晦日の月
『お兄ちゃん死んじゃうかも』――そう言ったのはオレ自身。オレが口にする「冗談」が現実になってしまうという、念能力なのかそれとも超能力なのか良く分らない力があることを知っていたはずなのに、オレは何も考えずに麻耶ちゃんにそう言ってしまった。もしかすると麻耶ちゃんにショッキングなことをしてしまったかもしれない……お兄ちゃん失格だ。もう麻耶ちゃんのお兄ちゃんだなんて名乗れないよ。
肉体から解放されちゃったオレは、ふよふよとどこかの海の上を漂っている。波に揺られて右へ左へ。潮の流れに導かれてどこかを目指している。太陽が白い……。
そういえば悟空も何度も死んだけど何度も生き返ったよね。一番死んだのはクリリンだけど。地球のでもナメック星のでも良いから、神龍、オレを生き返らせてー。
無い両手を上に突き出して出ない声を張り上げれば、中華風な龍が雲を割って降って来た。そして一言『願い事はなんだ?』。来て欲しいと願ったのはオレだけど、そんな簡単に来ても良いのか神龍。もっと勿体ぶってもおかしくない身分じゃなかったの神龍。まあ折角来てくれたんだから、有難くお願いするけどね。――これから人生はまだまだ長いはずだから、生き返りたい。体が欲しいって。
「その願い、叶えよう」
目はないはずなのになんでだろう? 物凄い眩しさにオレは気を失い――そして頬を張られてることに気付いて目覚めれば、愛嬌のある顔の青年がオレの頬をベシベシと叩いてた。
「おいあんた、大丈夫か?」
「ここ、どこだ?」
「ここはオレとオレの仲間が所有する島だ。あんたはどうしてここへ?」
「どうしてと言われても、気が付いたらあんたに頬を張られてた」
「漂流か? でもここに漂流してくるような奴はありえないはずだけどな……」と顎に手を当てて首を傾げる青年。オレも一緒になって首を傾げる。二人で同じ方向に同じ角度で首を傾げていれば、青年の後ろから現れたグチャグチャの髪の男が「何してんだお前ら」と呆れた声をかけてきた。
「いや、この島って漂流者なんてありえねーだろ?」
「エリナたちがそう言ってたっけな」
「コイツ、漂流者みてーだ。この島にワザと入って来たわけじゃなくて偶然来ちまった。うんうん、運命的な出会いって奴だな」
「漂流を運命って言っちまうオメーのセンスがオレには分らんわ」
上半身を持ち上げただけのオレと地面に膝を突いてオレの両肩を持ったままの青年、二人で見つめあって、どちらともなく自己紹介する。
「ジンだ。ジン・フリークス」
「幸也。コーヤ・ウンノ」
おかしいな……その名字、聞き覚えがとってもあるんだけど。
「なあお前、面白いこと好きか?」
「――は?」
「漂流してきたのもなんかの縁だ。世界一面白ぇゲーム、参加してみねーか!」
口をあんぐりと開くオレにジンはにかりと笑んだ。そして担ぎ上げられたかと思えば島の奥の方へ連れ去られ、十分後にはオレはジン曰く世界一面白ぇゲーム『グリード・アイランド』のテストプレイヤーとして参加することになっていた。行動力の塊なのは息子とそっくりだね。
+++++++++ 十八歳の兄さんシリーズ続編。前シリーズの終わり方に「!?」とか「鬼畜仕様」と言われてしまった。 11/06.2012
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