晦日の月3
グリード・アイランド内にある魔法使いの街・マサドラ。その一角にあるNPCの運営する店『マナ』、店主の名前はコーヤ・ウンノ――シャルナークが「コーヤ・ウンノ」と検索してハンター専用サイトから買いえたその情報は、あまりにもタイムリーなものだった。――ついさっき、バッテラ氏が競り落としたというニュースが電脳速報に流れたから。
「オレ、ジンの作ったゲームをすればジンへの道が分るんじゃないかって……そう思ってオークションに参加して競り落とそうと思ってたんだ」
ゴンが口をへの字にして拳を握り、瓦礫の上に腰かけたクロロをキッと見上げた。キルアがその横に寄り添う。
「だから、オレがコーヤを探してくる!! バッテラさんって人がゲーム参加メンバーを応募してるから、それに合格して、マサドラとかいう街に行く!! そしてコーヤを見つける!」
クロロを振り仰げば、クロロの目は暗く濁っていた。――半狂乱のクロロを抑えるのにどれだけ苦労したか。本気で殺り合いたいと願っていたのはボクだけど、あんなクロロと戦いたいわけじゃなかった。もっとお互いに楽しめるような、ピリピリとしつつも愉快な戦いを望んでいたのに。
頬と腕に滲む打撲痕と切り傷を撫でればピリリと痛みが走る。
「なあ団長、こいつらに任せてみようぜ。それとも一台盗んでくるか?」
フィンクスがわざと明るい声でそう口にすれば、クロロは無表情のまま「東だ。東へ行く」と答えた――やっと好感触? でも何故、「オレも行く」でも「盗って来い」でもなく「東へ行く」なのか。
「どう言うことだい、団長」
「あの娘の予言だ。オレの待ち人は東にいる……グリード・アイランドは念能力者専用のゲームだ。ゲームのNPC(ノン・プレイヤー・キャラ)として兄さんが登場するというのなら、それから考えられる可能性は二つ。
一つ目は兄さんの情報がゲームにインストールされているとするもの。もしそうだとすれば、兄さんとゲームの制作者が親しい関係にある・兄さん本人が制作者として参加していたということになる。よって、このゲームに参加することで兄さんもしくは兄さんと連絡を付けられる存在と会えるだろう。
二つ目は兄さん本人がゲームに入り、NPCのふりをしている可能性。もしそうだとすれば、そのマサドラという街に行けば兄さんに会える。
そしてオレが考えるに、グリード・アイランドの舞台は仮想空間ではない。どこか人に知られていない島などを舞台として利用していると考えられる。ゲームを始める際にプレイヤーの肉体も消えるため、一から構築されたゲーム世界に潜り込むと考えるよりどこかに転送されていると考える方が自然だからだ」
クロロの話を腕組みして聞いていたシャルナークが伏せていた目を上げて口を開いた。
「――なら、団長はグリード・アイランドにコーヤがいると考えてるということですね。そしてその舞台として使われている島もしくは未開の地は東にある、と」
「その通りだ」
「ヨークシンから東と言っても、ヨルビアンの西の端にあるここから『東』は範囲が広すぎんぜ。ここは盗んだ方が早いんじゃねーか?」
頷いたクロロにウボォーが質問をした。その案にはボクも賛成。わざわざ東というあやふやな単語のみで無人島を探すよりもゲームに参加した方が手っ取り早い。
「えー!? バッテラさんが募ってるって言う参加メンバーにならないの!?」
「おい、ゴン!」
だけどゴンたちは盗むという方法を好かないみたいで盛大に顔をしかめて大声を上げる。本当に直情型で後先考えないね……キルアに殴られてもたらこ唇を止めないことには逆に拍手を送りたくなるほどだよ。
でもクロロはそれを叱ることなく頭を軽く横に振るだけだ。
「お前たちがそうしたいのなら、お前たちだけで参加しろ。――ノブナガ、お前もこいつらと一緒に参加したらどうだ」
「オレ!?」
「こいつらの念はまだまだ甘いが、上手く育てれば必ず輝く原石だ。育てたがっていただろう?」
目を剥いたノブナガに落ちついた声音でそう言ったクロロの目は爛々と輝き、ボクが大好きな表情をしていた。今のクロロと戦えたら最高に興奮するだろうなァ……。でもそれはコーヤに会うまでお預けかな?
「オレは兄さんを取り戻す……絶対に!」
クロロの拳はあまりに強く握り締められているせいか、指先が真っ白だった。
+++++++++ 時間軸原作編。クラピカなんて存在は思考の端にも残っちゃいない。
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