Summer War Games
※注意 今までになく顔文字と記号、スラングが濫用されます。チャットという形で使用しているのですが、そう言う表現が苦手な方は読み飛ばしてください。
窓から差し込む光を光源に、キーボードをガタガタ打ってアーマードドラゴンの足を殴りつける。平行してパーティチャットが物凄いスピードで流れ、まだ余裕のある後衛と違って大忙しのオレは「くぁwせdrftgyふじこlp」とか意味のない言葉をタイプする。ヨハンとぽめが「前衛集中汁wwwwww」とか「遂に頭がおかしくなったおww」とか言ってるが、それに反応をする暇はない。ぽめは今生放送中だからそっちでも忙しくしてるらしい――戦えよ。
『……邪悪なる輩を浄化せよ、ホーリィ・フレイム』
発動させるための呪文が一分近くあり、強力なものの使いづらさとネーミングセンスの悪さでは定評がある、最上位呪文の一つであるホーリィ・フレイム。ドロップ品が倒し方で変わることはないからこそこうして焼き殺すのが普通ってか楽な方法だ。だけどアーマードドラゴンには強度の炎耐性があり、一定以上HPとMPを削らないとホーリィ・フレイムが効かないというのは本当に有難くない。
だからこそ前衛職の二人でちょっとずつアーマードドラゴンのHPMPを削っていったと言うのに全く、後衛二人はサボりすぎた。やっとぽめが神聖上位魔法を打ったけど、それまでしりとりするとか何なの。
アーマードドラゴンの断末魔の悲鳴が上がり、炎の中でしばらくのたうち回ったと思えばガクリと動きが止まり、画面にクラッカーとくす玉が登場した。
『おめでとうございます! イベントナンバー・360「対アーマードオールドドラゴン戦」はチーム・ケモナーによりクリアされました』
くす玉からは『祝☆360クリア!』と書かれた幕が垂れ、クラッカーは紙吹雪を舞わせる。――今回のイベントは良くある「大型モンスターとその眷族モンスターの来襲」で、アーマードオールドドラゴン以外にもリザードマンとかがウン千匹と押し寄せてくるから街を防衛しながらモンスターをせん滅するという内容の物。イベント開始直後は二百以上のパーティが参加していたはずが、気が付けばオレたちしか残っていなかったという残念さだ。
中衛見習いっつーか準メンバー扱いのあっちゃー以外は全員レベルがカンストしてるし、オレとぽめは転生済みのチート仕様。ぽめはネオニートとか言って「宝くじを当てたオレに死角はないお(`・ω・´)キリッ!!」とか言う引きこもりだし、オレは両親がネグレクト以前に帰宅さえしないネオネグレクテッドだから時間なんてあり余るほどある。小学校なにそれ美味しいの?
今回のイベントで運営からプレゼントされたのは『竜人族への転生権』――このゲームで初めに選べる種族は人族だけなのだ。オプションとして獣耳とかを付けることは出来ても、人族以外の種族、例えばエルフ族や獣人族はNPCイベントもしくはこういう企画のイベントをクリアしないと選択できない様になっている。NPCイベントで取得可能なのはエルフ・獣人・ホビット・ドワーフの四種類で、それ以外のハーフエルフ(人間並みの体力にエルフ並みの素早さとかそういう系)・ダークエルフ・巨人とかは企画イベント取得オンリー。
竜人族は今回の企画でオープンになった新種族だから、新しいこと好きのラブがさっそく垢スロットを買うに違いない。武器や防具には課金せず垢には課金するラブはパーティの内外で変人として有名だ。ちゃんと育成するあたり一概に新しい物好きとは言えないが。
イベントクリアとなって、やっとチャットに参加できるようになった。
ヨハン・ファウスト四世>>>竜人族ってやっぱ体のどっかに鱗あんのかな?(゚_。)?(。_゚)?鱗美人カモンo(^O^*=*^O^)o
ブラジャーラバー>>>知wらwねwえwよwブラの似合う美女作って来るから一時間マテww
マリア>>>いつも思うけどラブたんあばた作んの早いwwww
ぽめっス>>>ラブたんはブラ似合うあばた作んの上手いから楽しみだお(*´ω`*)チラリズムなど認めぬ!!!! これからはモロ出しの時代なのだ!!!!!!!!!!! 装備ブラジャー&パンティーのみでお願いしゃーす‥…━━ * m(゚▽゚* ) ホシニネガイヲ・・・
ヨハン・ファウスト四世>>>ぽめ自重汁wwwwww
刀助>>>ぽめwwwwwおまいはwwwwwwwwwwwww
マリア>>>揺るがないぽめ流石w
ブラジャーラバー>>>そこに痺れる憧れるぅ!
