかなどどうでも良い。パナシーアボトルとエリクシールを売ってくれるのなら何でもしよう。全財産を渡しても良い」
「バッテラ氏!?」
ツェズゲラが困惑した様子で声を上げるのも気にせずオレをひたすらに見つめるバッテラ氏――うん、オレの好きなタイプだね。ひたむきな人は大好きだ。
「全財産を投げ打つ必要なんてないよ。貴方みたいな人とはちゃんと定価で取引したい」
パナシーアボトルは一万ジェニー、エリクシールは五十万ジェニー。あまりお手頃すぎる価格だと色んな問題が起きそうだということで、ジンが最初にオレが言った価格に桁を二つ足したのだ。ちなみにネテロ会長にはこの倍の値で売りつけてる。それでも買うんだから会長職っていうのはよっぽど給料が良い仕事に違いない。
「そんなに安くて良いのか……?」
「これがオレの能力だからね。元値がかかってないことを考えるとボりすぎなくらいだよ」
「そうか。この効果を確認しても良いだろうか」
「良いけど、この近くに怪我人や病人なんているの?」
会ったばかりで信用できないはずの人間に対して無条件の信頼を寄せるような人はこれほどの大金持ちでいられない。誰かしらの罠にかかって全財産を失うだけだからね。寝たきりの恋人に毒を盛られる心配もあるだろうし、この判断を失礼なものだとは全く思わない。
SPをボコボコにして試すわけにはいかないから、病院だとかで臨床実験相手を見つけようという話になった。――クロロ君が起きる前には帰りたいけど、果たして時間までに帰れるかな? 向こうは早朝の四時でこっちは夜の十時。二時間拘束されたらもう六時になってしまうんだよね。
医者と患者を買収して、パナシーアボトルは状態異常、エリクシールは戦闘不能状態からの回復だと説明した後に服用させるという。ちなみにパナシーアボトルはアル中患者、エリクシールは建設現場の足場から落ちて仕事ができなくなった人に使うことになったそうだ。
「あの『ゲイン』って呪文、なんなの?」
そして今。足早に実験に行ってしまったバッテラ氏たちを、オレたちはホテルの一室で待っている。
「グリード・アイランドではヒト以外のほとんどの物がカードになるんだ。そしてカード化されたものは『ゲイン』って呪文で元のモノに戻すことが出来る。たとえばグリード・アイランド内で小石を拾えばカードになる。そのカードを持って『ゲイン』と唱えれば小石に戻る。でも、ゲインを唱えて元に戻ったそれを再びカードにすることはできない」
質問したキルアは一度の説明で理解できたみたいだけど、ゴンは分った様な分ってない様な顔で生返事だ。ノブナガは分ったみたいだから、単純に強化系だから分らないなんていうことじゃないだろう。
「噛み砕いていえば、『ゲイン』って唱えればカードが現物になるってことだよ」
「あ、なるほど!」
端的すぎる説明だけど、その方がゴンには分りやすいんだろう。
「今は……十一時前か。早く帰って来てくれないかな。もう眠たくて眠たくてしょうがない」
スマホで時間を確認すると、ヨークシンシティは十一時になろうとしていた。――つまりオレの体内時計は早朝の五時。徹夜はお肌に悪いんだよ、女性じゃなくても肌荒れは大変なんだよ。眠い。辛い。キツイ。
「コーヤって十時には寝る派なの?」
「いや、グリード・アイランドでは今は朝の五時だから。ちょっと色々あって夜まで仕事してたらゴンからメールが来てね、今に至るってわけだよ」
仮眠取ってたら駄目かなぁ。うーん、ゴンの髪チクチクするね。
+++++++++ 兄さんはさりげなくゴンの頭を撫でまくってるようです。 11/10.2012
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