赤ちゃんとボク23



 リンネが自分のプレートとボクの持つプレートと入れ替えたわけじゃないと気付いたのは、飛行船に乗ってしばらくしてだった。


「――もしかして、リンネ。あれは幻術かい?」

「ウン。オレがどれだけ素早くプレートを入れ替えても、パパにバレないわけがないと思ったからな」


 つまり、幻術によってプレートの数字を置き換えただけ、と。なるほどそう言う使い方をしても良いわけだ。


「お前は頭が良いね☆」

「オレだからな」


 ちいさいリンネの髪を撫でる。リンネは飛行船の外を眺めるのに夢中らしく、ボクが何をしても気にした様子がない。……つまらないなぁ。


『えー、これから会長が面談を行います。番号を呼ばれた方は二階の第一応接室までおこし下さい。――受験番号四十四番の方。四十四番の方、おこし下さい』


 廊下に取り付けられたスピーカーからボクを呼びだす旨の放送が流れた。リンネをここに置いて行くのははばかられるし、連れていっても構わないだろう。


「リンネ、一緒に行こうか☆」

「ん、分った」


 やっと窓から顔を離したリンネの抱き方を替え、階段のある方へ足先を向けたちょうどその時、物影からぬるりとイルミが姿を現した。


「面談中はオレが預かるよ」

「キミに?」

「うん。リンネを会長と会わせるのはお勧めできないしね」


 イルミの言葉に納得してしまうところもあり、仕方なくリンネをイルミに渡す。あの爺さんとリンネを会わせるのは、勘だけど、止めた方が良いように思えてきたから。


「さっさと終えて帰ってくるからね☆」

「面談が最終試験だったりしたらことだぞ、パパ。オレは気にせず行ってくれ」

「分った☆ リンネもギタラクルと良い子で待ってるんだよ☆」

「いってらっしゃいパパ」

「行ってくるよ☆」


 リンネが可愛い手を横に振る姿にきゅんとする。写真――ううん、ビデオだ。試験が終わったらビデオカメラを買おう。


「まあ、すわりなされ」


 応接室はジャポンの文字で「心」と書かれた掛け軸が背面に掛けられた和室で、畳の敷かれたところは一段他より高くなっている。靴を脱ぐよう指示されて畳に上がり、大判のクッションに腰かける。


「まさか、これが最終試験かい?」

「全く関係がないとは言わんが、まあ参考までにちょいと質問する程度のことじゃよ」


 それはあり得ないだろうと思いつつ口にすれば、その通り否定の答えが来た。


「――先ず。なぜハンターになりたいのかな?」


 ま、ハンター協会の会長として当然の質問だね。


「別になりたくはないけど、資格を持ってると色々便利だから☆ 例えば――人を殺しても免責になる場合が多いしね☆」


 好き勝手に人を殺しても、『ハンター証を守るために殺した』と判断される。殺人免罪符みたいなものだって認識は間違ってないはず。


「なるほど。では、おぬし以外の八人の中で一番注目しているのは?」


 『注目』ねぇ。注目なら、九十九番。


「四百五番も捨てがたいけど、一番は彼だね☆ いつか手合わせ願いたいなァ☆」


 自然と零れる笑い声に、会長は半眼になった。良いじゃないか、好みなんだから☆

 会長は最後に一つ、と人差し指を立てる。


「八人の中で、『今』一番戦いたくないのは?」


 今度は『今』か。それならあの子だ。ゴンしかいない。


「それは四百五番……だね☆ 九十九番もそうだが、今はまだ戦いたくないという意味では四百五番が一番かな☆」


 彼には伸び代がある。そのうちとっても美味しい青い果実になるに違いない。楽しみでならないよ。


「――ちなみに、今一番戦ってみたいのは、あんたなんだけどね☆」


 でも今はしない。リンネが待ってるからね、リンネが観客席で見てるっていうなら今から戦うのに否やはないんだけど、あの子を待たせてるのにこれ以上時間を浪費するのは僕の本意じゃない。


「あと、これはワシのごく個人的な質問じゃが……」

「何?」

「四百六番、お主の息子という子供じゃ。あの子は十四歳じゃろうに、何故あのような稚い姿にもなっておる? あれが呪いならば親として除念師を探すべきじゃろう」


 虚を突かれて目を見開く。呪い? あれが?――と、そこまで考えて、会長が大きな勘違いをしていると気付いて大笑いしてしまう。

 リンネは十四歳なんかじゃない、まだ零歳の赤ん坊だ。だけど会長は逆だと考えた。当然だよね、零歳の赤ん坊があんなに自我が確立しているわけがないんだから。だから会長はリンネが赤ん坊になってしまう呪いを受けたのだと勘違いしてしまったんだろう。ああ、なんて面白いんだ!


「何がおかしい?」

「クックック……前提が間違ってるのさ☆ リンネはまだ零歳の赤ん坊なんだから☆」


 理解できないと言わんばかりの顔を見てしまって更に笑えて、「もう下がって良い」と言われて応接室を出てもまだ笑えた。リンネ、リンネ! キミは素晴らしいよ!! このハンター協会の会長すら騙す幻術と、零歳であると言われても信じられない、確立し過ぎた自我!


「なんて楽しいんだ☆」


 止まらない笑いを抱えながら廊下を歩き、リンネが待っているはずの展望スペースに向かった。ああ、笑いが止まらない。





+++++++++
 赤ボクか十八歳かどっちを書こうか悩み、結局赤ボクにした。
10/28.2012

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