あっちゃー>>>ゴミン、あっちゃーさんチラリズム派なの(/ω\)キャッ///
刀助>>>チラリズムって最高ですかーッ!?
ヨハン・ファウスト四世>>>最高でーす☆彡(ノ゚▽゚)ノ☆彡ヘ(゚▽゚ヘ)☆彡(ノ゚▽゚)ノ☆彡
あっちゃー>>>パンチラムネチラhshs
ぽめっス>>>おまいらはおいらの敵だお(#`皿´)/ぬっころしてやるヾ(*`Д´*)ノ"彡☆
とかそんな下らない話で盛り上がったんだが、刀助が明日から三日東京に出張のため荷造りとかそんなのでログアウトしたのをきっかけに解散となった。
「腹減ったな……」
窓の外を見れば、もう日は傾いてオレンジ色になっている。そろそろ弁当が届いてても良い頃のはずだ。のそのそと玄関ドアの横の箱を開けると、炊き込みご飯のお弁当が入っていた。味噌汁はインスタントで良いよな。
オレは、朝はベーコンエッグとサラダとパン、昼はインスタント麺、夜はお年寄り用の宅配弁当という生活を送ってるから、運動してないことを除けば案外健康的だ。もちろんこんな生活を送り続けていて良いわけがないとは分っている。が、転生した親が祖父母の遺産を食いつぶしながら遊び回ってて、息子であるオレには毎月十万送る以外何もしないこの現状では、色々なやる気が萎えるって言うの? 家に送られてくる税金の書類もオレが書いてるし、もう良いやと達観したっていうか。どうせ前世で中の上レベルの大学行けたし、小学校に行く必要性も感じないし。
弁当をテーブルの上に置き、割り箸を食器棚の引き出しに放り込んでマイ箸を取りだす。弁当に割り箸が毎回付いてくるけど溜まるばっかりだ。
手を合わせて、食べる。人との交流はネット界で十分ってか、リアルに会える人間が信じられないって言うか。オレが赤ん坊の時から駄目夫婦だった両親のせいで、今のオレはどこに出しても恥ずかしくない人嫌いだ。だっつーのに。
「美晴くぅーん! 聖美おばさんよーっ」
「いるんだろ、ヨシハル」
食後しばらくして、扉の向こうからの呼び声とチャイムの音。来なくて良いのに、他人なのに、どうしてここに来るんだ?
「また来たの」
扉を開けずにそう声をかければ、おばさんが優しいトーンでオレに語りかけてくる。
「うん、美晴君が心配だもの。ここ開けてくれる?」
「ヤダ」
「そっか……でも、おばさんはヨシハル君に会いたいな」
「ヤダよ。人なんて信じられないから」
しばらく沈黙が続き、オレは「もう来ないでね」と一言かけてドアの前から離れる。他人の子供なのに毎日よく続くな、この二人。初めはしつこいと思ってたけど、今じゃその根性に拍手を送りたいくらいだ。ドアの前でのこの問答、もう半年になるんだぞ。
顔を見たことがない相手だけど、半年も続けるそのしつこさっていうか粘り強さだけは尊敬してる。そろそろ信じても良いかなと思わなくもないけど、まだ勇気が出ない。人と目線を合わせるのなんて何年ぶりだって話だし。
一週間後、初めて開いた扉の向こうに立っていたのは、なんかどっかで見た覚えがあるような気がするチビと、やっぱりどこかで見覚えがあるようなおばさんだった。池沢佳主馬? えっと、サマウォ?
+++++++++ 原作を知ってはいるものの、キャラクターは覚えていても世界観の設定は覚えてなかったという。ちなみにマリアが夢主のプレイヤーキャラ名。 10/18.2012
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