魔法界の中心でザケル! と叫ぶ
メールの着信音は「YOU GOT MAIL!」という元々携帯に入ってた男性の声。買ってすぐお母さんと一緒に設定してそのままだ。英語が苦手な私だけど、これくらいは当然わかる。高校生になってからちょっと離れた学校に通うことになって買ってもらった、当時は最新の、でも今はもう旧型の携帯。愛着があるし頻繁に変えるようなものでもないと思って二年目の今も同じ型。ついでに名前はガッシュ君。正式名称はガッシュベル。黄色の可愛い私の相棒。ストラップはお茶についてきた生茶パンダと富岳三十六景携帯クリーナー。我ながら寂しいとは思うけど、ガッシュのストラップが電車のドアに挟まれていなくなってからは別の何かをつける気が起こらなかった。
と、携帯がメールの着信を知らせた。「YOU GOT CHANCE!」――チャンス? 画面を見ればガッシュが私に手を振っていた。こんな動画、私持ってないのに――
顔にビシバシ髪が当たって痛い。私、落ちてるんだ。それも高いところから地上へ。
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃい!!」
唯一の持ち物である携帯を抱きしめて叫ぶ。鞄は私に遅れて落下している。手が届かないし、もし届く範囲内にあったとしてもとる気にはなれなかっただろうけど。体の中で一番中身が詰まってるのが頭だから、頭を下に落ち続ける。眼下に広がるのは広大な森。もしこれが平静な時だったら感動してたかもしれないくらい見事な森が地平線まで広がって見えた。
「たすけ、誰か」
森の中にぽつんと白亜の城が建っていた。そばにはひたすらに青い湖水。まるで幻想の世界にやってきたみたいな、色々なものが私から剥がれていくような気がした。
「魔界って、こんなのなのかな――」
一度でなく願った、ガッシュの世界に行ってみたい――そんな馬鹿みたいな願い事。でもガッシュ夢ってマイナーで、一人空想するだけで満足してた。でももしかして、ああ、もしかして。私、ガッシュの世界に来たのかなぁ?
「でもこのままじゃ湖に落下だよぉぉぉぉ!」
水に叩きつけられて死んじゃうかもしれない。そんなの悲しすぎる。せっかく魔界に来たのにガッシュやウマゴンやキンチョメに会えずに終わるなんてそんなの嫌!
「誰かぁぁぁぁぁ助けてぇぇぇぇぇぇぇ!」
誰に届くかは分からないけど、魔王なら、優しい王様なら、この哀れな異邦人の命を救って!
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
湖面にぶつかって死ぬ、そんな未来予想図を思い浮かべながら目をギュっとつぶったその時、妙に舌を巻いた発音が聞こえた。体がフっと浮き、恐々と目をあければそこには、黒いローブを身につけた集団がいた。怪しげな新興宗教? アレイスター・クロウリーファンの会合? 宙に浮いたまま、ゆっくりと私は湖のそばに移動した。集団の中でも一番顔の老けた人、教祖なのかリーダーなのか分からないけど見た目四十代の男の人が杖を私に向けてる。男の人の杖先が動くのに合わせて私は地上におろされ、どうやらこの人に助けられたらしいと分かった。
「そ、そんな……!」
どう見ても人間。誰が見ても人間。魔物は? ガッシュは? 可愛いウマゴンは? 元のイメージはオラウータンだったキンチョメは……?!
「そんな酷い、魔法があっても魔界じゃなきゃ意味がないよそんなぁぁぁぁ!」
さめざめと泣く私に赤毛の青年二人が近寄ってきた。リーダーらしき人に怒鳴られてるけど気にしてないみたい。
『ねぇねぇ君どうして空から降ってきたの?』
『まさかアトラクションじゃないだろ?』
何語? 英語っぽいことは分かるけど、内容はさっぱり分からない。
『ね、そんなところに座り込んでないで立ちなよ』
『ほら――』
何か早口で言い、手を伸ばして私に触れようとした。外人が。
「が、外人怖いよー! 助けてガッシュ! うわぁぁんザケル――!!」
頭を抱えてザケルと叫んだ。ら。
雷が落ちた。外人の青年二人に。
『『ぎゃぁ!』』
「へあ?」
オォウ、だとかいう悲鳴が聞こえたから恐々と顔を上げたら、黒こげになった二人が倒れていた。……まさか、私が? ザケルって叫んだから?
「……ザケル」
呆然としてる宗教団体のみなさんはおいておいて、ドキドキしながら近くにあった枯れ枝にザケルと唱えてみた。バシュッ! といいながら炭になる枝に胸がキュンキュンする。使える、呪文が使える……!
「これならバオウもいけるかもしれない……ああ、神様ありがとう!」
私を助けてくれた教祖さんが声をかけるまで、私はザケルを使い続けた。
ない休み時間、ノリノリで執筆したネタ話^^これもしばらく書きたいなぁ、でも今日は木の葉丸を書こう、ごはん食べたら。 04/30.2010
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