黒羽根のタンツェン3



 元々ここで友人なんてものを作る気にはならなかったから、オレの周囲にいるのはボンゴレの利権狙いとごますりだけだ。あとの奴らはオレの強面に勝手に恐怖して近づいてこない。

 そう思っていたんだが。


「う゛ぉぉぉぉおい! 御曹司ぃ!」


 入学から一月が過ぎようという頃。この寒い中カッターシャツ一枚の男が、オレの前に躍り出た。こんなしゃべり方をする奴は一人しか知らねぇ――漫画でザンザスに従っていた男スペルビ・スクアーロだろう。漫画でちらりと描かれていた少年期では短髪だったはずだし、コイツがアレで間違いない。

 突然現れたスペルビ・スクアーロに、取り巻き共がざわりと揺れた。取り巻きといっても勝手に後ろをついてくるだけだが。


「なんだ」

「オレはこの一月、アンタを観察したぁ!」

「そうか」


 ストーカーしてました宣言をされた場合、オレはボンゴレの後継者としてこいつを殺すべきなんだろうか? 単なる養子とはいえオレは権力者だから、コイツは権力者にストーキング行為を働いたバカということになる。だがまあ、正直に自白したことを考えると悪い奴ではなさそうだ。


「アンタのそのストイックさと、その炎みてぇな赤い目に惚れたァ!」


 あまりにまっすぐ過ぎる言葉に唖然とした。「は?」と言っただけで返事をしないオレに対し、スペルビ・スクアーロは言葉を重ねる。


「オレは、アンタの部下になりてぇ!」


 なんとも熱烈な告白じゃないか。初めこそ唖然として言葉が出なかったが、だんだんと腹の底から笑いが込み上げてきた。なんだコイツ、面白い奴だな。


「残念ながら、オレは部下を必要と思っていない」

「ぐっ……」


 顔を切なげに歪めるスペルビ・スクアーロに、しかしオレは右手を差し出す。目を見開くスペルビ・スクアーロ、騒ぎ出す取り巻き共。


「だが、可愛い後輩が欲しくないわけじゃねぇ。せいぜいオレの後ろを走ってついて来やがれ」


 スペルビ・スクアーロはパッと表情を明るくし、上ずった声でおうと返事した。





 御曹司の部下にはなれなかったが、後輩にはなることはできた。御曹司の命令はあくまで「先輩としての」命令であって、ボスが部下にする命令ではないという。オレにはその区別がいまいちつかねぇが、御曹司には気持ち的な問題だと言われた。

 御曹司について回るようになって三日目の昼、御曹司の親――つまりボンゴレ九代目から呼び出しがかかった。次期ドン・ボンゴレの周囲を飛び回る蝿をたたき落とすつもりか、それとも他の用件があるのか。前者であれば叩っ斬れば良いと思いながら迎えの車でボンゴレの邸宅へ入った。

 流石はイタリア最大のファミリーらしく、ゴシック様式の建物はガーゴイルが門の上で睨みをきかせ、門の左右では二対の翼を持つ天使が武器を手に立っている。車で走り抜けた庭には布一枚まとっただけの青銅の裸婦像が池に水を注いでいた。

 入ってすぐの階段を登り延々と続く廊下を歩く。似たような彫刻の扉を二十は通り過ぎたか、オレを案内した男がとある扉の前で立ち止まり扉の横に立つ護衛らしき男に頷いてノックをした。柔和な声が入れと促す。

 室内はボンゴレボスの執務室にしては質素だが、さりげなく上等なものを使っている。そしてそこには、品良く年をとった老人が机の上で指を組んでいた。


「初めまして、私がボンゴレ九代目ティモッテオだ。良くきてくれた」

「スペルビ・スクアーロだぁ……一体どうしてオレをここに呼んだか、教えてくれるんだろうなあ゛ぁ?」

「もちろん。そのために君をここに呼んだんだからね」


 柔和な笑みを浮かべる九代目だが、なんか好かねぇ。オレが元々こういったタイプが嫌いだってのもあるが、あのザンザスの父親というにはなんか違ぇ感じがする。


「ザンザスを学校にやって、あの子が初めて学校で作った友達だから。一目顔を見たいと思ったんだよ。見るに君は良い子だね、これからもザンザスと仲良くしてやってくれ」


 話に花を咲かすわけでもなく、ただそれだけで短い面会は終わった。迎えと同じ男に連れられて学校へ戻る道すがら窓の外を見ながら考える。あの爺さんは本当にザンザスのことを思ってオレを呼んだのか? ザンザスに近寄る人間を値踏みするのは当然だが、ザンザスの考えを置いてけぼりにした行為の様な気がしてならねえ。押し付けがましい愛情とでも言えば良いのか――言葉に出来ねぇ違和感がもやもやと胸を満たした。

 それをサボり場所で吐き出せば、ザンザスからは長いため息が帰って来た。


「あのジジイは」


 眉間に深く皺を寄せ、ザンザスは面倒そうに呟く。


「あのジジイは『オレを息子の様に愛する自分』になりたいんだ。それに振り回されて、勝手にこっちが期待して――結局は裏切られる。オレはあいつが苦手だ」

「『ザンザスを息子の様に愛する自分』かぁ……」


 言われてみればそうかもしれねぇ。


「まあ、あそこまで悪化したのはオレのせいだがな。ジジイはオレの親になろうと必死になりすぎて、馬鹿みてぇに空回りしてやがる」


 ザンザスの顔を見れば、ザンザスは皮肉っぽく唇を歪めて笑んでいた。そこに家族に対する親愛の情なんかひとかけらも見えない。ただ、他人のように思っていることが一目で分った。

 この親子には何かあんのか……? あのジジイが何かヘマでもして息子の信頼を失ったと言うには溝が深すぎるように思える。分らねぇことを悩んでも仕方ねぇ、ちっと調べてみるか。



+++++++++
 勘違い要素は今回は無し。必死に父親になろうとする九代目と、マフィアとは関係ない日本人になって平和な暮らしをしたいザンザスというすれ違いすぎる図式。
10/15.2012

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