小鬼と示すアイの話3



 小鬼との初会話から一カ月が過ぎ、彼ら二人とは放課後に十分ほどおしゃべりする仲になった。普通の妖怪なら「キイキイ」と鳴いているだけにしか聞こえないだろう小鬼の言葉も、小鬼だった十数年のお陰で話せるし聞きとれる。


「鈴、鈴んちにあそびに行きたい!」

「オイラも! 鈴んちってどんなだ!?」


 二人は、たった十分のおしゃべりじゃつまらないと騒いだ。――お父さんもお母さんも妖怪が見えてる様子はないし、連れて帰っても問題ないかもしれない。


「そうね、二人がちゃんと自分の家へ帰れるなら着いて来て良いよ」

「それなら平気だ。ここら一帯でオイラたちが知らない道なんて一本もないからな」

「そーだそーだ。鈴はたった十年とちょっとだろ。オラたちはもう四百年以上もここらでくらしてるんだ」

「そう言えばそうね」


 ということで二人を連れて家へ帰ることになった。ここらはあまりひと気のない道だから、両親には学校の域帰りに護衛を付けるべきだと言われている。だけど学校で他の生徒に私がやくざの子だと知られると面倒が起きそうだということで断っている。

 ――でも、護衛を付けておいた方が良かったかもしれない。今の私は銃で脅されて車の中、どこかへ連れて行かれようとしている。彼らには小鬼が見えてないらしいのが唯一の幸運だね。


「鈴、大丈夫なのか? オイラ助けよびに行こうか?」

「そうだぞ、奴良家はおっきな妖怪一家だからな。鈴をゆーかいしたこいつらなんて一瞬でひき肉にしちゃえるんだ」


 小鬼は人間とは違い、妖怪だ。妖怪の感性を持っている。私も前世のお陰でその残酷さを知っているし、私も同じように残酷だ。だけど今は平成の世だから、人間をそう簡単にひき肉にしたらいけないんだよね。


「目的地に着いたら、場所を覚えて助けに来てもらえるように頼んでもらえる? 私は鈴川組の長女鈴川若菜。奴良組傘下の一つだから」


 世界が変わったら本家も変わっていたと気付いたのは、こちらに来てすぐのことだった。本家の奴良組が云々とお父さんが話しているのを耳にしてこっそり調べてみれば、なんと本家は浮世絵中学を挟んで我が家と真反対にあった。でも奴良組って妖怪任侠でしょう? 我が家には人間しかいないのに……。まあ、何か理由があるのだと思うけどね。

 小さくボソボソと小鬼たちと話して、少なくとも誘拐された地点から三十分は車で揺られた。身体検査を受けてないから銃をまだちゃんと持ってるけど、私の横に座って銃から手を離さないこの男がいる限り出番はなさそう。出す間に殺されちゃうよ。

 銃で小突かれながら外へ出れば、ここはどこかの建築会社の資材置き場らしい。開きっぱなしのシャッターの向こうに建材が見える。その一つに投げ込まれ、両腕を後ろに回した状態で手錠をかけられ転がされる。

 こう言う時は相手を挑発するようなことはせず、唯唯諾諾としていろと言われている。何かで反抗すると暴行を受けるかもしれないからだと聞いた。


「こんな何も出来ないし言えないような娘っ子があの鈴川の跡取りとはな、笑わせるぜ。なんか言ってみろよ」


 小鬼たちが、何度も私を振り返りながら駆けて行く。冷たい床に転がされたままの私を、誘拐犯の一人がニヤニヤと足の先で突いた。


「……私を誘拐した目的を、教えて頂けるのであれば知りたいですね」

「あ? んなもん言うわけねぇだろ」


 ブラックスーツにサングラスという個人を特定し辛い恰好かもしれないけど、冷静に観察すれば特徴なんてすぐに掴める。計画を立てたのが何人なのかは分らないけど、実行犯は二人。一人は運転手で一人は私を脅して車に連れ込んだ人。運転手は肌の色と鼻から口元への輪郭からしてハーフか白人、もう一人はちょっと塩素系のつんとした匂いがする。


「ま、お前みたいなのでも人質に変わりはねぇ。身代金をがっぽり頂くぜ」


 なんて分りやすい誘拐の理由だろう。それともこれは誘導? 後で私を誘拐した証拠だ、とか言って身代金目的と思いこませるために会話させるつもりなのかな。まあどっちであれ、小鬼が助けを呼んでくれているから安心して人質をしていられる。このままここに放置されるのならもっと楽なのに……私から目を離してくれないかな。





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 3こそ鯉伴を出すと言ったけれど、そこまで辿りつきませんでした。うぐわぁぁぁぁ!!
10/22.2012

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