勝利の女神17



 ヒソカさんとの観光旅行は不本意な始まり方ではあったもののとっても楽しい。ドーラさんから慰謝料としてふんだくった大金を湯水のごとく使っての豪遊――というものも考えたけど、そんなお金の使い方を覚えてしまったら帰ってから困るだろうと思って節度を守った旅行になっている。


「香辛料のクッキーですか……」


 かつて砂糖がなかなか手に入らなかった時代、ヨルビアンにあるとある国の温泉街で、香辛料をふんだんに使い保存食を兼ねたお菓子が生まれた。それがプリンテン。立ち並ぶお店のショウウィンドウに必ずと言って良いほど並んでいるプリンテンは、湿気た焼き菓子みたいな触感に香辛料独特の風味が特徴で、量は食べられないけど紅茶と一緒に三時のオヤツにしたい感じ。私は好きだけど、苦手な人もいるかも。お店によって味がちょっとずつ違うね。


「買って帰るかい?」

「うーん、どうしたら良いですかね……。荷物も増えるばかりで減りませんし」


 天空闘技場周辺しか知らない私にとって、この観光旅行はかなり興奮するものだった。前知識がないのもあってあまりの情報量に頭が破裂しそうになったり、世界三大がっかり観光地と言われても「へー、そうなんだー」という反応しか返せなかったりしたけど、見るもの全てが楽しくてワクワクした。それもこれもショタコン犯罪者エミリオさんのお陰だ。お礼を言うつもりは全くないけどね。だって、誰がどうして自分の貞操を狙ってくる人にお礼を言うって言うの?


「この、割れプリンテン300gってのにします。チョコレートコーティングしたのとか糖衣のとか色々入ってこの値段ならかなり安いですし、量もちょうど良いですから」

「なるほどネ☆」


 私が手に取った分を取り上げて、ヒソカさんはさっさと会計に行ってしまった。――この旅行で得たのはお土産や観光地での経験だけじゃなくて、ヒソカさんに対する再評価もある。ヒソカさんはかなり紳士的で常識的。戦闘狂で強い相手に対して性的に興奮してしまうとしても、エミリーのように私への被害は全くないので気にする程の事じゃない。


「良い人、なんだよね……」


 そう。ヒソカさんはとっても良い人だ。私は彼に、肉体的にも精神的にも守られている。旅行を始めた頃、ヒソカさんには『笑顔を振りまいちゃいけないよ』って何度も言われた。私自身そんなに笑顔の大安売りをしているつもりはなかったから、意味がさっぱり分らなかった。だけど、私が何かで笑顔になる度、異性の厭らしい視線とか欲望とかが私に向かっていた。気付けたのは本当に偶然だったんだけど、それからはヒソカさんの心遣いが見えてきて、今までのヒソカさんに対する思いこみとか偏見が一気になくなった。

 私にいやらしい欲望の矛先が向かないようにけん制したりして、ヒソカさんは最大限の気を使って私を守ってくれている。これにときめかないわけがあるだろうか? 私が思うに、普通の女の子ならときめいて当然――ぶっちゃけて言えば、私はヒソカさんにうっかりときめいてしまったのです。

 美男だけど化粧で変態にしか見えない……ヒソカさんにアタックする女性は少なくなるよね! 言動がなんだか変態っぽい……変態好きでもないとアタックしないよね! 戦闘狂……それを受け入れられる人でもないとアタックなんて考えもしないよね!

 ――とまあ、そんなことを考えてしまったあたりで「あ、私ってヒソカさんに恋してるんだ」と自覚した。それが二週間前の事。

 でも、好きになったからって言って告白するかは別問題だったり。観光旅行はまだ一週間あまりあるのに、今告白してしまってヒソカさんとの空気がギスギスしたらって思うと怖いし、ヒソカさんが客観的にロリコンであることを受け入れてくれるかも謎だし。だって私の外見年齢十三歳だよ? 日本に帰ったら十七八歳って判断してもらえるのに、ここじゃ十三歳の未成年扱いなんだから! ヒソカさんにロリコンの気がないとお付き合いなんて無理に決まってる! 越えるべき壁が高すぎて尻ごみしちゃうんだよ!


「買ってきたよ☆」

「有難うございます、ヒソカさん」


 この店のロゴが入った袋を手に帰って来たヒソカさんに微笑んで、ごく自然な動作で肩を抱かれて店を出る。ちなみに、手を繋いだだけでは人ごみのせいで迷子になりかけ、腕を組もうとしたら身長差で腕が引きつり、最終的には肩を抱かれる形で落ちついた。恋人同士みたい、と内心ときめいてるけど口には出さないよ。


「今日はそろそろホテルに戻ろうか☆ 夕食は何が良いか希望はあるかい?」

「うーん……。ヒソカさんの方が詳しいでしょうから、ヒソカさんにお任せします。それで、あまり脂っこくないものが良いです」

「分ったよ☆」


 ヒソカさんが優しい顔をするから私もつい笑顔になる。ホテルへの帰り道、こっそりヒソカさんの腰に手を回してみた。あと一週間と少ししかないのが悲しいけど、目一杯楽しもう!





+++++++++
 三ハロリクエストその6。ヒソカ贔屓らしくなってきたというか、小鬼と二つ続けて恋愛色が強くなってきた。それも鯉伴もヒソカもロリコn……。大丈夫だ、鯉伴はともかくとして、ヒソカは年齢差10歳以下だから。最近流行りの年の差だから大丈夫だ問題ない。

 ちなみにプリンテンはドイツ・アーヘンのお菓子。ヨーロッパ=ヨルビアンだからそのまま流用。
10/23.2012

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